物置の奥底に眠っていた奴隷日記
「やっと物置の壁が見えてきたよ。お母さん達ってば、お片付けとかお掃除とか、本当に苦手なんだから」
ほーんと、私が家事諸々を出来るようになるまでどうやって生活してきたんだろ。
「物心がついた時にはお家がゴミ屋敷だったんだよね。整理整頓出来た家が普通だって気付くまでは何の疑問も感じていなかったのが我ながら怖いよ」
まぁこんな奥底に眠ってた物だから、殆ど要らない物だと思う。けど念のため確認しなくっちゃ。たまーに使える物があったりするからね。レシピ本とか。
「コレもゴミ。コレもゴミ。コレとコレとコレもみんなまとめてゴミ。えっと、この本は?」
赤、黒、青、白の順で並んだ四冊の本。サイズもデザインもバラバラで、まとめて置いてあるのが不思議だった。
手に取り表紙を見て、手書きで書かれている文字を見てハっとした。捨てちゃいけないヤツだって。
「ちぃちゃん。片付け進んでる?」
物置のドアの方へ振り向くと、赤いロングヘアーの女性が近付いてきてた。
「あっ、お母さん。私にばかり任せてないで少しは役に立ってもー」
「ごめんごめん。けど私が手伝うと却って邪魔になっちゃうでしょ」
悪気なく謝ってくるところがしょうがなく思う。実際手伝って貰ったらその分手間が増えるもんだから文句も言えない。それより。
「お母さん。この本知ってる?」
一番左にあった赤い本をお母さんに手渡すと、赤いつり目を驚いたようにまん丸くさせた。
「うわっ、懐かし。まだ残ってたんだ。相変わらず何書いてあるかわからないわね」
表紙を見ながら嬉しそうに微笑むお母さん。やっぱり大切な思い出なんだ。
「この本は私の奴隷、ちぃちゃんのお父さんが書き綴っていた日記帳よ。こういうのもマメだったのよね」
やっぱりお父さんのなんだ。それにやっぱり、お母さんには書いてある字が読めないみたい。
「お父さんの。この四冊全部そうなの?」
「そう。一年で一冊ずつ。計四年分ね」
そっか。この四冊の日記帳にはお父さんが過ごした記録が残ってるんだね。
「ねぇお母さん。この日記帳、私が翻訳してもいいかな」
「翻訳って、ちぃちゃんはこの文字読めるのよね。そうね、せっかくだからお願いしちゃおっかな。暫く酒の肴に困らなくなるわ」
お酒ってそんなに美味しい物なのかな? 早く飲んでもいい年になりたいな。
けどその前に、この日記帳を翻訳しちゃわないと。
私は表紙に、日本語で“奴隷日記”と書かれた日記帳を胸に抱いて意気込んだよ。