揺れる水面に広がる波紋
目が覚めたら水の上にいた。透明度は高いのに底が見えない深い青。
ただ水面だけが広がる何もない空間。けれども不思議と怖くはなく、穏やかな海のように落ち着いている。
とりあえず歩いてみる。足が動くままに。
沈むことのない水面に違和感すら覚えなかった。
なんとなく、スっと導かれるように進む。
朝ご飯、何作ろうかなくらいの考え事をしながら数分。水面に浮かぶ白いテーブルセットが視界に入ってきた。
2脚の椅子の手前側に、青いシルエットが座っている。
「おはよ~優太ちゃん。お話ししたいことがあるから座ってほしいな~」
ニコニコ笑顔で氷竜があいている向かいの席へと促してきた。対面から向き合う。
どうやらここは氷竜が魔法で作り出した空間らしく、俺の本体は水に包まれた状態で眠っているらしい。
中空に映像を出されたときはビビったね。アレ息できてるのか?
呼吸は問題なくできているようだが、氷竜のさじ加減ひとつで溺れさせることも可能だとか。まぁ今は羊水みたいに優しく包まれてると捉えておこう。
で尋問が始まった。2ヶ月前、明理さんと出会ってから俺の様子がおかしいことは刹那家のみんなが気付いていたんだと。
挙動が酷くてバレバレだったらしい。隠していることを吐けって裏氷竜に迫られる。
早い段階で打ち明けなければいけないことだったし、氷竜に余計な手間までかけさせてしまった事を詫びてから打ち明けた。
人間の寿命のこと。残された猶予が僅かなこと。そして……俺自身の意志を。
今まで堰き止められていた思いが崩壊して流れ出す。場の雰囲気のおかげか、ためらいなんてなかった。
衝撃を受けた氷竜は暫く放心していたけど、やがて立ち上がると俺の顔を抱き寄せて豊満な胸へと導いた。
「辛かったわね~。大丈夫よ~。優太ちゃんをこれ以上強がらせないから~」
抱き締める腕の強さと甘い抱擁から、揺るぎない意志を感じさせられた。
意識が遠のくと、いつもの自室で目を覚ます。水に包まれていただけあって身体はびしょ濡れだったけど、それ以外は特になんともない。
見渡すと側には氷竜と、亀夜・子虎・千羽と全員揃っていた。
「みんな見ていたわね~。婚礼生誕の儀なんてさせないわ~。ただでさえ短命なんだもの~。最後まで一緒に生きてもらうわよ~」
氷竜の決意に驚く。揺るぎのない笑みが、確固たる意志を伝えてくる。
「断る。優太は、子供を望んで……いる。ならば、執り行うべき……だ。婚礼生誕の儀……を」
真っ向から対立したのは亀夜だ。
「あっそ。やってらんないわ下らない。好きにすればいいじゃない」
踵を返したのは千羽だ。素っ気ない態度に寂しさを感じて、縋り付きたくなった。
「そんなまさか、優太くんは……」
全員がそれぞれの意志を固める中、子虎だけが酷く動揺して意見を出せずにいた。
俺の寿命ひとつで刹那家にこうまで波紋が広がってしまうなんて。
俺は、どこから収めていけばいい。
わからないけど、1番心の大波に煽られているのは、子虎のような気がした。




