第13話 契約者
「姉乃を失った自分には、何も残らない」
野々村は、暗い森の中を歩きながら思った。
道は、まっすぐ続いているが、先は暗くて見えない。昼間にしては薄暗く、夜にしてはぼんやりと明るい。振り返るが、同じ景色が続いている。
どこに向かって歩いているのか、わからなかった。
「今まで、AI反対派に対して、防戦する一方だった。その弱気な姿勢が、姉乃への事件を引き起こしたと言っていい」
野々村は、今までの行動を悔いる。
「姉乃さんは、救えますよ」
いつの間にか、背後に男が立っていた。
森の中では不釣り合いなタキシードを着ている。細面にオールバックが似合うその男は、手にしているステッキをコツコツと地面に打ち付けた。
「野々村さんが、姉乃さんを救いたいと強く願えば願うほど、反対派を強く憎めば憎むほど、それは容易く成し遂げられます」
「あなたは……」
野々村は、黒づくめの男が敵か味方か判断できず、言葉を飲み込んだ。
「私は、契約者です」
男は、野々村の疑問を察したかのように答える。
それ以上の質問を遮る合図のように、男の目が暗く冷たく光った。
「姉乃を、救えるのか」
「もちろんですとも。遅くはありません」
救えるのであれば、何でもしよう。
もう、遠慮はしない。
「その意気込みです」
男は、言った。
「あなたは……人間なのか」
野々村は、先ほど飲み込んだ言葉を発する。
「正直言って、違います」
「AIなのか」
「まさか。私は、契約者です」
野々村は、忘れていた。
男は、同じ目をしている。
かなり歩いたはずだが、景色は変わらず、時間がどれほど経ったのかもわからない。ここに着いた時と何もかもが同じだった。
「そうと決まれば、ここは、あなたのいる場所ではありません。さあ、行きましょう」
男は立ち止まり、野々村と向き合った。
男が何者であっても、もう構わない。
野々村は、覚悟を決めた。
同じ過ちは、繰り返さない。
「姉乃を二度と死なせはしない」
野々村は、心に誓った。




