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第一話

 【『長旅ご苦労さまでございます。この館の主人に仕えております、執事のかなたと申します。勇者様方のお話は大変よく伺っております。色々とお聞きしたいところではございますが、夜も更けておりますので、本日は客室でゆっくりなさっていただきたく存じます。こちらが鍵になります。お部屋までご案内申し上げますね。』

 若いのに、貫禄がある。この人がかの有名なドラゴンファルスを一人で倒したという伝説の執事……。】


 暖人さん、久しぶりに長ゼリフを貰えたみたいだ。良かったー。しかも、主人公を唸らせるほどの力をもつ伝説の人物。配役も良すぎ! いつかは主人公をも演じたりして……。あー、そりゃもういつまででも待っていますよ。あなたのオタクですからね!

 「さきー! まーた、ゲームしてるの? 友達来てるよ、一緒に遊んできたらー?」

 ただのゲームじゃないし。声を聞いてるんだよ。ママにも友達にも分かりやしない。ああ、暖人さん……。素敵なお声……。


 ◇


 「こんにちは。警戒してる? 僕は怖い人? それとも得体が知れず関わりたくない人?」

 え?

「可哀想に。運がないね」

 本当に何? これ、ただの席替えなんですけど。寒田かんだゆう、確かに何も知らないし、怖いイメージもある。まず今の台詞が十分に怖い。気さく感を出そうとして、この会話をしてきているならなおさら。格好つけているのか、謎に《《いい》》声色使って、ボイチェンでも入ってるのかってほどに……。そもそも喋ったことがないから分からないけど、多分陰キャのこいつにはもったいなさすぎる。あーあ、面倒くさそう。本人が気にしてるほど怖がってもなかったのに、もはや今後も疲弊するであろうことをしっかりと予期させられましたよ。

 「おーい、何か言えよ。これだからオタクは」

 へ? なんでオタクって? まさか知ってるの? でも、それしか……。私は机の横にかかったカバンに目をやる。

 「あ、あ、あっと、かなた様、知ってるの?」

 私がカバンにつけている、執事のかなたというキャラクターのキーホルダー。きっと誰も知らないと思って、恥じらい気もなくつけていた……。てか、私、さ、様って言わなかった? 恐る恐る顔をあげる。

「あ、まあな。って、照れてんのか?」

 よ、良かった。絶対、弄られると思った。

「べ、別に。それより、あなた意外とおしゃべりさんなのね。そんなに話すの好きなら話してくれば良いじゃん」

 少し強気にざわついている教室後方を指さした。

「あれは堅いだろ。ちっ、お前は話してくんねぇってことか」

 少し悲しそうに見えた。まあ、普段から一人でいる陰キャさんだもん。行けない理由があるんだろう。堅い、その意味も私ならなんとなくわかる。悪いこと言っちゃったかな。まあ、みんなに取り繕ってるのなら、この顔さえも《《演技》》なのかもしれないし、そんな杞憂をするのも無駄かな。


 ◇


 一月が経ち、不本意なことに割とあいつとは仲良くなっていた。そもそも、私も教室の隅にいるタイプだし、陰キャと関わったことに対して弄ってくるような陽キャ友達ももちろんいない。それにオタクの会話、通称オタトークができる相手なんて限られてるから、自然と話をするようになった。もちろんお互いにだ。彼の声は心なしか、暖人に似てると感じるときがある。推しと性格が似てくるのはあるあるだし、それに人生を変えられる人もいる。自分がそうなれば恥ずかしさが勝つだろうけど、他人が推しの声に近づくのを変に嫌がるつもりはない。しかし、ヲタトークをしているとき、大抵彼が顔を赤くしているのは、どうしても気にしてしまった。好きなことを話してると私も顔が熱くなるときはあるし、会話自体を楽しんでくれているようで、こちらも少し笑みを誘われたりする。そんな日々が学校に来る活力になっているのはもはや否定しようがない。だから、今日は寝起きが悪かった。今週一杯は寒田は休みだと聞いていたからだ。理由を聞いてもはぐらかすばかりで、話しそうにはなかったから追求するのは途中で諦めた。別に私もクラスメートに干渉せずにこれまで過ごしてきた。あいつとのこんな関係が今までの友達の中でもっとも濃い関係かもしれないと思うほどだ。あいつが仮に話す義理はないとか考えていても、自分も他の人になら思いかねないから責めたりはしない。オタクとして人との一線の保ち方は心得ている。それがなければ、推しはときに狂暴になり犯罪の域に到達する。でも、やっぱ知りたかったなあ。それこそ嘘でもいいから。

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