歪みの黒風
全治五日の大ケガを負ってしまったせいか、刹那家のみんなの反応がどうにもぎこちない。
特に子虎は俺の身体を見てしまったせいか、俺への申しつけが特にぎこちなくなってしまった。虐待の痕が至る所に刻まれてるからな。
正直、五日で治るならかなり早い方なんだけどな。魔女の回復魔法による治療は凄いから。本来なら三ヶ月以上かかるケガなんだけどな。
ただなまじ回復魔法なんかあるから、本来は一瞬で治るのが普通らしい。で一瞬で治らないからこそ病人扱いになってしまっている。
そんな中で言動が変わらないのが千羽なわけで、俺を大切に扱おうとする子虎が突っかかってしまって、ケンカ寸前だ。
ケンカする事自体はもう諦めているんだけど、せめて原因が俺じゃなければ思ってしまう。
まぁ朝は出勤時間が迫っていたからお開きになったけども。
それと折角なので、仕事帰りに買ってきてほしいものを亀夜にお願いした。困惑しつつも受け入れてくれた。
当然一時的な解散で、二人が仕事から帰ってきたら再戦となる。
氷竜は慣れたもので、亀夜へどっちが勝つか賭け持ちかけたんだけど、ここから少し普段と違った。
「千羽、今から私のサンドバッグになってくれない……か?」
てっきり亀夜が仲介に入ってケンカを止めてくれるのかと思ったんだけど、なんと千羽にケンカをふっかけてしまう。それもかなり上から目線かつ、不承不承といった感じで。
千羽の性格なら逆上間違いなしの言い回し。当然ぶちギレてケンカを買う。
ちなみに子虎はすっかり頭が冷えたみたいだ。
で庭に出て亀夜と千羽のケンカが始まったんだけど……詰め将棋みたいな戦いだったな。
全て亀夜の手のひらの上みたいな。
闇だまりを作っての目眩ましに土魔法の設置。詠唱による多種多様な属性魔法に瞬間転移。切れる手札が多い。
千羽の行動を全て読んで一方的にケンカを進めていた。いや最早ケンカと呼べる代物じゃなかった。
地に落ちて動けない千羽に、亀夜が岩塊を作って頭に振り下ろそうとしたところで俺は止めに叫んだ。
まぁ意味なかったんだけど。そもそも亀夜は加減でできるから、最後のトドメも千羽の顔の横に打ち付けて終了。
本当に亀夜の憂さ晴らしで決着がついた。
千羽も落ち着いてい亀夜を受け入れていたけれど、いつかやり返すと言い返していた。
夕食が終わってから亀夜に、お願いしたものを渡してもらう。
二冊目の、二年目になるはずの日記帳。
黒色ベースのシンプルなデザインがなんとも亀夜らしい。今日から早速、記録をこの日記に記していく。
何事もなく、次の一年分も埋まりますように。




