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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

乙女ゲー喧嘩漫遊記

作者: 成亮

初投稿です。

王立エルメール学園高等学校一年十二組。サイトの評価星1のクソゲー、ロマンティック宇宙戦争の舞台である教室の対極に位置するクラスの端っこに前髪が目元までかかったいかにもな感じのインキャがいた。

 誰も気にも止めないモブ、作り込みが面倒くさくて瞳が与えられなかったであろうモブ。そのせいでただでさえ暗い廊下側の端が一層暗くどんよりとして見える。


 そいつが、俺だ。

 残念ながら、俺だ。


 まだ悪役に転生してくれた方が原作知識無双しやすかった気がする。デブでギャルに絡まれていた方が前より変化があった気がする。


 ストーリーの開始、つまり入学式から1ヶ月近く経っているにも関わらず、友達が出来ない。オタクに優しいギャルもいないし、ヒロインとの接点もない。


 そこには虚無があった。そして今世でも変わらず勉強に打ち込むしかなかった。


 今頃ストーリーでは部活に恋愛に今度行く校外学習の計画に、青春を謳歌しているんだろう。主人公の性格、選択肢、攻略対象全てが終わってるので羨ましく無いが。


「おい、ちょっと面貸せや」

 あぁそうそう、変わったことが一つだけあった。

「ちょっと金貸してくんねぇかなぁ?」

 いじめを経験した。我が浅い人生で初めての出来事である。担任に相談しても対処してもらえなかった。


 なんでも、いじめグループが攻略対象の1人で侯爵家子息、パルミジャーノ・レッジャーノの部活での取り巻きらしい。これで担任がビビってると、いじめられ仲間の掃除担当ソージ君に聞いた。因みに彼もモブだ。


 この時点でもうツッコミ所が多いが、この理不尽を乗り越えるチート(コミュニケーション能力含む)を俺は持っていない。加えて、転生した事に気づいたのが入学1週間前なのもツイていない。これじゃ下準備もくそも無いじゃ無いか。


「おい無視すんなよ下向いちゃってさぁ!」

 いじめっ子Aが俺の胸ぐらを掴む。一発殴っとくか、と溢して結局2発殴って椅子から落ちた所を一回蹴った。椅子の骨が背中にぶつかって痛い。殴られた場所は知らん。


「おいそろそろ来るぞ!」

「ホームルームか、また来るからね〜」


 俺はダンマリを貫いて、そうしたら奴らも唾を吐きつけて去っていったので少しだけ勝った気がした。


 担任が車で絡まれ、先生が来たら終わる。これが1週間近く続いている。終わりが見えてこないというのは、なかなかに辛いものだと思った。他人事のようだが。


「おまえら〜席に着けー」

 視線を向けたら顔を逸らされた気がした。自意識過剰なのは分かっているが、憎しみが積もっていく。どうやら俺は何処でも拗らせることができるようになったらしい。

「昨年度の寮の火事の件で、修理が完了したそうなので来れていなかった生徒が今日から来ます。まだ入寮していない生徒は明日までに入るように。」


 話が終わればすぐに1限の先生がきて、授業が始まって、終わって、絡まれて、それを何度か繰り返した。そうして放課後になった。


 辺境伯だから、ツテのある商会の一室を借りて俺は初日から来ることができた。

 何故辺境伯なのに舐められるのか、田舎者がバレるのか不思議でならない。貴族だから不登校にもなれない。つらい。


 話を戻すと、子爵以下はこちらに別荘や拠点を持ちずらい。にも関わらず、荷物が多くなるように新学期はなっている。王都の宿を一ヶ月取るというのも、経済的に負担が大きい。


 そういうことで、恐らく寮の同室はこちらに高圧的に出ないだろうという希望的観測があった。

 実際がどうかは、会ってみないとわからないが。


 寮の外観はお世辞にも良いとは言えなかった。塗装はポロポロ剥がれ落ちて、一部屋の大きさも十分では無い。前下見に来た時は随分と寂れた様子だったが、今日は人が居て活気がある。想像よりかは幾分かマシかもしれない。いややっぱり人が多いのは遠慮したいかな…


 階段を上がって自分の部屋の前に着くと、何故か日本刀を腰から提げた男が頭を捻らせて仁王立ちしていた。何故。


「すまん、部屋の鍵は左回しで合ってるか?さっきから全然開かないんだが…」


 身長は170無さそうだが、良すぎるガタイと腰の刀が圧倒的な威圧感を放っている。ちびりそうだ。


「あの、そこ俺の部屋なんですけど。」


あまりにも意味不明すぎる。鍵に自分の部屋番号書いてある筈だが?この寮は右回しだが?

「えっ」

振り向いてくる男。ここまで学ランが似合う男も珍しい。声もてっきり太い唸るような声を想像していたが、ガチムチ筋肉に反して爽やかだ。比較的に。

「えっ」

突然振り向いてきたから驚いて声が出てしまった。見れば制服の前を着崩している。


目線が交わる。少し静寂が訪れてから、どちらともなく間の抜けた声を出してしまった

「「えっ」」




事情を聞いた結果、例の男は俺の部屋の右隣さんだったらしい。物騒な格好をしていたにも関わらず、陰キャに優しい人物だったことが判明した。持ち前の筋肉で自分の部屋をパパッと準備した後にこちらの部屋に荷物を運ぶところまで手伝ってくれた事を鑑みるに、底抜けに親切な筋肉らしい。やはり人は見た目に依らない事がよく分かった。


「手伝ってくれてありがとう。何も無いけど上がるかい?コーヒーぐらいなら淹れることが出来る。」


「じゃあ、お言葉に甘えよう。」


 その後暫くして互いに身の上の話をする流れになった。ゲームにこんなキャラの濃い男を見た記憶は無いのでとても気になる。


「その剣カッコいいね、見ない形してるけど」

 それとなく探りを入れてみる。

「あぁ、確かにこっちじゃ見ないだろうな。」

 彼によると、地元の入手したらしく適当な所で買ったとのこと。無銘で、全長約103cm。観賞用と見紛うほどの美しさを誇り、一目で名刀だとわかる。無銘だが。


「刀が好きでね。これは偽物を掴まされたようだが。」


「そうなのか?凄い切れ味が良さそうだけれど。」


「偽物だから悪いと決まった訳では無いらしい。そう言って貰えると嬉しい。」

 そう言ったら刀の話はそれっきりになって、故郷について尋ねる機会もまた逃した。


「刀の話はいいんだ。それより学校はどんな感じなんだ?」

 彼は男爵なので、今日から寮より通学することになる。


「あぁ、まぁ、変化は少ないけれど、大変はいっぱいあるよ。」


()()()()、友人はいるのか?」


訛りを転生してから初めて聞いた。仏頂面で質問を投げかける姿はとても威圧感がある。


「まぁ、構ってくる人はいるかな?」

男は仏頂面の眉間をますます険しくしてこちらに尋問してくる。

「会った時から思っていたんだが、なんでそう傷が多い。」

 咄嗟に問われて言葉が出てこない。

「殴られたんだろ。その痣。話してみろ。」

 ガタッと音がした。それは椅子から発せられていて、気づいたら席を立っていた。

「君には関係無いだろ。」

 俺はそう吐き捨てた。願わくばこれで帰ってくれと思った。親切な彼なら、これで帰ってくれるはずである。


「誰だ?相手は。やられっぱなしでいるつもりか?」

 予想の斜め上の答えが帰ってきて豆鉄砲喰らった鳩みたいな気持ちになった。いや、でも、状況ってもんがあるだろ!首突っ込んでくるか?初対面で。

「相手は僕よりも上位の貴族を擁するグループだぞ、殴って退学になったらどうするんだ!?」


柄にもなく紳士を捨てた態度で接してしまう。気づいていなかったが、自分に相当な鬱憤が溜まっていたらしい。

「でもあっちは殴ってきてるんだろ?どうしてそこでやり返さない?」

 彼は心底不思議そうに言った。ぶっ飛んでやがる。


「わからないかよ!だってそれは…」

「それお前の今において重要か?」

「っ!そりゃ未来に繋がるんだから重要だろ!勘当されるかもしれないんだぞ!」


「そんな泣きそうになりながら生きるのか?先にある未来って今のお前にとってそんなに大事か!?」


 自分より大きな声を出されて冷静になった。俺は半狂乱になって叫んでいたらしい。自分より熱くなっている人を見ると頭が冷える。


 俺はもう泣くのを隠さなくなって、過呼吸のまま元いた席に着いた。「それでも、怖いだろうが……」

一回殴り返しても勝てなかった。そこから俺は特に絡まれるようになった気がする。


「お前が怖いと思うなら、俺が代わりに殴りに行ってやる。」

「え?」

 赤い目を腫らして見上げた。実際のところは分からないが、少なくとも気持ちだけは見上げようとしていた。


「今辛いなら、明日も辛い。どこかで変わるかもしれんが、変えることが出来るのは自分だけだ。」

 彼は続けて言った。

「やり返さなかったら一生やられ続ける。舐められるとはそういうことだ。舐められるなら、死んだ方がマシだ。」

 俺は少し放心して彼を見上げた。心なしか自分よりずっと大きく見えた気がした。

「うっ…うぅ。」

 泣いた。できるだけ静かに泣いた。どれだけ泣いていたかはわからないが、気づいた時にはもうインスタントのコーヒーが勝手に入れられていた。


 目の前の武士が笑って見せた。

 飲んだ。


「薄っす」

「初めてだからな。」


 そう言って2人で笑った。今まで飲んだどんなコーヒーよりも美味かった。


 そう言えば名前を聞いていない。

「名前は?」

「俺か?俺はイサミだ。」


 そうして俺はこの世界に来てから一番自然に声を上げて笑った。

「君がイサミなら、僕はトシだ。」







「ねぇ聞きましたよ!僕ら隣の部屋だったんですね!」

 開きっぱなしのドアを突っ切ってソージ君が来た。


「えっ、どんな状況ですか?」



少し時間が立って、ソージ君はイサミに懐いた。

 最初はどうかと思ったが、存外、相性が良かったらしい。

「そういえば、なんでトシさんになったんですか?呼び名。」

「あぁ、それはアルバート・シルヴァバレトだから」真ん中を取ってトシに無理矢理した。と言った方が正しい。

 ソージ君はイサミには敬語だ。不思議だが、しっくりくるらしい。


「よし、そういう訳で明日早速喧嘩しに行くぞ!集合場所はどうする?」


「!?ちょっと待て、明日か?」

 急すぎる。ただでさえビビっているのに対策すらしないのはどうなのだろうか。

「明日だ。思い立った日が吉日ならその日以降は全て凶日と、言うでは無いか。」


「それにしたって準備ってもんがあるだろ!これじゃただ殴られに行くだけじゃないか!」


「怖いのか?俺は怖く無いが。」


 こいつ!!

「あの、それなら一度相手の様子を見た方が良いと思います。」

 そう言ってソージ君は控えめに手を挙げた。声も少し聞き取りづらかったが、それが帰って彼の意見をよく聞こうという気にさせた。


「喧嘩をするには大義名分が必要です。親元に迷惑をかけないためにも。」


「いじめたられたからやり返すで良いんじゃ無いのか?」

 至極当然のように言ってみせるイサミ。

 それが罷り通るなら先生は適切に対応してくれた筈なんだが?俺から感情任せの言葉が出る前に、ソージ君は続けてくれた。

「それだけじゃ権力に対して弱いでしょう。僕らはもっとインパクトのある物を別の権力者に言わないと。」


「その為の準備か。」

 イサミが納得したようだ。俺も敵の弱みや汚点を白日の元に晒してから殴りたいと思う。喧嘩の作法は昔からある。そしてそれを守らなければならない。後のためにも。(特に風聞)

 しかし、そんな都合の良い権力者がいるかどうか。



「いや、待てよ、味方してくれそうなのに心当たりがあるかもしれない。」


 賭けにはなるが、原作知識の使い所だ。



 日を跨ぐ。

 あの後の作戦会議によって、俺たちは後を追うことになった。令嬢の。


「トシさん。これストーカーって奴だったりします?」

「いや、これは必ず実を結ぶぞソージ。」

 俺には確信があった。なんたって、件のクソゲーにいるんだからな。同じ名前のエネミーが。


 ツインテールの美少女。少し小柄で、可愛らしく緑の束ねられた髪を左右に揺らす姿には愛嬌がある彼女。髪の色は多少扱う属性に左右されるという話もあるが、本題から離れるので置いておく。

 とにかく、原作のグロいモンスターとは似ても似つかない。


 アイオーン嬢という。学園の生徒で、誘拐後略奪。生物兵器にされた経緯のある令嬢。作中では可哀想な背景が無駄に語られ、それっきり。


 主人公たちの反応も薄く、悪辣な敵組織を描写したかったんだろうがプレイアブルキャラの薄情さに目が行ってしまう。しかもめちゃ強かったしアタッカーの攻略対象ばっか攻撃してくるし。


 話が逸れたが、誘拐される前にで敵幹部の元へ通っていたのは原作知識で判明している。彼女を追えば必ず会えるというわけだ。目的の権力者へ。





 尾行途中、角で女子生徒とぶつかった。

メガネを掛けているが、美人を隠し切れていない。女子に耐性がないのでぶつかるだけで意識してしまう。すごくやめて欲しい。

「あっ!?ごめんなさい!」

 沢山の本を抱えて前が見えていなかったんだろう。ここは図書館からも近い。必然、本が散らばってしまう。

「大丈夫ですか?」

「はい…」

 落ち着けトシ。前世でも一切触れてこなかったJKとぶつかったぐらいで男は余裕を乱さないものだろ!

 それからは無心で落ちた本を拾った。早過ぎる回収。俺でなきゃ見逃しちゃうね。自分の荷物を置くまでして、最優先で遠ざかろうとした。

「ではこれで。」

 そうやって俺は逃げ去った。

「あのー、これ…」

 自分の荷物を置いて行ったことに気づかぬまま。

 この間尾行仲間は連れションに行っていた。運が悪い。何がではこれでだよアホ!考えうる限り一番情けないじゃないか。




「なにかありましたか?」

ソージが挙動不審な俺の様子を見かねて話しかけに来た。少しニヤついてんな?

「何もなかった。」

「そうですか。」

ソージは解ったような顔をしてあっさりと引き下がった。全く、良いやつなんだが、なかなかいい性格をしている。


 そんな昼下がりの裏庭、イサミがちょうど眠くなるような朗らかな天気の下で動きはおこった。

「あっ!」

 アイオーン嬢の体が何者かに引っ張られて急に消えた。生徒数が万を超える舞台だからこそ出来る学院内誘拐である。今日敵幹部と接触したかったが、もう遅かったらしい。誘拐の時だろう。


 イサミは何も言わずに駆けて行った。ソージ君は俺を一瞥してから恐れるようにその後を追った。

 それにしても大胆な行動だ。人通りが少ないとはいえ、学校側が認めていなければ無理と思われる犯罪。



 いや、違うな。今考えなきゃいけないことはこんなことじゃない。

 足が震えて動けない。いざ悪意を目の当たりにして頭真っ白になっている。自分の事をそこまで俺はわかってる。

 決行を遅らせたのも怖気付いたからじゃないのか?本当は殴り返す気なんてなかったんじゃないか?やりたくないならやらない方が良いんじゃないか?



(今辛いなら、明日も辛い。どこかで変わるかもしれんが、変えることが出来るのは自分だけだ。)

 ふとこの言葉を思い出した。ハッとした。

 泣き言を考えている場合では無い。

 すでに2人は向こうに行ってしまっている。

 賽は、投げられている。


「ええい、当たって砕けろだ!!」

 敢えて言葉に出した。多分使い方は違う。悩むことは重要だが、男にはそれよりも大事な『まず行動』の原則がある。昔、父親に与えられた戒だ。


そうして俺はあまり時間を空けることなく仲間に続いて動くことができた。


 大きな声を挙げたので、風にかき消されることなくなかなかの飛距離を記録したと思われる。


さて。

日陰はジメジメして気分が悪くなると思う。

ただ日陰者はもっと気分が悪い。性根が湿気ってカビていていけない。日陰者と陰キャの区別についてはここでは触れない。


現場に着いた時、一陣の風が吹いていた。座り込んでいるアイオーン嬢。状況証拠的に、何をされようとしていたか推測するのは容易い。


見た顔がいくつかある。それらは例外なくソージ君の足元に転がっていて、白目を向いていた。当の本人はカカシのように突っ立っていた。それ以上でもそれ以下でも無い。強い精神力だ。俺ならひっくり返っていた。


「イサミ、これは君が?」


つまらない事を聞いた。声が震えてしまったが、同時に安心感もあった。

「下がれ、トシ。」

視線の先には攻略対象が1人、パルミジャーノ・レッジャーノ。ゲームでは心強いアタッカーだった。



「6人だぞ?素手なのに一瞬じゃないか。流石剣術一位。」

どっしり構えて、余裕を崩さない。ありがちな整った顔と赤い髪が心底うざったかった。


「男爵1人なら良かったが、辺境伯家に更に1人か。これは些か事が大きくなりそうだな。」

奴の仲間内の誰かが言った。例外なく慣れている。俺たちと争いになるなんて大したことだと思っていないと、言外にそう告げている。


「・・・」

「何故こんな行為をする。目的はなんだ?」

極めて冷静にイサミは尋ねた。


「何故?はっ。そいつらがにわか貴族だからに決まってるだろうが!!」

笑ったり怒ったり忙しいやつだ。


「俺は学園を、尊い血を護らなきゃいけねぇんだよお前らみたいなのからなぁ。」


成程、何となく話の筋が見えてきたな。

貴族でなくとも、大きな功績を挙げればその末席に加わる事ができる。言われてみれば、ソージ君やアイオーン嬢といい、新しめの家がターゲットにされている。一代貴族は、例が無いから解らないが。


「丁度いい、今日ここで終わらせてやるアルバート。お前の家は特にな!」


「!!」

モブの歴史について一々調べる必要は無いと思っていたが、やっておけば良かったな。


「トシ、気圧されるな。現実逃避してる時間はないぞ。」


一触即発。空気が張り詰める。

このままやり合うには多勢に無勢すぎるが、そうも言ってられないだろう。


「やってやるさ。」

震える脚に気合いを入れる。苦手意識は気のせいだ!

なし崩し的にここまできたが、間違いなく俺の意思だ。そう思って息を深く吸って―次の瞬間、驚きの余り情けなく吐かれた。


「校内での許諾のない決闘は校則によって禁止されています!」


「チッ、お仕事精が出ますねぇ風紀委員?」


「貴方また暴力沙汰を起こして…今度という今度は家に庇ってもらえないわよ。」


「さっきぶつかった猫背文系美人!」


「あっ、これは、バックを置いてってたから渡そうと思って、それで…」


この子は何に対して言い訳しているんだろう?探して偶然この場所に来ただけだよね?何十分も経ってるし、ストーカーしてきたわけでもあるまいしね?


ブーメランではないと思いたい。


「そうか、要件が済んでよかったな。回れ右して帰れ。」


緩んだ空気が元に戻る。風紀委員らしき女子生徒はハッとして声の主を睨んだ。

「パルミジャーノ!この件は私が公表するわ、揉み消せると思わないことね。」


「おーお怖い怖い。そんなんだから王子との不仲の噂が流れるんだぜ。」

「ッ」

「まぁ公爵家の言うことだ、お前ら下がるぞ。」


こうして危機は去った。アイオーン嬢も助かったし、誰も傷ついてないし完璧じゃないかな?

ソージ君の足元の奴等が引き摺られるのを見て少し気分が良くなる。なんか大事になりそうな予感はするけど…


アイオーン嬢のため休憩するのでソージ君の部室を借りることになった。ソージ君が部活動に既に加入していた事実に驚くばかりである。


その部室で。

眼鏡をかけたツインテールロリが白衣を着て鎮座していた。アイオーン嬢、属性盛りすぎである。


「ソージ、一体どんな部活に加入したんだ」


「アイオーン部長と僕だけの精霊科学部です。」

拗らせている身としてはどこか友人が遠い所に行ってしまった感触がある。


「ソージ、なんで知り合いだって教えてくれなかったんだ。」

ストーカーの意味がたった今消し飛んだ。だいぶ気まずい状況ではないかな?


「すみません、目的がわからなかったので。それより、ドゥカーレさん、危ない所をありがとうございました。」


見惚れるような話題の転換である。突然話の流れがきた風紀委員のドゥカーレ公爵令嬢。同学年らしい。

慌てふためいた様子で、しかしハッキリと返事を返してくれる。こんなキャラ原作にいたっけ、、、


「通りがかっただけですから。それで、事の経緯を説明願えますか、アイオーン先輩。」

話せる範囲で構わないので、と付け加える。


「うん。まずは助けてくれてありがとう。ドゥカーレ公爵令嬢、ソージくん。あと愉快な仲間たち。」


朗々とした王子様系のイケボ。見た目と相まって違和感が凄い。

「部活でもソージって呼ばられてるのか?」


ここまで黙っていたイサミがここで食いつく。

「あぁ、彼がそう望んだからね。」

こんな感じでアイスブレイクの後、その部長は事件の全貌を語り始めた。


この国の貴族は、基本的に実力主義になる。

 新興貴族や外交官はこの影響が強いらしい。しかし、王政である以上どうしても血の信仰はある。逆を言えば、伝統的に文化基盤として革命が起こるたびにその血族を神輿にするなり、神の(正統な)の子孫や代理者としての名目を携えて為政者であることを主張することをしてきたわけである。


 勿論のこと、これは建前である。ファンタジーな世界観だから話がややこしくなっているが、前提として現人神はいない。天は人の上に人を作らず。これに尽きる。


 300年。この国が建国されてからそれだけの年月がたった。嘘から出た真とは言い得て妙だが、時間が経つほど信頼の価値は増加してゆく。建前ということがわからなくなる阿呆が出てくる。


 結果として今問題に関わっているのが、血による差別意識である。それが高位貴族の若者に流行し、学園という貴族が集まるデリケートな場所で現れてきたと言っていい。


 アイオーン部長(以下部長で統一する)は、つい先日まで数人の友人と共に部屋の隅で静かに過ごしていた。ここに、上にあった通りの無差別な迫・害・が襲う。


 まず友人の一人が失踪した。なんの予兆も無く、何か書き残すことも無い。部屋は生活感がまだあって精神面もすこぶる快調だったことが判っている。


 生徒は誘拐の線をまず疑った。それほど不自然だった。しかし、公的機関は失踪として処理しそれっきりである。お役所なのに仕事が早い。


 同様の事例が多くあったこの学園でも、最初のうちは徹底的に調べたらしい。


 ただ、いかんせん人数が多い。人手が足りず、どの事例も証拠が一切無いという事で諦めたしまったのかもしれない。消える生徒も親が領地を持たない女子に限られていたので問題が大きくなり過ぎることは今まで無かった。余りにもずさんという他ない。


 ここで部長は思い立った。自分で調べればいいじゃないか、と。


 そこからは早かった。最初の数日は順調だった。決定打はないものの、面白いくらいいくらでも根拠が転がっていたのである。(流石に犯人の特定はできなかったらしいが)


 そして遂に、偶然とはいえ犯行現場を仲間の一人が目撃したのである。

「犯行グループは月の始めに決まって誘拐をする。何十年前からあった話だが、今年に入ってからは頻度が上がったみたいだ。」


「すげぇ、探偵みたいでカッケェな」

「イサミ君、静かに。」


 ドゥカーレさんが注意をするとイサミは神妙な顔に戻って話を聞く体勢に戻った。


 そして、目撃した生徒も翌日失踪した。その日を境に仲間達が一人づつ減っていき、最後に彼女が襲われた

 というのが話の流れだった。


「急にホラーになったな」

「私も思ったけど、イサミ君黙って。」


 ドゥカーレさんは続ける。

「それで、襲われた時に何か手掛かりになる話はありませんでしたか?思い出せる範囲でいいので。」



 部長はぽつりぽつりと話し始めた。どのような犯行手口だったか、それがどれほどの恐怖だったか。そして―なんか廊下騒がしいな?ここ人通り少ないはずなのに。


 気づいたら部長は泣いていた。なんかソージが声をかけているが、聞き逃したっぽい。


「分かりました。僕達で先輩達を救いに行きましょう!!」


 待ってわかんないわかんない。一瞬でどんだけ話進んでんの?


「それにしてもネクテールの吸血鬼か。強そうだな。」

 イサミが不敵な笑みを浮かべる。新しい単語出さないでくれ話ついていけないから。


「私はついて行けませんが、その分こちらで出来ることをします。ご武運を。」

 教えてくれドゥカーレさん。俺はこれからどこに行くんですか?


 とは、言わない。言えない。雰囲気的に。


「俺たちならきっと救えるさ。行こう!吸血鬼を倒しに!」

 ハッ、なんか口からとんでもなく臭いセリフ出たな?


 報復を先延ばしにしてストーカーしてたらなんか吸血鬼討伐に行かされる件について。


 そうしていると、外の喧騒が看過できないレベルになってきた。

「外が煩いな?何かあったか見てくる。」

 俺は足早に部室から去った。居た堪れなすぎて辛い。


 そうしてトイレに向かうと、衝撃的な出来事が待ち構えた。



 廊下にて。野次馬がごった返している。中心はもちろんレッジャーノ一味、というわけでも無く。


 第一王子と愉快な攻略対象たちであった。ここにレッジャーノは無論含まれる。


「よぉアルバート、また会ったな」

 赤い脳筋が爽やかにガン付けてきた。関わりたくないなぁ。


「そこの君!この部屋の中にフォンティーナはいるかな?」

 確信を持って問いかけてくる圧が凄い王子様。珍しい、ヒロインと一緒じゃないのか。

「ファ!?知らないっすねぇ」

 驚きの余り俺の中の闇が出てしまった。待て、フォンティーナって確か…


「間違いなくフォンティーナ・ドゥカーレはここに居ますけど、何か?」


 間違いない、悪役令嬢だ!


「そろそろレッジャーノに言い掛かりを付けるのをやめたらどうだ。ここ最近ずっとだ」


「あなたは見て無いからっ」


「口だけならなんとでも言えるさ。僕の用は、君と口論をすることじゃ無い。この部室を明け渡してもらう為だ。」


「それはなんで…」

 俺は続きを言おうとして気づいた。部員が規定に達していないのである。


「あぁ、君は知らないんだったな。部員が失踪してしまっただろう?去年結果を出していたから許されていた部室も、多くの生徒が使いたがっている。ルールに則った明け渡しだ。」


「なら、私達が入部します。」


「え?」

 たった今俺の部活が決定した。

「ふむ、そうするとー」

「部室を貰いたい俺らと決闘してもらいたいな。ドゥカーレ公爵令嬢?」


 そう、2年のレッジャーノの剣術部創部イベントであった部室のための決闘イベントは校則に則ったものだ。


 しかしこのイベントは二年次の筈だ。


「まぁ、もう決闘の噂は流れてるけどな」


 逃げられない。精霊研究部は策略に嵌められたのだった。


――――――――

トシです。今、私は蒸気機関車に乗っています。テンション上がるなあ。


 一泊二日の吸血鬼の城観光ツアー。朝8時から貨物列車に無理を言って乗り込んだので、圧倒的に安い。

 なんたって、タダですからね。タダ。


 何故私が皆さんが妬ましくてたまらなくなる豪華な旅行に出ることができているか。


 その理由を、お話ししましょう。うっ頭痛(回想)。


 ――――――――――――――――――


 ネクテールの吸血鬼について、あの後ソージに聞いてみた。ゲームではそんな名前は無かったので少し恐ろしくもある。


 なんで急に吸血鬼が出てくるのか。話を遡ると、誘拐した遺体(恐らく膨大な量だろう)をどこに処理したのかという話に繋がってくるらしい。


 曰く、300年生きる怪物。

 曰く、血肉を喰らいその見た目を保つ。


 部長は襲われた時、ネクテールの洋館に連れて行かれるという話を聞いたらしい。真偽は定かではないが、死体を遺棄する場所としては適当なようだ。巨大なスラムがあるからだろう。わざわざ仲間内の場所でブラフを吐くとも思えないので、ほぼ確定と見ていい。ここからネクテールまでは少し距離があるのでまだ間に合うと、部活の消えた先輩を助けに行こうというのが聞き逃した内容だった。


 ネクテールという歴史ある都市に関しては後述する予定だが、吸血鬼も原作で聞かない。とすれば、眉唾物の噂だ。深く考えることはないだろう。


 思い返してみればソージがあの場を仕切っていた気がする。主人公適正の差が見えてきて少しジェラシー。


 場面変わって王子との話の件の続きである。


「部室を賭けた闘い、ですか。」


「うん、前からこの部活は人数が少なかったから部屋を狙われてたね。みんなが戻ってきてくれれば後輩の人数も含めて少しは風向きが変わると思うんだけど。」


 そう言って弱々しく笑ったのは部長。

 俺としても最終目標は奴らをボコボコにすることだったので別に構わないが、何か相手方の思う通りに進んでいる気がするのは癪だ。


「ドゥカーレ公爵令嬢、すまない。こんな事に巻き込んでしまって。」


「いえ、風紀を守るのが役目ですから。」

 彼女の笑みに翳りが見える理由を知っている。

 幼馴染が歴とした犯罪を行う場面を間近で見れば、誰でも良い顔はしないだろう。


 話は変わるが、俺は当初彼女が件の悪役令嬢だと気づかなかった。


 余りにも顔つきが異なる為である。

 髪型はツインドリルだし、化粧はきついし、雰囲気も刺々しかった。この先入観を持てば一眼で見抜くことは不可能だときっと思ってもらえるだろうと思う。誰がこの文系メガネの天使がかのような変貌を遂げると予想できるか。


 時に、人の人相というものは変わってしまうらしい。主にストレスによって。


「それで、決闘の場所や日程についてですが…」

 ソージが話し始める。


「一切未定、追って伝えるはちょっと舐められてるんじゃないか。」とイサミ。


「仕方がありません。生徒会も忙しい時期ですから。それにこちらに手配する力も拒否権もありませんから。」


 決闘システムについて聞きたかったが、ゲームの通りだろうと考え直して口をつぐんだ。差位はあとで聞けばいいだろう。


「ただ、今すぐでないのは私達にとっても有難い話と言える。お陰で仲間達を連れ戻す猶予が貰えたのだから。」


「しかし部長、あまり時間がないのもまた事実です。捜索はすぐにでも始めるべきでは?」


「明日からちょうど連休だからね。移動手段は私に考えがある。」


 全員が一斉に視線を向けた。部長は一本指を立ててドヤ顔で言った。


「蒸気機関車だ。」


 ―――――――――――――――――――――


 はい、頭痛終わり。


「おーい、そこでなに棒立ちしてる。早く着替えろ!」


 あぁ、言い忘れていた。これ、貨物列車。not乗客部屋。結論から言えば、無理言って乗せてもらっている。という事になる。


 出された条件は、炭入れの手伝い。

 レッジャーノ一味に追跡されぬよう確かに身分を隠しているとはいえ、この世界の貴族ハードすぎないか?


 俺とイサミとソージで行く、男三人旅。

 なんでこんなにも心踊るフレーズでこんなに辛い旅にできるのか。


 実際はアイオーン部長もいるんだけど、操縦席を見学している(というか、そこ以外に居場所がない)ので俺は拗ねてカウントしてない。


 ネクテールの洋館までのルートで必ず通る場所があるので相手より先にその場所に着けば俺たちの勝利になる。(あれだけ強いイサミがなんとかしてくれるだろうからね)とは言え、もっと良い方法はなかったのかと思わなくはない。他力本願で自分に怒りが湧くが。


「トシ、来たな。」


 イサミとソージは先に着替えていたらしい。

 汚れてもいいような服に暑さ対策のバンダナ。ソージの細い身体はなんとなく文化部という単語を想起させる。ファッションモデルみたいで顔も整っているから作業着を見ると何故か笑えてきた。


 一方似合いすぎて怖いイサミがこちらに真剣な目を向ける。


「ちょうどいい機会だ。アイツらをぶっ飛ばしてやるためには今のままではいけない。だから、この場を使って身体強化から根本的に俺が鍛えてやる。」


「有難い話だけど、身体強化のカリキュラムは二年次からだろ?もうイサミはできるのか?」


 イサミは力強く頷く。ゲームシステムと違って律儀に順序を守る必要がないことに俺は気づいていなかったらしい!


 いや、実際に体を動かすのとボタンを押すのでは全然違うんだが…


 そんなことを考えていると、イサミはおもむろに小指を立ててこちらに向ける。波◯使いを彷彿とさせるポーズだ。


「イサミさん、僕たちはこれから何をするんでしょう?」


 ソージの疑問はもっともだ。スコップ持って波紋修行は聞いた事がない。


「まぁ、追って話す。一度聞いてくれ。」


 そう言ってイサミは俺たちの後ろに回って急に背中を叩いた。小指を立てた意味とは。


「入学試験に合格したわけだから、全員魔力を感じる事ができてる。でも、」


 イサミは悠然とスコップを手に持った。


「手から水とか石を出すとか、それだけだ。魔力は体に馴染んでいるとは言えない。」


 馴染むというのがよくわからない。世界観考察の余地与えるのやめてもらっていいか?


「そも、魔力という呼び方は正確でない。俺はこの生まれ持っている、体を巡るエネルギーを精霊力と呼んでいる。略して精力。」


「イサミさんそれ略す必要ありましたか?」


 話が逸れそうなので自分から振っておく。

「それで、精霊力って呼ぶのに由来が?」


「あぁ、実はそれは今重要じゃなくてな。後で話す。」


「()」

 時間を気にしているのか、イサミは少し早口気味だ。


「今、無理矢理叩いて感じ取れるようにした。これは感覚だから、感じ取れる内にそれを体に覚え込ませておきたい。」


「それで、スコップに繋がるのか」


「あぁ。身体を動かすのが一番手っ取り早いからな。」


 結局、俺とソージで交代交代窯に炭を入れる事になった。


 やってみると想像以上に大変だが、体力が尽きるのと感覚を掴むのとどちらが先か。


 スコップを握りしめた時点で、頬を撫でた風が気持ち悪い事だけがやけに気になった。


「少し様子を確認しに行く。」


「?イサミさん、ついて行きます。」

 ローテーションが2回ほど回った頃、突然ひとりぼっちになった。


 いや、別に男がこんな狭いところに汗びっしょりで集まっても何もいい事はないのだが、それはそれとして。なんの様子を見に行ったのだろうか。


 近くには家から持ってきた斧、窯、積み上がった炭。


 あまりにも寂しい。そのくせ圧迫感だけがあるので、蒸し暑い車内と合わせて環境はすこぶる悪かった。体験したことのない肉体労働はこんな感じだったのかと思う。体験してみたいとか言えない。インフラを整える職種に頭の上がらないな。


「そうだ、俺の武器に名前をつけてやろう。歳三といえば兼定だから、もう兼定でいいや!」


 暑さで気が触れそうだ。いや、もう手遅れかもしれない。身体の感覚に集中しながらも、口だけはやけに動いて錆びたやる気のない斧にただ話しかけた。せめて研いでくれば良かった。まぁ、吸血鬼はあくまで噂なので大した戦闘になることはないだろうが。


 幾らか日が斜めになった頃、それが耳を突いてきた。

 ピーッ!!


 突然汽笛が鳴る。驚きの余り周りを見渡すと盗賊の2文字がスッと耳に入る。と思えば、オッサンがドアを開けて入ってきた。痩せたオッサンである。最初に炭の入れ方を教えてくれたオッサンなので、先生という印象がある。


「小僧!今何してる!」

 くわっと目を開けて叫んだ。すると俺もびびって

「炭入れてます!」


 頭真っ白にして返事をする。


「襲撃を振り切るぞ!よくある事だ!気合い入れろ!!」

「ウッス!」

 どうやら襲撃はよくある事らしい。向かう場所が治安の悪い地域である事は違いないが、慣れる?えぇ(困惑)。護衛くらい雇っておけよ。

 なんでみんな逃げないんだよ。泣きそう。


 ――――――――――――――――


 少し遡ってイサミ達である。


「暑いところから離れるのはいいですけど、イサミさん。何で僕たち屋根の上に?」


「ソージ、武器はあるか?」


「え?今待ってますけど…」


「追手だ。」

 その言葉を聞いてソージは目を開いたと思えばこらして、後ろをみやった。


 屋根の上に不審者がいた。1人ではなく、それも五人程。


「屋根に乗ってる時点で不審もクソもないな」


「イサミさん!?言ってる場合じゃないですよ!」

 どうしますかと、視線で訴えかけるソージ。対する答えは―


「悪いが、1人で頼む。脅威なのが前から来てるからな」


 話している間にも、追手は迫ってくる。服装から得られる情報はなかった。炭のせいで全員黒服になっていたからだ。ちょっと面白いとソージは思ってしまった。


 なるほどこれなら護衛は要らないだろう。汽車はすでに縄で捉えられる速度ではないし、後ろから追って追いつく方法はない。なんとか引っ付いても木の枝と炭の粉塵が容赦なく襲いかかる。(この世界の木の枝はかなりの硬さを誇る)これを突破出来るほど対策された時点で下手な護衛はやられてしまうだろう。


 そこまでする程の価値はこの荷にはないというわけだ。

 そんなわけで、イサミが背を向けて逃げるのを合図に追手が襲いかかってくる。


「困るなぁ、イサミさん。まぁ、期待には応えますかねっ!」


 貴族なら誰でも入れるとはいえ、かつての超優秀な士官を育成した名門校の中では平凡のソージである。


 魔法、剣術、どれもが人並み以上。練度の悪い暗殺者に真っ向から戦って遅れをとる気はない。普通の盗賊ではない分、不安も大きいが。


(よく見なくても、こいつら傭兵崩れじゃないか)


 装備の質や統率力、仕事の選ばない所から思うに、随分と依頼を失敗したのかもしれない。イサミが1人で任せるのだから大した相手ではないのだろう。


 しかし―


「5対1って卑怯じゃないかな!」


 そう言ってソージは前衛のナイフを避ける。後ろに避けて後衛の射線上に前衛の男を置くと、鍔迫り合いをしながら後ろの相手を盗み見た。


 後衛3、盾持ち1、目の前に1。

(!?容赦なく詠唱か!)


「【風刃】」

「【火球】」


「ウッ!?」

 風の刃と炎が前衛の男にあたって爆ぜる。

 威力はそこまででもないが、男を落とすには十分な衝撃。


「【火球】!石炭の上なのに!?」

 ソージは横目で落ちていったものを見る。よく見えなかったが、あの落ち方は助からないだろう。


「コイツが例の男ならかまわねぇ!まず列車を止めて他のやつからやれば良い!行け!」


 リーダーらしき人間が指示を出す。


(させるか!)


「土の精よ、巻き起こせ【砂嵐(デザートテンペスタ)】」


 目眩しだが、風が強いので足止めには十分。


 跳躍。


 重い鎧を纏った盾持ちを側面から思いっきり押してやると華麗に石炭にキスを決めてくれたので有り難く足場にする。


「【火球】」「【風刃】」


 迫る魔法に目を逸らさずソージは片腕を相手に向けた。


「【岩弾(ロッカバレット)】!」

 魔法の撃ち合いになった時、貴族はまず負けない。

 魔力が多いからだ。自然、練習が増えて練度が上がる。詠唱速度も上がっていく。


 結果、撃ち合ったのは最初の数発だけで後衛も吹っ飛んでいってしまった。


「さぁ、あとは君だけだね。」

 ソージは剣を振り払う。

「舐めやがって!ぶっ◯してやる!!」

 男も、剣を勢いよく引き抜いて上段で襲いかかってくる。

 と、思いきやフェイントをかけて胴を狙ってきた。


 しかし、ソージはやはり受け切り、避け、後退する。

「どうしたぁ!守ってばかりじゃ勝てないよなぁ!」

 男は満足げな表情を浮かべる。


 対してソージは作業の後の戦闘で疲れ切っており、疲労の表情を見せた。足場も悪い。激しい振動が下から突き上げるので、勢いがなければかなりの劣勢を強いられてしまうだろう。このままでは、負ける。


(賭けに出るしかない!)

「やぁぁぁぁ!」

「はっ!」

 ソージは威嚇して前傾姿勢に。男は今度こそ上段で襲いかかってきた。


 ここで盾持ちの身体に男は足を引っ掛ける。


 ソージはここぞとばかりに直進。体勢が崩れた男を下から上へと切り上げた。


(思ったより上手くいったな)

 初陣で五人はかなりと言える。殺気が消え去ったのを肌で感じつつ、ソージはイサミとトシの事を思った。


 青年は人を殺したことを気に病んではいない。ただ彼の胸を初めて他者からの期待に応えた、達成感が満たした。


 心情とは裏腹に、翳ってゆく太陽をただ静かな目で見ていた。


――――――

「あぁ、身体強化が掴めねぇ!」


 頼れる友人達が揃ってどっか行った後、俺とオッサンはひたすらスコップを動かし続けた。


「身体強化じゃ名前が随分味気ないよな。やっぱここは一つカッコいいのを付けるしかないかなぁ?」


 息絶え絶えになりながらぶつぶつと言ってみる。仮におっさんに聞こえたらとんでもないことになりそうなので、凄く小声だ。


「小僧!命が掛かってるぞ踏ん張れ!」


 転生してからずっと踏ん張っている気がするがそれはどうなのだろう。


 汽笛が鳴ってから幾らか経って、ソージがこちらにやってきた。


「トシさん、大丈夫でしたか?」

 脂汗が大量に滴っているように見える。魔力切れでも起こしたのかな?あ、精霊力か。


「何故か生きてるかな」

 適当に返事をしておく。すまないソージ、踏ん張りどころだから気が抜けないんだ。


「後ろの襲撃者、全員やりました。今イサミさんが前にいる何かを倒しに行ったところです。」


 ここでオッサンが疑問符を浮かべる。


「後ろから?来るなら前からだろう、どうせネクテールに巣があるんだから。」

 確かに、前から来たならば前方から汽笛が聞こえないとおかしい。後ろから追いつく方法があるとも思えないしな。


「あぁ、汽笛は僕が鳴らしておきました。どの紐引っ張ればいいのかよくわからなかったんですけど。」


「おい、それなら嬢ちゃんと前の奴らは、クソ、見に行ってくる。小僧、手を緩めるなよ!」


 そう言ってオッサンは走り去っていった。不穏な言葉を残すなと言いたい。言われてみれば、襲撃者はどうやって追いついたのだろう。事前に潜伏してそこら辺で引っ付いてから前と後ろの車両から挟もうというのだろうか。ありうる話だ。


「トシさん、すみません、代わります。」


 ローテの話を思い出したのか、申し訳なさそうに俺のスコップを持とうとしてくる。


「まて、ソージ。今いいとこなんだよ」


 肩で息をしているソージにこれ以上負担をかけるわけにはいかない。


「駄目だ全部手応えが変わらない」


 動きが洗練されいたずらに体力を削るばかりで一切の進展がない。


 そこから、俺は無心で体を動かし続けた。揺れで兼定を思い切り踏んづけても、気付かずに動かし続けた。ソージは黙ってこちらを見ることにしたらしい。


 不意に思い返されるこの世界に来てからの思い出。

 踏んだり蹴ったりな入学の後、人に絡まれないように歴史を学ぶべく学校の図書館に向かったりもした。知識から何か得られるものがないか散策してみても見つからないアイテム。あって欲しいと何度願ったかわからないチート。


 違うよな?


 イサミに出会ってからずっと考えていた。


 人生2度目のアドバンテージはそんなものじゃないだろう。俺は、他の同年代よりもずっと多く失敗した経験がある。


 前世で俺は何を得てきた?何を考えて生きてきた?答えはきっと一つじゃない。パッと簡潔に答えられるものでもないんだろう。


 ただ今一つわかることは、不安の中から救ってくれたイサミに、ソージに報いたいということだけだ。報わなければいけないということだけだ。


 俗に言われるトランス状態。これに入った時、人は極限の集中力を発揮する。ひたすらに身体を動かして、どれだけ時間が経ったか判らない。が、不意にモヤが晴れたような、点と点が繋がったような感覚を掴んだ。


 《朧げながら浮かんできたんです。かっこいいネーミングが。》


「何もしないでいた俺を!おんぶに抱っこな生き方を今ここで!」


克服する(Getover)


 ――――――――――――――――――――


 時速120kmを優に超えて走る。


 少し下り坂だろうか、この状況を知るあらゆる者の想定を振り切って転がり続ける車輪はなるほど確かに彼等の命を救うことになる。


 そんなことはつゆ知らず、イサミは前方に迫り来る脅威を見据えて刀を構えていた。


(来たな)


 クラシカルなメイド服が靡いている。イサミですら確認できたことはそれだけだった。


「ッ!!」


 傘による刺突。間一髪で避けたイサミは反撃のため持ち手を握り直し―


 後ろに跳んだ。


(仕込み傘か!)

 見てみればつい先程こめかみのあった位置に傘の先端が、刃を煌めかせている。


 陽は落ちた。

 視界が幾らか悪くなるので、長いリーチを誇る仕込み傘は仕込みが判明したにも関わらず依然として脅威である。


 一対一で勝負した時、イサミはめっぽう強い。双方相手に一撃を入れるため、通常なら距離をまず測るだろう。事実イサミもそうした。


 しかし、このメイドらしき女に定石は存在しない。近づいて、刺殺する。それしか頭に無いような動きをして見せた。


 当然、イサミは鮮やかに反撃の一撃を加える。


 右肩への鋭い突きが一つ。誰が見ても、動脈まで抉った様に見える。致命傷だった。


 ところが一切減速しない。声も上げない。呼吸も崩れない。


(違う、呼吸が崩れないのではない。これは呼吸をしていない!?)


 大きく傘が薙刀のように振り下ろされる。堪らずイサミは後退し、足元の石炭を蹴り飛ばした。


 傘が開かれ、ことごとくが防がれる。


「鉄製か…」

 ここで知能はある事が確認できた。肩を抉ったにも関わらず動きに一切の変わりがない。


 回復、スーパーアーマー、馬鹿力。暗闇と相まってトシが遭遇すれば躊躇いなくクソボス認定する化け物がそこにいた。


(得物が長ければ)

 車内では動きが制限されるはず。そう思ってイサミは横から窓を割って車内に飛び入った。


 勿論、貨物列車なので先頭車両ということになる。


 自然、イサミはそこで休んでいた部長も容赦なく巻き込む。追ってきた化け物の姿も、ランプに照らされてようやく明らかになった。


「「うわっ」」

 何が不自然かと言われたら具体的には答えられないだろう。しかし何もかもが不自然だ。


 優雅な動きと血色の悪い顔。裏腹に気味の悪い笑みと一切の悪意を感じさせない眼差しがある。


 驚いたことに肩の傷は存在しない。あれ程の手応えにも関わらず、だ。


 ただ、彼らが声を上げた理由はそこではない。


 凄まじい嫌悪感。これに尽きる。


 ゴキブリに似ているかもしれない。視界に入ると鳥肌が立ち、悪寒が体を襲う。


 とにかく得体が知れない人物である。人間かどうか怪しいとイサミは思っていたが、今確信に変わった。


(人間ではあるまい)


 その頃部長はロリータな体を起こして目を白黒させていた。頭を打ったのか、状況の整理ができていないようだ。


 一瞬の静寂。張り詰めた空気が部長を窒息させる前に、件の女は動いていた。


「・・・」

 窓の外を覗いてから、女は初めて口を開いた。


「ようこそお越しくださいました。私はネクテール伯爵家のメイド長、ヴィアにございます。貴方様方は奥様から館へご招待されております。よって、私がご案内のため参りました。」


(だとしたら随分なご招待だな)

 言おうとしたが、言葉が出なかった。予想通り、会話の余地がないことは十分イサミ達に伝わった。むしろ人の言葉を話せることに驚いたほどである。


(しかし)

 乗員全員を守りながら戦うことはイサミには不可能だった。ここで戦闘が続けば、倒せたかもしれない。


 ただ原初の目的に立ち返ってみれば、それは賢明な選択ではない。そも、輸送中の先輩方をなんとかして連れ戻そうという話だったはずだ。


 事前に決めていた地点を襲撃することはもう叶わない。ならば。


(たとえ何が待ち受けていようと、万全の状態で全てを倒してからの方がいい。)


 イサミは気づいていないが、女は最初の襲撃で全て仕留めきるつもりだった。しかし、自身の命を守ること、主人を守ること、襲撃させないこと。これらを完遂できる地理では、もう既にない。


 これも、情報元の想定よりも動きが速くなったせいである。


 なにはともあれ、一行は案内への同行をせざる負えなくなった。


そういえば、このクソゲーの内容を詳しく説明していなかった。いや、この時期はまだまだチュートリアル。どうせ主人公は乳繰り合ってる恋愛パート真っ最中だろうから、話題になる事がなかったのですっかり忘れていた。と言えば、許してもらえないだろうか。


 このクソゲー、恋愛アクションロールプレイングゲームというカテゴリに属している。


 ターゲット層が定まっておらず、アクションは難しい。敵はグロい。攻略対象が魅力的と言い難い。


 そして、妙に世界観があるにも関わらずろくに説明をしない。


 広告だけは打っていたから、知名度だけはあったような気がする。よって、おもちゃになった。特に恋愛パートが見る抗うつ剤と呼ばれるほどだったが、今触れたい所はそこでは無い。


 このゲームのタイトル、ロマンティック宇宙戦争コスモサーガの宇宙戦争要素についてである。


 序盤は一切登場せず、颯爽と襲いかかってくる宇宙から来た敵キャラ。女性向けかと思いきや突如やってくる高難易度アクション。


 ちなみに俺は裏ボスがむず過ぎてK◯2FMのリミカXIII機関に逃げた。死ぬまでクリアできなかった。


 少し話が逸れた。


 宇宙から来た敵とプレイヤーは戦うわけだが、その特徴は多種多様に渡る。人に寄生する奴もいたし、群生体の奴、可愛い奴、寄生ミスって能力奪われた奴などバリエーション豊かだが、一貫して特徴を持っている。


 圧倒的な嫌悪感である。


 操作キャラからはゴキブリのように嫌われ、プレイヤーからは難易度から親の仇のように憎まれる。


 話題に乗って買ってみたが、一番のクソゲーだった気がする。勿論据え置き機の中での話だ。


 何が言いたいかというと、俺はその嫌悪感を放つメイドに敵本拠地に案内されたという事だ。近づいているからわかったが、遠くからでは気づかなかっただろう。


そこそこの距離が線路からあった筈だ。暗闇の中、すこぶる治安の悪い通りを歩いてきた筈である。しかし自分達以外の人間を見ていない。もしかしたら存在していたかもしれないが、少なくとも視界には入らなかった。制服に着替えていたにも関わらず。


まだ乱暴者が襲ってきてくれた方が安心できた。気味の悪い街に奇妙なメイド、古びたおどろおどろしい洋館は、吸血鬼の噂を裏付けるように、恐怖を煽るように佇んでいるようでもあった。


そこそこ歩いたが、前を歩く悪性新生物のせいで景色を楽しむ時間などなかったので、様子は詳しく覚えていない。よって省略する。


 曰く付きの吸血鬼の館の客室は思ったより良かった。まるでビジホみたいで、狭いけど十分。そして綺麗だ。トイレないけどね。


 イサミから話は聞いた。結局、あの機関車での騒動の後で俺たちは予定を変更せざる負えなくなった。というか、戦力差的に半ば命令に近かったようだ。こそこそと申し訳程度に作戦会議をして、機関車と別れを告げた。


 メイドに感じた嫌悪感が確かなら、本当はあの場でイサミに伝えたい事があったんだがしょうがない。


 制服に着替え直し、兼定を持って【身体強化】の感覚を思い出す。


 周りに被害が出る前に、連れ去られた精霊研究部の先輩方を助け、敵を叩きのめして連休が終わる前に帰る。

 目的を再確認。武器を取られないと思っていなかったが、それだけ相手に余裕があるのだろうか。


「ぐだぐだ言っても仕方ない。行くか!」

 勢いよく廊下に出て、階段から食堂に向かう。


 途中でソージと遭遇した。心なしか、顔が強張っている様に見える。よく泣いていないものだ。俺はさっき部屋で顔を洗ってきたというのに。


「トシさん、おはようございます。」

「おはよう。酷い顔だな、思い詰めてるか?」

 茶化すように軽口を叩いてみる。叩かないとやってられないだろう。


「えぇ、勿論。僕が無理を言って窮地に皆さんを連れてきた様なものですから。」


 嘘だろそんな事考えてたのか?まぁ、言われてみればここまでソージとイサミが仕切ってた気がするが。


「初めて友達と一緒に行動して、冒険して、何か正義感のようなものに、身を委ねてしまったみたいな。」

 ソージは続ける。


「すみません。後先考えずに動いてしまって。トシさん達には何も関係ないのに…」


 確かに割と強引な所もあったけれど、別にやろうとしていることは悪いことではない。


 今の口ぶりからして、ちょっとしたレジャーのような気持ちだったんだろう。ただ今命に関わる状況に首を突っ込んでビビってきたのかもしれない。


 しかし、謝るのは、それは―


「それは違うだろう。ソージ。」

 驚いたのかソージが顔を上げる。


「俺たちは全員同じ気持ちでここに来てる。決してお前の独断ではないし、謝るとしたらこっちだ。」


 ソージは俺の顔を食い入るように見つめている。

 少し恥ずかしくなってきた。もう止まらないけど。


「もしかしたら行動の指針を求めていたのかもしれないよ、俺は。ソージが正しいことを自分の心に従ってやっているのを見て、一緒にいたいと思ったんだから。」

 前世と比べても、ソージよりイケメンでかつ性格がいいやつなんて居ない。


「はい…」

「せっかくここまで旅行に来たんだ。最後に少し働いて帰ろうぜ。」


 横を見直すとソージが笑っている。緊張とやる気がいいバランスになっていたら良いんだけど。


「そうですね。少・し・働いて帰りましょうか!」


 そうして俺たちは階段を降りた。偉そうにソージに語ったが、俺自身は半ば諦めの境地にいる。どんな歴史人物も生き残る時は生き残るのだから、なるようになるのではないだろうか。


 階段の途中、部長と会った。ソージと幾らか会話をしてから、一切喋らなくなった。出発前は自信満々に便利道具の解説をしてくれたが、大丈夫だろうか?


「トシ君、君にこれを渡そう。絶対に生きて帰るぞ。」

 手元が暗いのでよく見えないが、事前に説明された便利道具のいずれかだろう。流れるように死亡フラグを立てるのは辞めてもらいたいところだ。


 そうして、俺たちは食堂の入り口に着いて、ドアノブに手をかけた。


食堂に全員揃う。これがおそらくトリガーだったんだろう。無数の気配が現れて、先に居たイサミと俺たちに敵意をぶつける。


と、ほぼ同時になんらかの力で俺たちは食堂の外に弾き出された。


「ぐっ」「キャッ!」

トシ君、高校の授業で得た素晴らしい受け身を発揮。

あえなく壁に、三者三様に叩きつけられる。


ソージは打ちどころが悪いな、部長は割と大丈夫そうかな。

「二手に別れて先輩方を探すぞ!ソージ!部長を守りながら右手に!下から上に探せ!」


「ウッ、はい!」

これでいい。地下牢か納骨堂って相場は決まっていて、かつそこには中ボスがいるんだ。大抵。


ソージが部長の手を取って走っていく。見つけて逃げれば俺たちの勝ちだ。無理に戦うこともないだろう。


「よっしゃ、いくぜ」

両頬を叩いて気合を入れてから走り出した。


―――――――――――――


イサミは信じていた。


そしてトシはそれに応えた。というよりかは、自然とそうなったと言った方がいいかもしれない。


理想としては、自身が敵を全て引き付けその間にトシ達が救出してしまうことで、殆どその通りに動けていると言っていい。

(いつも消極的だが、妙に大人びている部分があるからな)


もっとも、目の色を確かめた時から確信していたことではあったが。


「考え事ですか?余裕みたいですね。」


「そう見えるか?」

言われてから気づいた。口角が上がっていたらしい。


何十人と構えていた騎士のような何か。十中八九魔物かアンデットだろうが、それと目の前の人外を同時に相手をするのは流石のイサミでも骨が折れる。


斬りかかられる、避ける、斬る。

その繰り返し。


華麗な足捌きで無傷のまま数体倒しているが、このままではジリ貧間違いなしの状態だ。


そして―

「クッ!」


差し込まれる傘の置き場所がかなり性格悪い。正確に急所を狙い、かつ死角から飛んでくる。


後ろに目がついているかの挙動で回避していなければ、今頃イサミは滅多刺しになっていただろう。


傘の刺突によるヒットアンドアウェイは騎士達の陰に潜んで、より凶悪なものに進化している。


(出し惜しみはできないか)


攻撃を避け、弾き、切り返す。今の状態で堪えられているのは、騎士達の挙動が生身の人間にない拙さを伴っているからに他ならない。


とはいえ、それもイサミの体力がある内での話である。

「有象無象の後に切りたかったが…

克服せよ(overcome)】!」


溢れ出る精霊力。

周りが一瞬で気圧される。


「掛かりなさい」

それを見てなにかを感じたのか、例のメイドの口から指令が出される。一斉攻撃の合図。


そして波となって襲いかかった全身鎧の物量が―

接触した部分から弾け飛んでいった。


刀によって斬られているにもかかわらず、まるでピンボールの様である。

「!?」

と思いきや、詳しく見てみると、違う。

刀を鞘に納め、奪った西洋式の剣を二刀流でぶん回している。


血でもはや斬れないのだろう。しかしノックアウトするには十分過ぎる衝撃だった。嵐の如き猛威に一切臆することなく突っ込んでいく全身鎧達。


「うふふっ、アハハハハ!凄い!食べちゃいたい」

恍惚とした表情と共に口から出された言葉は誰の耳にも入ることは無い。


数十秒後、立っている人影は二つだけとなった。


「中身、人じゃねぇかよ」

吐き捨てる様に言った。事実、イサミにとって唾棄したくなるような事実だった。


「ふふっ♪いいでしょう?粉で釣って外から補充してきたの!」


ネクテールは吸血鬼の噂によりまともな人間の寄りつく場所ではなくなった。自然、そういった組織の巣窟になるというのはあり得る話だ。


同時に合点がいった。成程動きがぎこちないわけである。麻薬中毒者だったのだ。彼らは。

「どっから来たかはどうでもいいが…また一つお前をぶっ叩く理由が出来たな」


「叩いて見せてくださる?貴方が」

笑いながら女は月明かりに手を掲げる。

すると、少しして女の背中が隆起して触手が生えてきた。節があって、蜘蛛のように見えなくも無い。腕も肥大化して赤黒く、服もそれによって所々破けている。顔も変色があるようだった。


「変身か、面白くない冗談だな。」

可憐な少女が怪物に成り果てる様はいっそ神秘的であり、また何か尊厳を犯されている場面を直視しているような印象をイサミは受けた。


しかし、この男の脳内はあくまでも即物的だった。

脳筋ともいう。

敵ならば、斬る。どんな状態かわからなければ、取り敢えず斬ってから考える。


勿論のこと、異常な回復に対する対応策はまだ浮かんで居ない。相手の具体的な目標も未だ不明瞭で、正体不明、背後関係も一切不明。


ただ、自分の為すべきことだけは確かだった。静かに鞘から刀を抜いて、切先を向ける。


今、彼の脳内には自分と敵のふたりきりである。敵というのも的を得た表現では無いのだろう。


喧嘩相手。これから始まる第二ラウンドも、先にあるだろう戦いもイサミにとっては、構えた瞬間に喧嘩という単純な構図に落ち着くらしい。


場面は変わる。


ソージとアイオーンは手当たり次第客室を開けて回っていた。


「シテ…コロシテ…」

こう言った声がいたるところから聞こえてくるためである。どれが誰だかわからないが、目的の人物は計算通りなら今日着くはずだった。ので、まだあまり汚れていないはずである。


当たりを当てるために数を打っているというわけだ。


ただ、どの部屋を開けても悲惨なもので糞尿垂れ流し状態。まともな部屋は案内されたものだけだったらしく、大の男から少女だったであろう遺体までただひたすらに朽ちていく光景が見られた。


「うっ」

ソージが後ろを振り返ると、溺れる音がした。


吐瀉物噴出。むしろよくここまでアイオーン部長は耐えたと褒められていい。


「大丈夫ですか!?」

駆け寄るソージ。


「いや、問題ない。」

(絵面は問題しかないな)

ソージはそう思った。


「部長の方に行けば行くほど悲惨になっていってる。これは案外手前側に居るかもしれないですね。」


部長がたった今開けた部屋をみて考える。もし友人が、自分がこの状態で死んだなら。


「っっ!吐いていいですか」

「あぁ、存分に吐きなさい。」

聖母の笑みで微笑む部長。きっともう失うものが無いのだろうとソージは吐きながら思った。


一度スッキリしてから探し直すと、驚くほど簡単に先輩方は見つかった。2人は何の外傷も無く、意思疎通もとることが出来る状態だ。


「先に消えたもう2人は?」

部長が問いかけても首を横にふるばかりで有力な情報は得られそうに無い。


それを確認して部長は哀しげに俯いた。

やはり思い詰めた表情のソージ、何か決断したのか、意を決して口を開く。

「先輩方はもう先に行ってしまう方がいいと思います。後の2人は僕が―」

「それはダメ!」


「君たちだけじゃ無いんでしょう?助けに来てくれたのは。そしたらその子たちも一緒に今すぐ逃げなきゃ!」


泣くように訴える姿には明確な緊迫感が漂っていて。その間も金属音と衝撃音が絶え間なく鳴り響いている。


「大丈夫ですよ、トシさん達は。」

「どれだけ強くてもダメだわ。あいつは、人間じゃないもの。」



「それはどういうことだい?」

間髪入れずに部長が、優しく問いかける。

「噂を知っているでしょう?ネクテール夫人は吸血鬼よ。」


「実在しているんですか?」

驚いたようにソージが声を上げる。都市伝説を信じろと言われればこんな反応にもなるだろう。


「私達は見たもの。生き血を啜っている所を。でも、」


「脅威はそちらではない、ですね。」

先輩は小さく頷いた。

「そうよ。貴方達もわかっているでしょう。この館の本当の主人が誰か。」


「あのメイドの女のことかな?」

2人とも薄々気づいていた。挨拶の時名乗らないことから本当の召使いでは無いのだろうと。どのような従者であっても脊髄で、客人に対して敬意を向けるよう教育されているはずだからだ。


「奴らの目的というのはわかりますか?」


「噂だと、不老不死を求めて生き血を啜ったのが夫人らしいわ。でもあのメイドは向こうの部屋の遺体ごと食べてる。」

音で判断しただけだけど、と付け加えた。


「謎が増えましたね」

揃って首を捻る部長とソージ。


「『ゲノムだけ頂ければそれで構わないです』って、だから夫人はあいつをこう呼ぶの」


―――――――――――――――

ゲノムイーター。

本編中には一切存在しない語だが、宇宙からやって来た怪物を指す語になる。因みに初出は攻略本。一応オフィシャルである。


かなり重要な、ストーリーの後半を決定づける設定のはずだが、あまり詳しくは描かれていない。


ただネームドからモブに至るまで全てが強敵となる。


その理由の一つに、聖遺物の攻撃と魔法以外効かないというクソ仕様が挙げられる。育てて来た前衛と装備が一部を除いてゴミになった瞬間を、俺は2度と忘れないだろう。


高ステータスだったり、部位欠損一瞬で回復したり、それぞれ特殊能力持ってたり吸収、寄生が標準装備だったりとクソゲーここに極まれりだが、そうだとするとイサミは大丈夫だろうか?


基本的に、知能が高ければ高いほど多く吸収している証拠になるのでもし推測が正しければ300年ものの化物ということになるが…


「なにそれ、初見のウルトラネク◯ズマかよ」


やめだやめ!予想だけで考えるのはよそう。イサミ意味わかんないくらい強いし、多分大丈夫だろ!


そんな楽観的な観測に全く関係なく、俺の体は突然呆れるほど素早く小さくなって近くの曲がり角に身を隠した。


心臓が五月蝿い。身体の震えが止まらない。一瞬で存在の格が違うとわかった。圧倒的なものが近くにいると魂で感じた。暑い、汗、止まれよ!


現在地は恐らく地下への入り口辺り。上手くやり過ごせば行けるか?

目の端でそっと、バレないように背中越しで確認する。(!!)


「生娘のォォ、生き血イイィイ!」


バイオ◯ザードに居そうな夫人だ。と俺は呑気に考え事をしていた。尚も夫人は叫び続ける。


「時間よ、早く!五月蝿い!!来なさい!」

怖すぎる。容姿から怖いのに、会話を放棄したらもうホラゲの化物じゃんかよ…


「「あ」」

目があった。なんならハモった。


こうして、ネクタールの吸血鬼と俺は無事に遭遇を果たしたのだった。


鈍重そうな見た目に対して存外速い。足元の布がずって、ハイヒールが折れ曲がっていても構うことなく直進する。狂気に満ちた瞳を深く被ったハットから覗かせて(なぜ着用しているかは不明)こっち来る。


「うわっこっち来んな!?」


俺は迷わず逃亡を選択。早く上の階に逃げてソージと合流したい。その一心で回廊を駆けた。有難いことにイサミがバチボコやってくれているらしいので、足音が聞こえる事はない。


「右!左!右!左!」


ダンゴムシの様に脳死で角を曲がっている。地下の入り口をあれだけ探して見つからなかったので、上への道が見つかる方が早いと俺は踏んでいた。


結果論から言えば、二択を悉く外し続けて巧妙に隠されていた地下への階段を見つけてしまった。


「転生しても俺の方向音痴は治ってくれないのか…」


しかし判断に残された時間はあまりにも少ない。先輩方の捜索はまだ済んでいないし、第一俺はまだ夫人を撒くことができていないからだ。


「ヴァぁぁぁ!」

「チィッ」


視界の端に捉えた夫人は随分生き生きしているように見える。肩で風を切って歩くその姿は恐怖そのもの。


心なしか足取りも弾んでピクニックに行く子供みたいだ。淑女としての在り方を銀河の彼方へ置いてきた挙動をしていて野性を感じさせる笑みを顔に貼り付けている。


背中から追われている状況は不味い!


そう判断した俺は、腰にぶら下げた部長お手製秘密道具を手に持って真後ろへと重心を移動させた。


「!!」


夫人の動きが一瞬でも止まる。意表を突くことは出来たみたいだ。


「ジャーン!魔力充電式風魔法グラップラー!!取説は耳にタコが出来るぐらい聞いたぜオラ働け!」


俺は引き金を引いてグラップラーを使用。何処かの壁に引っ付いたらしくそのまま地下へと吸い込まれていく。


そのままなだれ込むように地下へ突入。階段の上に夫人の影を発見。躊躇いなく奥へ突き進んで行く。


「さて、夜目が効くまでかくれんぼ出来るかどうか。」


部長の魔道具は素晴らしい。原作に無かったものだが、ここまで完成度の高い小道具が作れるのなら想定外のクソデカアドバンテージだ。


シナリオ内で俺が回避しないといけない立ち位置を避けるためにも、というか、いざという時に役立つ移動手段、火力の補助etcが偉すぎる。


「問題はいざという時が来るフラグがクソほど立ってることだが」


【身体強化】を習得した辺りから気が昂っている。緊張感とアドレナリンを乗せて、血流が頬に巡るのを感じる。


クラスの奴らにボコボコにされて忘れていたが、ここはゲームの世界なんだ。せっかくの人生、楽しまなきゃな。


忍び足で歩いていると、何処かの天井が崩れた音がした。あんまりにも大きい音だったので、びっくりしてしまう。


音がした方向に視線を向けると、月明かりが差してくるのが見えた。


ここで初めて自分のいる場所を確認する。拷問用具だかが床に捨て置かれていて、勿論血で錆びている。


最近使われた様子がなくて少しホッとした。人殺しの道具が歴史的な物品に昇華されることで嫌悪感が軽減されるのは、俺だけだろうか。


「そして上はイサミがいる食堂、と。」


足を踏み場が無い一角を見つけた。骸骨で埋まっている光景は現実だったら泣いちゃってただろう。


あれ、これ現実か。泣いていいかな?


その方向から物音がしてくる。バキバキバギィ!!


「絶対骨踏み折ってるじゃん泣きそう。」

紅い目を光らせながら、夫人が姿を現した。きっと、月明かりでこちらがしっかり見えるようになったんだろう。声を出していたのも悪かった。満面の笑みを浮かべていらっしゃる。


ふと、後ろを確認した。椅子に座った骸骨が壁に頭を預けてこんばんは。

行き止まりだ。背水の陣だ。


夫人はどっからか拾ってきた鉄棒をもってジリジリと距離を詰めてくる。明確に状況が悪化している。


「…」


兼定を中段に構えた。間合いを気にするほど心得があるわけでは無いが、ここで怖気付く方がいけないのは知っている。喧嘩は、弾みだ。ノリがいい方が勝つ。


俺は相手が動き始める前に息を詰めて、距離を殺した。兼定の錆びた刃を精一杯たてて、顔面に叩きつける。が、防がれた。


構わない、何度も叩きつけた。すると、鉄棒が折れ曲がって体勢も崩れる。


大男かと見紛う程の筋力を持つ夫人も、身体強化の馬鹿力には敵わず打ち合うことさえ許されない。


火花を散らして甲高い音を鳴らしていた兼定が次第にその声色を変えてゆく。夢中になって叩きつけた後、余りの苦しさに息を思い出した時、既に全てが事切れていた。


後ろに斃れる遺体。顎を垂れる汗を拭うと思わず遺体を凝視した。


「こんなものか…」

あれだけ圧倒的な覇気を纏っていても、死んで仕舞えばこんなものだ。


一抹の寂しさを感じた。同情はない。人の業とは巡り巡ってくるものだ。しかし、自分にいつ回ってくるのか。


月を見上げる。赤く染まっているそれは眼前の血よりも鮮やかだった。


「イサミと合流しなければ」

上に登ろうとする時に、存在を思い出した。グラップラー使えば戦闘を回避して逃げれたんじゃないか?


「・・・」


グラップラーを上の階に向ける。兼定には、まだ昏い血が滴っていた。


やっとの思いで食堂に辿り着くと、激しいというか、美しい戦闘が繰り広げられていた。


イサミを何十という触手が包囲していて、それを丁寧に切り落としていく。ただ冷蔵庫の如き質量(長さはもちろん比べ物にならない)が瞬時に再生していくのだ。


どちらが優勢なのかは一目瞭然だった。


物量の暴力を必死に捌いていく。最小限の足捌きで避け、切り、時には飛び乗って対処している。しかし駆け上がって近づこうにも途端にトカゲの尻尾のように切り落とされ、再生。決定打が無い。何かエネルギー切れで機能不全になる様子もなく、体力を再生で消耗するでも無い。


加えて瞬時に回復してしまうので勢いで押し切ることもできない。


初めてイサミの汗を見た。想像以上に強敵なのかもしれない。体力勝負に持ち込む線も、もう無いだろう。


巨大な触手が突き出され、薙ぎ払われ、視界を埋め尽くす。美しかった館内は斬られ、削られ面影が残るのみ。


一瞬にして視界から消えたイサミは壁を走って回避していた!イサミの後を触手による突きが追う。よくこの館は崩壊していないものだ。


と思えば、イサミが触手をくぐり抜け懐に入る。そうして本体を切り付けることに成功しているのを見た。


脳を破壊すれば良いと思ったのだろうか、残念ながらゲノムイーターにコアといったコアは無い。


ここでようやく俺は余波で吹き飛ばされた身体を立て直す。ここで妙に大声を出して足手纏いになっては不味い。せめて【身体強化】が出来るまで叫ぶわけにはいかない。


「ッ」

建物を激震が満たす。身体を傷つけられたお返しとばかりに自身を中心に触手を回転して攻撃する。吹き飛ばされるイサミ。そのまま転がってから壁に激突して、項垂れている。


「ダメだ、まだ【身体強化】できる程魔力が回復してない」


口元の血を拭いながらイサミは何か呟いた。

「成程、近接はやっぱり嫌なんだろう?見た目からして攻撃手段が乏しいからな」


ゲノムイーターは準備時間を設けてくれるほど優しくは無い。丸太のような触手は、その肉塊としてのあり方を変えていく。土煙でよく見えなかったが、晴れた今ならよくわかる。尖っているのだ、先端が。


イサミが幾度と切り捨てた肉にも関わらず何故尖っていたのか。


答えは意外な形で示されることになった。


「血のレーザー!?」


先端から鮮血が放たれる。触手の数自体は両手でギリギリ数えきれない程にまで減った。しかし、それは決して状況の好転を意味しない。


そのレーザーは圧倒的なスピードと攻撃力を誇る事を即座に示した。亜音速に迫る勢いで放たれたそれは、命中精度こそ悪いものの、大量の障害物を無視して目標へ迫る。


「ッッ!」


イサミは既にギリギリの状態だった。ゆっくりと、しかし確実に照準はイサミへと向かい、彼はその全てをすんでのところで避けている。ただ歩き方に前見た鮮やかさを感じない。


不味い!


とうとう堪えきれずに俺は声を張り上げた。

「イサミー!!奴には魔―精霊力を纏った攻撃しか効かない!魔法で攻撃するんだー!!」

因みに俺は彼に魔法が使えるのかどうか知らない。いや、入学試験にあったから使えるはずなんだが…


「トシッ!なんで来た!」

珍しく焦った表情を見せるイサミ。


「馬鹿だな、こんなに辛い時に出ないのはダチじゃないだろッ」

ゲノムイーターの照準はとっくの昔にこちらに向いている。覚悟の上だ。やってやるさ。


向こうでイサミが驚愕の表情を見せてくれた。その後にやっと笑っている。ぼさっとしてんなよ?


途端に放たれる八門からなる全門解放フルバースト。うわぁ凄い。大迫力だ。心臓バクバクするね。


「当たったら即死とはいえ…」

早いのは初速だけ。照準の動きは遅い。つまり、

当たらなければどうということはない!!


初撃を華麗なみっともないドッチロールで避けた俺は目の前の障害物に気付きすぐさまグラップラーを発射。ダイナミックな障害物走を演じ始める。


「トシ!今から詠唱に入る!引きつけてくれるか!」

イサミから咆哮が飛んでくる。頼ってくれて嬉しいねぇ。

「任された!」

何か秘策があるんだろう。出来るできないじゃない。やるんだよ!


「来た!【身体強化】!」

魔力が溜まった瞬間に【身体強化】を再発動。


奴を中心にぐるっと回っていた進路を急激に変更。一直線とは言わずも、急速に接近戦に持ち込む!


当たったら即死のレーザー、悪い足場、笑えてくるほど逆境だが不快ではない。むしろ楽しいぐらいだ。


とにかく避ける!避ける事に集中する!たとえレーザーが前髪を掠めて、靴紐を切って、目の前の足のテーブルを真っ二つにしてしまっても足を止めてはいけない。怖気付いてはいけない。


「こっち来てからずっとやられっぱなしなんだ。一個ぐらい思い通りに行っても良い筈!」


お願いしながらひたすらに足を動かす。


イサミの詠唱による口の動きが、すごくゆっくりに見えた。



「【雲はいま―


飛び跳ねまわりながらイサミは口を動かす。器用な奴だ。


ついにレーザーに拘らず瓦礫を吹き飛ばす攻撃も交えてきやがった。


最早体勢を選ぶことは出来ない。体力の消耗を全身で感じる。接近したことで照準がこちらに向かったレーザーを兼定で弾いて、一度膝をつく。


「ッ」


根性で今すぐ立ち上がれ!咄嗟にグラップラーを放って瓦礫の吹雪を回避。


「【白孔雀、月を―


「この状況ではグラップラーもデットウェイトか」


俺は手放す。もう一度立ち上がってせめて兼定の刃を奴に突き立てんと走り出した。


「【はらみぬ。輝かし、卵なすもの―


血の猛威を弾く、弾く。手も足もなりふり構わずに走る。きっと今俺はなかなか前に進んでいないだろう。


しかし奴も巨体だ。先程からあまり動いていない。そう思ってもう一度血の奔流を弾いて、弾いて―


「この斧なんか硬くない!?」

石を切断するビームで無傷ってなんだよ。俺は凄い武器を持っていたのかもしれない。なんで部屋にあったかは分からないけれど。


「【影は透く、雛の朱雀の。かうかうと―


刀を前に構えて目を閉じて詠唱するイサミはいっそ神秘的だ。レーザーも楽々捌いているし、

「この調子ならいけるか?」


こちらもレーザーを捌くのに慣れてきた。兼定で弾けると気づけたことが良かった。おかげで逸らすことが出来ているし、瓦礫と急所へのへまだけ気をつけていれば良い。


そう思ったとき、近接4本の触手が礫を飛ばす以外のモーションを見せる。気づけば攻撃は殆どこちらに向いていた。


「正念場だな」

「【照るものは―


まず三門、二門、六門のレーザーを逸らす、前転で避ける、左腕を捨てて急所を守り切る。


接近してきたゲノムイーターは生き生きと四本の触手のを払って体勢の崩れた俺を追撃。何処かしらの筋を痛めて上に跳ね飛ぶことで回避した。


ここに血の集中砲火。狡猾な一手だ。


無理くり片手で兼定を構え奇跡的に防ぎ切る。吹き飛ばされ後、墜落。


「【うるはしきかなッ―


「弱いものイジメして楽しいかよぉ」

泣き笑い状態で自身の情緒の崩壊を感じる。ただ一方でひどく冷静になっている自分にも気づいていた。


そりゃ楽しいだろうよ、弱いものイジメは。

「声を震わせて詠唱をするなイサミ。カッコよくない。」


ぼろぼろでやっと二本の足で立ったところを、無情にも奴は襲ってくる。


「―」

薙ぎ払いで強烈に吹き飛ばされた。なんの抵抗もできない。その勢いのまま数十メートル転がって、そのまま壁にぶつかる。


意識が飛ぶ。


昔から死ぬことを過剰に恐れるたちだったが、実際その場面になると恐怖というものはあまりない。むしろ気持ちよく眠れる気がする。


走馬灯は走らない。別に振り返るようなことも、振り返りたいこともない。ただ。


もっと楽しく生きれたのだろうか。


瞬間、襲われるイサミが目に入った。この世界での盟友。付き合いはゲームカセットの厚みよりも浅いが、人となりは結構わかっているつもりだ。


ノンデリで、強引で、豪快で、正義感が強くて、お節介で、秘密主義で・・・


あいつとこれっきりなのか?青春も謳歌せずに?

今死ぬとか、ありえないだろ。


「【尾羽ひろげッ―


思考がまとまらない。打開策が欲しい。吸血鬼の弱点ってなんだっけ?

ニンニク、

十字架、

銀。


「「!」」

(スゲー精霊力ッ。生きてたか!)

急に体に力が入る。兼定を握りなおす。諦めるには、まだ早過ぎる。


そうだ。俺はモブに転生した。虐められるようなモブだ。インキャモブだ。でもリアルだ。俺の前にアルバート・シルヴァバレトが積み重ねてきたものが確かにある!!


兼定が答えた。身体はまだまだ動く。青い光が目に入ってくる。月明かりがが反射したのかもしれない。


もし今手元に打開策がないなら俺が打開策になれば良い。


俺が銀になれば良いじゃないか!

「【銀弾(シルヴァバレト)】!」


一閃。


銀の精霊力が光の尾を伴って消えた。

「gyaooon!!」

無意識に任せて体を動かす。ふと見返すとイサミに襲いかかっていた触手が切れている。たが、一切再生する様子を見せない。


ゲノムイーターは聞いたことのない叫び声をあげて咄嗟に後退。


でも良いのか?


「【雲は今、羽ばたきにけり】。【月映虎徹】!」


アイツは下がってくれやしないぜ?


――――――――


イサミは銀弾が通り過ぎるのを見た。美しい光だと思った。


(ニヤつきながら気絶しやがって)

やはり笑みが溢れてしまう。トシは間違いなくたった一つの勝ち筋を切り開いたのだ。


【月映虎徹】。

イサミの刀、虎徹の刀身に自身と精霊の術を纏わせる技。しかしそれだけではない。彼が無詠唱で魔法を行使できるようにするトリガーでもある。


魔法をストックしているのだ。刀に。勿論、これが出来るのは現時点で彼以外に存在しない。


ストックされた魔法は実態を持って敵対者に襲いかかり、虎徹はその姿を変える。美しい日本刀は片刃の黒大剣へと変貌し圧倒的な威圧感を放つ。


「さあ、天誅とは言わん。くたばれ。」


背後に彼が契約している精霊が具現化する。


もし今トシが意識を保っていれば、驚愕のあまり卒倒したことだろう。黒い精霊など存在しない筈だからだ。


魔力の色には個人差があるのでトシの白銀が異常ということはないのだが…


必死に血の雨を降らせ抵抗を続けるが、その一切が大剣に吸われて届かない。


と思えば、急に巨体が引っ張られる。真っ直ぐにイサミの元へ。


「ハァッ!」


イサミが振り下ろす。斬れる。


ゲノムイーターもなりふり構わず肉壁を造り出し嵐が過ぎ去るのを待っているようになった。


あまりの肉壁の量にイサミは押し潰されそうになる。

ことはなく、美しい剣筋で全てを捌き、裁いていく。


迫り来る肉の波を捌き切った頃、本体らしき女が見える。

「くたばっちまえー!!」

「gyaooon!!!」

両手で突き刺し、崩壊した館と共に地下へと向かった。


さらに剣のつかを掌で押し込むイサミ。溜まりに溜まったエネルギーが爆発する。

「【砕月】!」


爆散。


刹那、空間が割れ地域一帯を土煙が包む。


土煙が晴れた頃には。


皆既月食は過ぎて、微笑む月光だけが辺り一体に降り注ぐ。戦場に立っていたたった一つの人影は、随分月に映えるようだった。


――――――――


大分、当初の予定とズレた気がする。且つ、問題が何も解決していないことに気づいた。


いや、居場所ができた。部活動に入れた。友達が出来た。なんやかんや、こっちの世界でもやっていけそうかもしれない。


「さて―」

周りを見渡してみる。うーん真っ白。ただ不思議と不安は感じていない。この感じは、あれだ、多分。


「精神世界、じゃな」


「おおー!初めて異世界転生した実感が湧いてきたや。」俺はもやがかった藍色の生物に対して話しかける。神さまみたいなやつだろうか。


「神ではない。それで、思い出したかの。」

「?」

「呆けた顔を晒すな。儂が起きたという事は、思い出したのであろう。」


マジで心当たりがない。なんの話だろう。僕と契約して魔法少女云々宣おうものなら世界のためにここで消し去る必要があるが…


「君は?」

「お主が名付けをしたのではないか。」


そう言われたので、もう一度もやの全体を観察してみる。

「兼定、」と同じ発光色。なんだか神々しい。


「うむ、なかなか良い名だと思うぞ。」

もや、は満足げに頷いたようだ。なるほど、あのオンボロ武器になんか入っていて、そして精神世界で会話していると。成程?


「その様子では万全ではないようじゃな。だが一部分でも取り戻しているならば良しとしよう。勇の坊主も一緒ならばよし、これから戻していけば良い。本題に入るぞ。」


このもやはどうやらアルバートのことを知っている、らしい。

「聞こう。」

どうせ俺に選択肢は無いだろうから。


「お主は今、死んでおる。」


おや?いきなり不穏じゃないか。実感が湧かないので他人事のような反応しか出ないが。


「お主が死ねば、あの時より契約していた儂も消えてしまうじゃろう?儂とお主が生き残る為にはたった一つ「待った、俺はなんで死んだんだ?」


「…脳を奴らに侵食され、半壊させられたからじゃ。」

流石宇宙戦争。グロイ。モブに厳しいクソゲーっぷりだ。奴らというのは、恐らくゲノムイーターか。


あの時の契約に関して突っ込むのは後で良いだろう。今から聞いてもどうにもならないだろうから。

「話の腰を折って悪い。続けてくれ。」


「…死を避ける為には儂とお主が一時的に融合せねばならん。といっても、人格が混ざるわけではない。儂の言葉が頭の中で鳴り響く程度じゃ。」


あぁ、つまりウルト◯マンみたいな感じか。

「その認識で良い。どうするかの?」


「死ぬよりマシだろう。なんでもやってやるさ。」

生きてりゃなんとかなるだろう。みんなと一緒にいれば。

もやが急速に実態を帯びていく。藍色の龍。まるで天を掴む為にあるような鉤爪と、星の輝きを固めた様な角。胴から尾までがデカすぎて視界に入りきらない。こちらを見つめる覇王足らんとする瞳はギラギラと輝いて、その牙はどんな刃よりも鋭い。


「それが聞けて良かった。それでは、主に星の平安を」

ホワイトアウトしていく視界。意識が刈り取られていく。

(あの龍は、精霊?兼定は、もしや・・・)

思考は糸が繋がる前に、途切れてしまった。


―――――――――――――――――


トシは。


見たことのない天井を認めた。白い天井だが殺風景ではなく、夢うつつの中で皺を数えることが出来るような、そんな模様のある天井だった。


「起きたわね」

声がしたので頑張って横を向こうとするが、全身は痛くて動いてはくれない。ので、失礼ながら横目で様子を確認することにしたらしい。


「義姉さん…」

声に出してからトシは気づいた。

(この人は姉なのか)


アルバートの記憶が戻っていない事に違和感すら覚えなかったが、気づいた現状から振り返ってみると恐ろしい事だと思う。こういった記憶のすり合わせは時間と共に解決されるのだろうか。


(解決するぞよ)

頭の内側に響くテノール。変なのと一体化していた事をトシは思い出した。

(こんな声だったっけ?)


「呆れた。起きたのに何か言う事は無いわけ?消えたと思ったら全身の骨を折って授業を2日休んだお寝坊さんは肝の座りが違うのね。」


トシは2日意識不明だったようだ。転生によって出来た赤髪の美人な義理の姉との出会いに喜ぶべきなのだろうが、あまりにも痛烈な皮肉にダンマリで返すわけにもいかない。


「ごめんなさいでした」


「は?ごめんなさいで済んだら騎士団も要らないのだけれど。養子のくせに家に泥を塗ったらタダで済むと思わないことね。試験と単位には間に合うようにしてもらいますから。」


そう言って彼女は席を立った。絆創膏を貼り付けた指をドアノブに掛けて、回す。退出した後の部屋には静寂が満ちた。


(ここは、俺の部屋だな)

落ち着いて見渡してみればそうだ。見知らぬ天井でもなんでもなかった。


「試験は…後2週間か」

この怪我なら出席出来なくても仕方がないだろう。あれだけ念を押されたから、留年だけは避けたい。


そう思った矢先、皿の上の林檎が目に入った。丁寧にうさぎの飾り切りになっていて、酸化して色がくすんでいるのがわかる。


近くのゴミ箱の中には林檎の芯が幾つか入っていて、ここで剥いたのだろうと予想がつく状態ではあった。よく見たら、失敗の跡が見られる。皮だけだが、剥いている情景がありありと浮かんでくるようだった。


(指の絆創膏は…)


トシは自分の義姉の最近について思いを馳せた。もし丸2日付きっきりだったならばそれは大変なことだ。


(迷惑と留年だけは避けねばならない)

と、青年は固く誓った。


その後。

陽が傾くと寮には来客が来た。ドゥカーレ嬢だ。


(悪役令嬢が一体何の用、いや、あれしかないか)


「こんなに早く意識が戻って、お医者さんビックリしてたね」

彼女はいつもと様子が違う。猫背気味で、眼鏡をかけて、目立たない様に意識していた節のある彼女が珍しく外見を整えている。


背は伸びて、目にかかっていた前髪も切り揃えている。メガネの外れた眼は気高さを思わせて、昔見た雑誌モデルを想起させる神秘的な、不可侵な雰囲気を纏っていた。


「メガネは?」

「あれ、伊達だったの。でもこれからは貴族子女として侮られないようにしなきゃいけないから。」


(疲れているのかな)

確かに、彼女に疲れが見える。それがトシには不安だった。いつ彼女が悪役として人生を転げ落ちていくのか気がしれないのである。


「アルバートも、髪を切ってる。」

(部活動加入以来話していなかったから距離感が掴めない)

ただ、どうやらあちらは敬語を使わないでくれるようなのでこちらも敬語を外そう。と、トシは思った。


極端に女慣れしていないので話しかけられると不思議な感じがする。


「鏡を見てないからわからないな。それに、切ったんじゃなくて切れちゃったのさ」

(恐らくレーザーにやられた前髪のことだろう)


「そっか。でもそっちの方が良いよ。髪型。」

「わかった。そうしようと思う。ドゥカーレさんも似合ってるね」


(気まずい)

会話が続かない。無理に会話を続けるのは無益で、苦しいものだ。早めに本題に入ってもらおうとトシは考えた。


「それでドゥカーレさん、ここへ来た理由は?」

「・・・見舞いに来ただけだよ。君を虐めてたグループがどうなったとかも話したかったのはあるけど」


「ごめん、失礼だった」

「なんで謝るの」

彼女は笑って返してくれた。許してもらえたようだ。


「レッジャーノ達を直接追及できる証拠は手に入れられなかった。ごめんなさい。でも誘拐してた人達は家から素行不良で謹慎したみたい。お父さんは相談しても話にならなかったけど、今は学園内の失踪事件の被害者に呼びかけて学院に再発防止と調査の要求の署名を集めてる所。」


「謹慎したのか」

トシは自分の復讐相手が消える事だけを憂いていた。これでは少し消化不良だ。


「うん、これは私の推測だけど、きっとネクテールで何かやったんでしょう?それが原因で向こうの勢いが削がれてるんだと思う。」

話では、人が変わったようになって何かに怯えているらしいいじめっ子達。調査に対する妨害が無いことも状況の変化を示している。


(思えば、死体の処理でわざわざあんな治安の悪い所に行く必要はない。薬が欲しかったか、何かに誘導されていたと見る方が自然か)


なにはともあれ、いじめを受けないという最初のステップを踏むことが出来た。謎は増えたが、モブという立場から考えればひとまず一件落着だろう。


「成程、ネクテールの件はわかった。それで、部室を掛けた決闘についての話だけど、何か変わった事はある?」

トシの新たな頭痛の種である。

(転生してから落ち着いてられる時間がないな)


「あっちからの連絡はまだ無いよ。どうするかは、アルバートの回復を待ってから話し合わないとだね。」


「いや、違う。決闘が行われる事に対する周りの反応だよ、聞きたいのは」

(どうするかを決めるには、まだ猶予がありそうだからな)


少し考えたような沈黙があって、その後にドゥカーレ嬢は口を開いた。


「あぁ、確かに反応はすごかったかも。みんな驚いてたよ」


「・・・離れた友達は?何か嫌がらせとか、政治的な動きは?」


「…大丈夫、そんなに不安にならなくて良いよ。まずはアルバートの怪我を治さなきゃ」

「僕・|は君が、、君の周りについて聞いていたつもりだったんだけれど」


今回の一件の所為で予定より早くシナリオが進む可能性が高い。とりわけ、トシが気にかけているのは王子との婚約の件なのだから、新鮮な情報が欲しかったのである。


(どうにかして闇堕ち叛逆を防げればいいんだが…)


すると、ドゥカーレ嬢が閃いたらしい。いじらしく笑って返事をした。


「ねぇ、そんなに婚約者がいる相手のプライベートを聞いちゃっていいの?デリカシー無いって言われちゃうんじゃない?」


困った。こう返されては、今トシに反撃の手は無い。トシは力無く笑う事を余儀なくされるのだった。


「とにかく、大丈夫だから。早く治してね。ケガ。」

そう言って彼女は去っていった。


また、部屋で1人になる。

「やるぞ、俺は」


(ドゥカーレさんが心から笑えるように)


部屋の窓から陽が差し込むのを寝台の上から見た。

出発した時と変わらない景色に思われたが、ここでトシは外の花壇が整備されている所を見た。咲いていた花は気づいた時には散っていたが、それでも思っていたほどこの寮の外観は悪くない。


確かに変化しているらしい。


(あの光を、掴みに行く)


トシが歩き始めるのは三日後のことだったという。

手を差し伸べられた側が歩き出すまでの話。

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