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第四話

「おはよー、ひな」

「おはよう。珍しいね、寒田が眠そうなの」

 あれからも暖人さん呼びはさすがに控えた。それをしたら自分が一番大きいダメージを受けるし、寒田は多分わざと隠してたんだ。人と喋らないのもそういうこと。だから、私も隠し通すつもりだ。彼と私の推しとオタクという関係を。でも、彼は私にだけ厚くしていた扉を開け、親しく話しかけてくれた。なんだか腑に落ちない。それだけリスクを避ける彼が私に声をかける理由がわからない。私が彼のオタクだと彼自身が気づいていたのだとしても......。そんなことを考えながら執事かなた様のキーホルダーを触っていると寒田が再びこっちに来た。

「ねー、ひな。俺、実は演劇部入ってるんだけど」

 へー、演劇部。てっきり帰宅部かと。え、演劇!? 暖人様の演劇だと?

「ふ、ふーん、で?」

「なんか冷たくないか? まあいいや、明後日、水曜に発表があって今日リハーサルなんだよ。来る?」

 え、行くに決まってるでしょ。でも、他の人もいるのか。

「大丈夫。部長は声優のこと知ってるから、俺のファンって言っても変な顔をされることはない」

「で、でも、どうせなら発表の日が良い。そしたら他にもお客さんがいるでしょ」

 そうか、と彼は納得した表情で去っていった。そういう企画が平日に行われていることがまず不思議だが、そんな宣伝を聞いたこともない。うちの学校が変なのか。自分に人脈がないせいなのか。まったく。


 ◇


 当日になって、体育館に行くと、高校の部活とは思えない大層な道具が揃っていて驚いた。演劇か...。何も考えずに来たけど何気に初めてだな。

 ……にしても人が全然いない。そりゃ噂もされないわけだ。私は友達がいなくても成立するくらい聞き耳を十分に立てている。いつも運動部が使っている体育館は静かな会場となり少しの物音でも響いてしまう。気になり始めたらきりがなさそうだったから、最後列の一番端の席に座り、目を閉じた。目の前にも人はいないから実質最前列だけど、気にせずヲタクモードに入っておく。こういうときは特に魔法が大切。少ししても、始まる気配がないので、目を開いた。いつの間に集客していたのか段々と地域の人たちが集まってきたが、それでも依然として、閑と静まり返っていた。この集客の少なさの前では、更にあの大道具達に違和感が強くなった。よく見たら、壁は段ボールだし、塗装も落ちかけている。始まりを知らせるアナウンスとともに体育館内の明かりはスポットライトと照明だけになった。ちょうどそのとき活気づいた声が後ろから会場に入ってきた。後ろを向くと、ヲタクの私はよく知っているファンサうちわをもつ女子三人組がいた。声優ヲタクの私は実際に使う機会がないから、家にあるのはファンサうちわではなく、あの日サインを書いて貰ったうちわだ。あの三人組のうちわのうち、ひとつは確実にはっきりと『寒田ゆう』と書かれている。その体格からするに、中学生だ。他二人は、別の人の名前があるが、いわゆる同担にリアルで初めて会った。逆光が彼女たちをかえって眩しくしていて、とにかく悔しくて虚しかった。同担がうずめくイベントにはおめかしをしていった。でも、今日は違った。推しへのアピールでは誰がどう見ても彼女の圧勝だった。それが悔しくて仕方なかった。

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