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奴隷日記  作者: 幽霊配達員
黒の書
59/72

氷竜の願い

「終わった。2冊目」

 黒い日記帳パタンと閉じて本棚にしまう。

「なんだか、凄く大変なところで終わっちゃったな。お父さん、どうなるんだろう」

 机に開いてある翻訳した方の日記帳に視線を落とす。お母さんたち、みんな心がバラバラに動いてた。

「折角お父さんが楽しそうになってたのに、神様って残酷だな」

 私は、確かにお父さんに望まれて生まれてきた。疑いようのない証拠が日記帳に記されているし、温かみも感じられた。

 けど、お父さんそのものの存在だって、お母さんたちから望まれていた。

 私は、本当にお母さんたちから望まれていたのかな。

 心が深い思考の海に沈んで溺れかけていると、後ろからふわりと抱き寄せられた。背中がやわな胸に包まれる。

 見上げると、にこやかな女性が覗き込んでいた。

「ちぃちゃんどうしたの~。暗い雰囲気なんてらしくないわよ~」

 フワフワの青くて長い髪が頬をくすぐる。抱き締める腕がやわらかくて、とても大切にしてくれてるんだってわかる。わかるけども、不安になる。

「あっ、氷竜ちゃん」

「な~に~」

「氷竜ちゃんはさぁ……お父さんに生きて、ほしかったんだよね」

 ためらいがちに聞いてみると、眉根が少し歪んだ笑顔になる。

「そっか~。もうそこまで進んだのね~」

 氷竜ちゃんが机で開いている日記帳を流し見した。考えている時間が怖い。

「確かに優太ちゃんにはもっと生きてほしかったわ~。時間が短すぎたもの~。もっといっぱい楽しんで~、笑って~、幸せをめいっぱいに感じてほしかった~。そんな優太ちゃんの姿を見ているだけで~、心が穏やかになれたもの~」

 きっと思い出の波が次々に打ち寄せているんだ。穏やかなのから、荒れた波まで。全部がきっとかけがえのない満ち引きだったんだと思う。

「やっぱり私の事、恨んでるかな?」

 不安を口に出したら、氷竜ちゃんは少し表情をパチクリさせてから、満面の笑みでコツンって私とおでこを合わせてきた。

「優太ちゃんのことは大好きだったし~、かけがえのない奴隷だったわ~。けどね~優太ちゃんと同じぐらいに~、ちぃちゃんのことだって大好きだからね~」

 心に広がっていた波紋が落ち着いてくる。不安を消してくれる。

「あの時は必死で不安で仕方なかったわ~。荒れた心を優太ちゃんが静めてくれるのが心地よくてね~、失いたくないって強く思っていたわ~」

 思い出の中にいる、お父さんの大きさが声色から伝わってくる。やっぱり、凄い奴隷だったんだなって。

「だからみんなが選んだ結果も~優太ちゃんが選んだ道も認められなかったわ~。けどね~、ちぃちゃんが考え方を変えてくれたわ~。優太ちゃんが望んだ未来って~、こんなにも温かく穏やかになれるものだったんだって~」

「氷竜ちゃん」

「だ~か~ら~、生まれてきてくれてありがとね~。ちぃちゃん」

 最初は望まれてなかったのかもしれない。けど、今はちゃんと存在を望まれている。凄く嬉しい。

 だってきっと私も、お父さんも認められているから。

「うん。氷竜ちゃんもありがと」

 笑ったら笑みが返ってくる。きっとこの当たり前って、凄く幸せなことなんだ。お父さんの日記帳がなかったら、気付けなかったよ。

「あら~。よく見たら2冊目の日記帳が最後までいってるわね~。次は~私が買ってあげた日記帳ね~」

 青くて泡模様の入ったファンシーな日記帳。ほんわかしたところが氷竜ちゃんらしい。

「かわいい日記帳だよね。氷竜ちゃんみたいだよ」

「ありがと~。って言いたい所なんだけど~、半分鮎歌のアドバイスなのよね~。書ければなんでもいいって言ったら全力で修正されちゃったわ~」

 鮎歌ちゃんの修正力が効いてたのか。通りで趣味がいいと思った。

「楽しみになんだ。お父さんがお母さんたちに何を想って生きていたのかを知るのが。だから後2冊。楽しみに待っててね」

「きっとステキなエピソードが綴られているわ~。だから~、大切に想いを汲んであげてね~」

 大丈夫だよ。だって私も、出会ったこともないけども、お父さんのこと大好きだから。

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