嫉妬の様な物
主人公「春斗」と親友「陽向」の日常
まだ少し寒い風が肌を撫で、温かさは片鱗をみせる四月。
僕の親友、松田 陽向は空を舞う花びらへの興奮を抑えきれず人生十七回目の桜とは思えないほどに陽気な足取りで数メートル先を歩いている。
高校二年生の始業式当日、初日から遅れてくる陽向と僕に先生は呆れて物も言えない様子だった。
僕たちのクラスがまた一緒なのは、仲のいい僕らへの先生からの配慮だろう。
クラスの皆は一年生の時から問題児だった僕らを見て、またお前らかといった様子で特に気にも留めていなかった。
陽向はそんなクラスメイト達に向かって「ごめんな皆、これお土産」そう言って教卓に道中集めた桜の花びらをポケットから出して広げた。
しかしポケットの中でもみくちゃにされた花びらたちは見る影もなく形が崩れている。
陽向はやってしまったと言わんばかりの表情で変わり果てた桜の花びらだったものを見つめている。
クラスは大きな笑いに包まれた。
男子たちは
「まじかお前」
「しっかりしてくれ」
と笑い、女子は一部を除きドン引きである。
その様子を横から見ていた僕もさっき陽向に
「これポケットに忍ばせとけ」
と渡された花びらをタイミングを見計らいポケットの中で少し揉んだ後、教卓に雑に投げた。
さらに汚い花びらが広げられたことにより、先程クラス替えで顔を合わせたばかりのはずのクラスメイト達は皆顔を向けあい爆笑を起こしていた。
僕たちは教卓の下で静かに拳を合わせた。
その後、先生の怒りを買い片付けた後に職員室に呼ばれた。
「何がしたかってんお前ら」と先生が問う。
「面白かったでしょ?」と陽向が思い出し笑いながら答える。
そこでまた先生の怒りを買ってしまい、大した説教にならないはずが三十分程怒られた。
長ったらしい説教を終え、僕たちは職員室を後にした。
皆には天然な馬鹿二人に見えたかもしれない。
しかしこれは陽向が計算してやったことだ。彼にはそれができる。
親友の僕だけが知っている。
やってしまったという顔も全て作り物で、陽向の笑いの一部なのだ。
僕はそんな彼の才能や無邪気な姿に嫉妬を覚える事が度々ある。
だが同時にとても誇らしかった。
彼はいつもまっすぐで自分に出来ないことは無いと信じているし、周りの誰もその人間性に疑問を持たなかった。
容姿も整っていて、スポーツ万能、勉強も人並み以上。
陽向は全てを与えられているように僕は感じた。
「春斗」
彼が僕の名前を呼ぶ。
「帰ろうぜ、俺ら以外皆もうおらんわ」
「誰のせいやねん」
「傑作やったやろ?」
答えになっていない。
「でも先生も何が気に入らんかったんやろうな」
陽向が言った。
しかしその表情に不満は無く、満足そうにすら見えた。
数分で済む説教を数十分にまで伸ばした、その過程と結果を彼は楽しんでいた。
「何で分からんねん」
気づかない振りをして僕は言った。
学校は僕たちの地元から数キロ離れた隣町にあり、僕たちは電車と徒歩で毎日登下校していた。
その帰り道に桜の木が並ぶ一本道があり、ここは僕の好きな空間だった。
陽向がその道の脇にあった綿毛の生えたタンポポを引きちぎり、空に吹いた。
僕は彼に歩くスピードを合わせその様子を隣で見ていた。