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奴隷日記  作者: 幽霊配達員
黒の書
48/55

仄暗い音色

 山で一泊した翌日。俺は一人遭難する事に。

 夏といえど肌寒さを感じる山の早朝。なぜか鈴に一人起こされて散歩をすることになる。

 森の動物を観察しに行きたいから、秘密で一緒に着いてきてほしいって。

 友達である子虎や、地震の奴隷であるスライムの御手洗さんじゃダメなのか聞いてみたんだけど、なぜか俺と一緒に行きたいんだと。

 薄い色をした空の下、山道から外れて森の奥へと二人して入っていく。

 周囲を見渡して小動物がいないか確認していると、鈴から子虎の事で言いたいことがあると打ち明けられた。

「子虎の側から、消えて」

 暗い目付きで睨まれた瞬間、闇に包まれて何も見えなくなる。

 数秒したら闇は晴れたけれど、鈴の姿も見えなくなっていた。帰り道もわからない。

 来たであろう道を戻るべきか、動かない方が懸命なのか、困惑は増していくけれどとにかく帰らなければ。

 刹那家のみんなにいらない心配をかけてしまう。

 あてもなく歩くんだけれど、一向に山道に戻れる気配がない。いや仮に山道に戻れたとして、どっちに進めばいいかも結局わからないんだけれど。

 不安定な足場を歩いているせいで疲れが溜まるのが早い。気のせいか獣の気配を感じる気がする。

 草葉の擦れる音に敏感になってしまう。全ての音色が怖い。

 気がついたら、気持ちが縋ってしまっていた。声を出して助けを求めていた。

 千羽に、亀夜に、氷竜に、子虎に……

「やっぱり。子虎の害にしかならない。お前なんて、要らない」

 心細くなって俯いていたら、冷たい声が降ってきた。鈴が濁った灰色の瞳で見下している。

 全身にバチバチと電流を流して、開いた手のひらを銃口のように俺へと向けて。

 殺される。

 そう思っていたら、横から白い影に抱き飛ばされて助かった。子虎だ。

 御手洗さんも後れながら、息を切らして駆けつけてくれた。

 絶交でもする勢いで子虎が鈴に問い詰めると「だって子虎っ、奴隷と一緒だといつもツラそうなんだもん!」と涙を飛沫かせながら叫ぶ。

 子虎が怯んで、御手洗さんが目を見開いて、俺も身に覚えがあって、胸に深く突き刺さった。

 鈴は、子虎が心配で堪らなかったんだって。だから俺は子虎を宥めて、鈴を許してあげるようにお願いした。このまま友達を失っちゃ、いけないって思ったから。

 御手洗さんも鈴に胸を貸して介抱する。優しいし、奴隷の立場からできることはきっとそのくらいなんだろう。

 けど、きっとそれだけで充分なんだと思う。誰かの前で感情を爆発させて泣くって、思ったよりも遙かに難しい事だから。

 落ち着いてからみんなのところへ戻って、四人でみんなに謝って、それぞれのお家へと帰る。

 色々あったけど、俺たち刹那家の歪さを知るいい機会になったと思う。

 鈴だけじゃない。みんなの友達に認めてもらえるような、ステキな奴隷にならなくっちゃ。

 課題はたくさんあるけれど、間違いながらでも少しずつ解き明かしていこうと思った。

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