第19話 融合
何度もトレーラーに突っ込まれることは避けたい。
裏道を選びつつ、野々村のマンションに向かう。
「トレーラーは、悪霊が操作して暴走させたのですか」
今回の悪霊が持つエネルギーは強大だと、常磐道は話していた。
トレーラーも動かす力があるのなら、勝ち目はないように有江には思えた。
「さすがに物理的に車体やミッションを動かせるほどの力は持っていません。運転手の脳を支配、憑依したのです。アクセルを踏ませて、失神させるだけです。簡単でしょ」
常磐道は、防護服の耳元を摘まんで風を送り込む。
「私たちは、これを着ているので安心です」
有江も耳元を摘まんで空気を入れた。
時刻は、十時を過ぎてしまっている。
一時間遅れで、野々村のマンションに到着する。
車を降りた三人は、目立たぬように移動しようとするが、目立たないわけがない。帽子を被っていない陽人は、短髪全部が網目から飛び出し、タワシのようだ。
三人は、計測機器を両手にロビーに入る。
エレベータから降りてきた小学生男子に凝視される。
階段室から四階まで上る。四階でよかった。
玄関のドアのチャイムを押すと、野々村が顔を出した。
「事故があったようですね。渋滞に巻き込まれでもしましたか」
テレビを観ながら、待っていたようだ。
「いや、事故に巻き込まれました」
常磐道は、笑って答える。
「お話を伺う前に、準備させていただきます」
常磐道と有江は、各部屋のカーテンを開け、持ち込んだ機器をセットして歩く。下根田は、その間にシールド付きのケーブルやバッテリーを取りに階段を下りていった。
準備が完了し、リビングのソファに座って取材が開始された。
テレビを右にして野々村が座り、正面に常磐道が座る。
有江は、計測機器をチェックできるように位置を調整して、常磐道の右側に座った。
下根田は、常磐道の後ろからビデオを撮影している。
「さて、昨日お伺いした現象のほとんどが心霊現象だと思われますが、まだ不明な点がいくつか残されています」
常磐道が口火を切る。
「もし、姉乃さんが亡くなっていたら、野々村さんはどうしますか」
いきなり厳しい質問だ。
「どうするも何も……それが、運命なのでしょう」
野々村は、手を合わせて腕を膝に置きく。うなだれ視線を落とした。
「では、二十三日の水曜日、今日が日曜日ですから三日後ですね。あなたはこの部屋で過ごすつもりのようですが、予言どおり事故で亡くなってしまったらどうしますか」
「死んでしまったら、それこそ、どうすることもできません。運命だったと諦めるしかありませんね」
野々村は、常磐道の突拍子もない質問に苦笑いしている。
「思ったとおりです。では、このマンションで起きた現象を、検証していきましょう。ダンプ事故は、正面の道路で起きたのですね」
「そうです。あのベランダから、外の様子を見たときでした」
野々村が指し示すベランダを、有江は振り返って見る。
「こちらです」
野々村がソファから立ち上がり、ベランダに向かう。三人は後に続いた。
サッシドアに手を掛けようとする野々村に、有江が伝える。
「ドアは開けなくて結構です。この部屋にはセンサーを張り巡らせていますので、わたしたちも反応してしまいます」
サッシ越しに道路は見えなかった。
「道路は、来るときに通りましたのでわかります。ダンプが通るにはせまいですね」
「悪霊は運転手に憑依し、ここまで来たのでしょうか」
有江が、常磐道に確認する。
「私も、そう考えていたのですが、実際に通ってみて複雑過ぎるなと思ったのです」
「複雑ですか……」
野々村は、改めて外を眺める。
「悪霊は、憑依した肉体を操ることができます。しかし、それは脳の一部を支配するだけなので、敏捷性は損なわれ、単純な動作が精一杯です。このマンションに辿り着くためには、何度も交差点を曲がって来なければなりません。複雑過ぎるのです」
「信号ですね」
有江は気が付いた。
トレーラー事故の際も、突然信号が変わり交差点内から出られなくなった。
「そう、悪霊は信号も操作できます。しかし、信号が変わったところでダンプはここまで入ってこないでしょう。信号が変わるのを待つと思います」
「カーナビですね」
今度は、野々村が答えた。事故直後に実しやかに囁かれていた噂を思い出した。
「ネット上ではAIによる操作だと噂されていました」
「そう、悪霊はAIと一体となっていると考えています」




