表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第二章 断片の収集

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/32

第16話 ポルターガイスト

 午前八時、有江は衣装ケースから取り出したニット帽を被り、アパートを出発する。

 大型のスーツケースを二階の部屋から階段にぶつけながら降ろした。

 世田谷区の有江のアパートから大田区のホテルまでは、直線距離で十八キロメートルだが、JR蒲田駅と京急蒲田駅間を歩くのを避けるため、京王線・京王新線で馬喰横山駅に出て、東日本橋駅から浅草線・京急本線・京急空港線で大鳥居駅まで、正三角形の頂点を経由するように遠回りする。

 有江は車を持っていない。調整会からの貸与も打診されたが、運転に自信がなく断っていた。

 十時過ぎ、ホテルに到着した。


 正面入り口の自動ドアをくぐる。ロビーは、照明が消えていて薄暗い。

「おはようございます」

 左手のフロントで、常磐道が待っていた。

「しばらく、このホテルに滞在することになります。設備は、自由に使ってください。二階と八階なら、どの部屋を選んでも構いません」

 常磐道は、フロントから出ると、正面の自動ドアをロックした。

 調世会は、ホテルを貸し切ったようだ。

「八階は、眺めがいいですよ」


 有江も八階の客室を選ぶ。

 部屋には、ダブルベッドが置かれていた。

 有江は、ニット帽を放り出しベッドにダイブする。できれば、この部屋から出ないで済ませたかった。

 カーテンは開いていて、多摩川の先に川崎大師の街並みが見える。

 新鮮な空気を入れたかったが、窓一面にフィルムが貼られ、開けることはできなかった。


 ノックの音がした。

 ドアスコープの向こうには、常磐道がビニール袋を片手に立っている。

「昼食のお弁当と、約束の帽子です」

 唐揚げ弁当と、迷彩柄のサファリハットが差し出された。

 微妙。

「約束の喫茶店まで歩いて十三分です。十六時三十分にロビーで待ち合せしましょう」

 常磐道は、東の角部屋に戻っていった。


 それにしても……暑い!

 有江は、全てを脱ぎ捨て、シャワーを浴びた。


 約束した時間の五分前に、指定の喫茶店に着く。

 先に野々村は着いており、奥のテーブル席で待っていた。

 他に客はいない。

「初めまして、梶沢出版、編集部長の常磐道です」

「担当の栃辺と申します」

 野々村は立ち上がるが、有江たちの姿を目にして言葉を失っている。

 常磐道と有江は、名刺を差し出した。

 野々村は、白のポロシャツにグレーのアンクルパンツ、黒のローファーと、いかにもIT企業の代表らしい服装だ。

 目が合ったので、有江はにっこり微笑む。

 野々村は、養蜂家のようなフードと、所々から覗く銀色の服装の説明はないと悟ったようだ。

「スマホアプリやAIを開発しているソフト・クリムゾンの野々村孝夫です。用心のため、こちらから場所を指定しまして申し訳ありません」


 三人が席に座った途端、ホットコーヒーが運ばれてきた。

 調世会が貸切っているのだろうが不自然すぎる。

 有江は、呆れながらも取材に入る。

「送っていただいた内容を読ませていただきました。会社の方が行方不明だそうですが、警察には相談されていますか」

「もちろん、行方不明者届を出しました。皮肉なことに私たちもAI反対派への事故を画策したと疑われていますから、警察も熱心に捜してくれています」

「まだ、見つかっていない?」

「ええ。私自身、反対派に誘拐もされたのですが、そのグループとは別なようです。それに、単に反対派の仕業にしては、不思議なことが続いて……」

 その時、カウンター奥の食器棚に置かれたコーヒーカップが、カタッと微かに鳴った。

 常磐道は、眼だけを動かしてその方向を見る。続けて、右、正面、左と素早く視線を移した。

 有江も釣られてカウンターを見るが、当然のように店員はいない。


「心霊現象と言っても、全てが未知の現象というわけではありません。不思議な現象であっても、大部分は古典物理の範疇で説明できるのです」

 常磐道が、突如、話題を変えた。

「ポルターガイスト現象というものがあります。誰もいないのに大きな音がしたり、物が勝手に飛び交ったりする現象です。ここでも、その内に食器棚のカップが揺れ始め、テーブル上のメニューが倒れます。窓は震えて、壁のアンティーク照明は割れ……」

 常磐道が話している間にも、店内のアクリル板のメニューがバタバタと倒れ始めた。

 カウンター奥の食器棚は、ガチャガチャと音を立て始める。

 上部が緩やかなカーブを描く格子窓は、ビリビリと震える。

 三灯の壁掛け照明は、一瞬明るくなった後に電球が切れた。

 カップと窓の揺れは五秒ほど続いて、静かになった。

「どういうことですか」

「どういうことですか」

 有江と野々村は、同時に常磐道に尋ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ