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恐怖はAIから始まる  作者: ことぶき神楽
第二章 断片の収集

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第14話 梶沢出版

「部長、募集フォームから応募がきてますよ」

 梶沢出版株式会社で編集に携わる栃辺とちべ有江ありえは、ひとつ先のデスクで新聞を広げている編集部長に声を掛けた。

 梶沢出版株式会社は、創業二十五年、有江と同い年になる。総務部と編集部合わせて十五名の小さな会社だ。今年度から大阪支社が開設され、営業を兼ねた編集者として二名が増員されているが、わけあってのことだ。


「どうせ、ガセネタでしょうが、一応確認しますか」

 編集部長の常磐道は、新聞を畳み、パソコンを開いた。

 サテン生地のベストは、常磐道の細身の長身に合っている。

 スマートな姿は、いかにも仕事ができるイメージを醸し出しているが、実のところ出版業界のことは何ひとつわかっていない。それでも部長職に就いているのには、これまた、わけがある。


「大田区からの投稿ですね。この地点は一か月前に空間エネルギーの異常を感知しましたが、それ以降は何もない場所です」

 常磐道は、フォームの住所欄を確認して言う。

 気分を盛り上げるために言っているわけではなく、空間に滞留するエネルギーを実際に観測している。


 常磐道じょうばんどう勝清かつきよには、もうひとつの顔があった。

 常磐道は、公益財団法人日本宗教調世会に所属している。こちらが本業と言っていいだろう。

 日本宗教調世会は、神道、仏教、キリスト教などの加盟する代表団体からの会費と、宗教法人からの寄付金を財源に、代表団体から依頼される宗教に関する調査研究を行っている。

 表向きは。

 実際の仕事は、冥界からの干渉を観測、調査し、場合によっては阻止活動を行う。平たく言えば、悪霊退治だ。

 常磐道は、その実行部隊である調整部長を務めている。


 この突拍子もない任務を遂行している常磐道が、梶沢出版にも籍を置いているのは、現代日本に現れた十四世紀初めのダンテ・アリギエーリとベアトリーチェの生まれ変わりである有江を見守っているという、これまた突拍子もない理由に他ならない。

 その上、ダンテと有江とで冥界を旅してきたという突拍子をも突き抜けることが起きている。二人が冥界に行っていた期間は、大阪支社を開設するための出張だったと取り繕ってはいるが、正直に話をしたところで誰も信じないだろう。


「現象としては、冥界からの干渉のようですね。取材に行きましょうか」

 常磐道は、概要を読み終え、有江に告げた。

「わたしは、担当作家先生の初出版が控えているので遠慮したいです。愛永まなえさんかダンテさんにお願いできないですか」

 有江の三歳上の先輩である仁廷戸じんていど愛永まなえも、この突拍子もない事情を知っている。

「ダンテ先生と仁廷戸さんは、ロケット打ち上げの取材に種子島に出張しているのは、知っているでしょ。それに、ガセと決められない以上、他の編集者には頼めません。必然、私と栃辺さんが行くことになります」

 有江は、口をへの字に曲げ、露骨に嫌な顔をした。


「どのくらいで解決しますか」

「それは、取材してみないとわかりません」

 冥界からの干渉を阻止する場合、悪霊の攻撃から身を護るため、極端に行動が制限される。

 宇都宮市での百目鬼事件では、暑い最中の一週間を銀色の防護服を着て過ごさなければならなかった。

 常磐道の「現代の鬼退治に興味ありませんか」という口車に乗せられ、同行したのが運の尽きだった。

 ダンテと愛永と有江の三人で、人通りの多いオリオン通りを、サウナスーツで駆け抜けた恥ずかしい思いは、二度と味わいたくなかった。

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