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恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第二章 断片の収集

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第15話 準備

 その日の午後、さっそく調世会から防護服が届けられる。

「改良されたそうですよ」

 常磐道は、有江を慰めるように言葉を添え、届いた紙袋を手渡した。

 悪霊は、自身が持つエネルギー量によって、さまざまな攻撃を仕掛けてくる。物を動かして物理的に攻撃ができるエネルギー量の大きい霊は、それほど多くはない。たいていは、毛細血管を破ったり、脳波に作用し幻覚を生じさせたりと直接人体に攻撃を仕掛けてくる。それらのエネルギーを遮断するために防護服を着るのだ。


 紙袋から取り出した。

 銀色に光る上着とズボン、靴下、手袋などが入っている。それぞれ、金属繊維で編み込まれており、非常に軽い。通気性もよさそうなので、上着の中に着込むこともできそうだ。二か月前のサウナスーツに比べれば、格段の進歩を遂げていた。

「では、着替えてきます」

 若干機嫌を取り戻した有江は、防護服を持って更衣室に向かった。

 悪霊の攻撃は、時と場所を選ばない。投稿者と連絡を取った瞬間に攻撃を受けるかもしれない。

 今にでも、呪い殺されるかもしれないのだ。


 冥界は、時空を超越していることがわかっている。

 霊体は、いつの時代でも、どこにでも現れることができるはずなのだが、実際は、そうでもないらしい。日本の幽霊は海外には現れないし、西洋の悪魔は日本に姿を見せない。

 時空を超越している世界でも、空間移動はそれなりのコストがかかるようだ。

 しかし、霊が近距離を瞬間移動することはよくある。

 国内での取材に関しては、投稿者と接触する前に完全武装で臨むことにしている。


 有江は、防護服をブラウスの下に着こみ、更衣室から出てきた。

「やっぱり、重ね着すると暑いですね」

 頭を包み込むように被った銀色のフードからは、ネギ坊主のように髪の毛が所々跳び出している。ベージュのスカートからは、銀色の二本の足が突き出していて、放電している巨大なコンセントのようだ。

 銀色の手袋で額の汗を拭おうとした有江は、薄いベールで顔を覆われていることに気が付き、手を止めた。鼻が、むず痒い。


 常磐道も、着替えを済ませていた。

 有江と同じパーツ構成のはずだが、ズボンを穿いていることや、パナマ帽を被っているため、銀色の露出が目立たない。耳元や手足に見える銀色は、近未来的なファッションに見えなくもない。ぎりぎりセーフか。

「わたしも帽子が欲しいです」

 完全アウトの有江が言った。


船越川ふなこしがわさんから、ホテルの準備ができたと連絡がありました。明日の朝にチェックインしますから、滞在する準備をしてください」

 船越川は、有江もよく知る調世会で常磐道の下で働く女性だ。

 悪霊退治の期間中、滞在するホテルは、調世会によってシールドが施される。慣れたもので、半日と掛からず作業を終えたようだ。

「今日は、投稿者と取材の約束が取れたら、退社しましょう。これ、通信機です」

 常磐道は、調世会が開発した量子通信機を一台机に置いた。


 シールド内の部屋では、電波や音波などが遮られ、一般の通信機は使用できない。そこで、量子もつれを利用したこの通信機を使うことになる。冥界と現世間でも通信できることは実証済みであり、開発者は「ヘルフォン」と物騒な愛称を付けている。

 有江の自宅のアパートには、既に三台、置いてあった。

 ダンテとの通信、愛永との通信、調世会との通信。一対の量子もつれを観測して通信するこの技術では、一対一のデータ通信しかできない。

 有江は、ずっしりと重い文鎮のようなヘルフォンを手に取った。


 有江は、投稿者の野々村に、取材申し込みのメールを送る。

 五分ほどで返信があり、明日の十七時に野々村が指定する喫茶店で会うことになった。


 十六時十分、退社する。

 命には換えられない。電車内での視線は我慢する。

 シールドが施されたアパートへと着く。生活するには不便だが、調世会が生活費一切を面倒見てくれているので、文句は言えない。

 有江は、防御服を脱ぎ、シャワーを浴びた。

 帽子は用意してくれるのだろうか。

 それだけが、心配だった。

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