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恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第二章 断片の収集

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第18話 標的

 誰もいない喫茶店を、有江たちも後にする。

 店先に黒塗りのセダンが停まっていた。

「迎えを呼びました」

 常磐道は、後部座席へと乗り込んだ。

 有江も、遅れまいと後に続く。


「有江さん、無事で何よりです」

 運転席に銀色のフードを被った下根田しもねだが座っていた。

 下根田しもねだ陽人はるとは、有江の住む街の駅前交番に勤務していた警察官だった。調世会と関わるようになり、公安部に異動し、今は調世会本部で勤務している。

「有江さんの護衛として、解決するまで僕も同行します。二〇一号室にいますから、何かあったら呼んでください。この姿で駆け付けます」

 陽人は、車を運転しながら笑った。



 朝七時、インターホンから陽人の声が聞こえてきた。

「おはようございます。朝食を持ってきました」

 手にビニール袋が下がっている。

「一緒に食べましょう」

 陽人は、自分の朝食も手にしていた。

 二人は、小さなテーブルの上にサンドウィッチ、目玉焼き、サラダ、オレンジジュースを広げる。


 ノックの音がする。

 常磐道が立っていた。

「栃辺さん、お話があります」

 有江は、ドアを開ける。

 部屋に入った常磐道は、サンドウィッチを頬張る陽人に少し驚いた様子だ。

「おはようございます」

 陽人が挨拶する。

「下根田さんが、朝食を持ってきてくれて、一緒に食べようと言うので、一緒に食べることにして、一緒に食べていました」

 有江が説明する。

「ええ」

 常磐道は、微笑んでいる。


「朝食をとりながら聞いてください。この事件は、これから先、私一人だけで対応します。栃辺さんは、ホテルに滞在して記事を書いていてください」

 常磐道の提案に有江は驚く。

「なぜですか。わたしも同行します」

「野々村さんから聞いた現象といい、昨夜のポルターガイスト現象といい、今回の霊は粗暴で、強大なエネルギーを持っています。この先の取材で何が起きるかわかりません。栃辺さんを、また危険な目に遭わせることはできません」

 常磐道の説明を聞き、陽人は頷いた。


「いえ、同行させてください。もし、姉乃さんが冥界に囚われているのなら、わたししか救えません」

 有江は、ベアトリーチェの生まれ変わりである。冥界で三次元区間を再現する能力があり、身体を伴って冥界に行き来できる。

「いや、しかし……」

 その点を突かれてしまうと、常磐道は何も言い返せない。


「では、十分に注意してください。食事をとり終えたら、出発しましょう。下根田さん、車をお願いします」

 しばらく考えた末、常磐道は覚悟を決めたように立ち上がった。



 陽人の運転で、野々村のマンションに向かう。

 有江は、後部座席で金属製のバスケットに入れられた流動食を手で押さえている。

 常磐道は助手席に座り、量子通信機を手に本部と通信している。

「停車しないように、調世会で信号を操作しているんですよ」

 陽人が、説明した。

「そんなことを、警察が許していいのですか」

 有江は、陽人をからかった。


 車が、停まった。

 交差点の中ほどで、青信号から赤に突然変わった。先で信号待ちをしていた人々は、横断歩道を渡り始める。

 前に二台、後ろからも交差点に進入してきた三台が、歩行者に挟まれ立ち往生している。

「下根田さん、交差点を出てください! これは操作ミスではありません」

 常磐道が叫んだ。

 右側から向かってくるトレーラーが見える。

「つかまってください」

 陽人はアクセルを踏み込み、勢いよく前方の車にぶつける。

 すぐさま、バックし後方の車にもぶつけた。

 前後の衝突を二度繰り返し、隙間をつくった。

 ハンドルを右に切り、左前方をぶつけながらも車列から抜け出す。前後の車は、けたたましくクラクションを鳴らしている。

 トレーラーは、目の前まで迫っていた。


 そのまま突っ込むトレーラーに前方の車が巻き込まれ、引きずられていくのが見えた。

 人々の悲鳴が、交差点に響き渡った。


 難を逃れた有江たちは、幹線道路から外れ徐行する。

「明らかに、狙ってきてますね」

 常磐道は、後部座席を振り返る。

「もう後戻りできませんが、いいですか」

「そのつもりです」

 額を伝う汗をベールの上から拭いながら、有江は答えた。

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