プロローグ
その日、地球は暗雲に覆われた。
なんの前触れもなく、あまりにも突然に。
世界そのものを覆い隠してしまった。
一ヶ月経っても原因は不明、それどころか生活で使用される電子機器が、不調を引き起こし始める始末。
偉い人は言う、これは一時的な環境の不調だと。
怪しい人は言う、これは世界破滅の前触れだと。
神は言う、これは異世界が終焉を迎えたと。
「で、何して欲しいのさ、俺に」
「君にはお金を集めてもらいたい」
世界が暗雲に包まれてから半年。
完全に世紀末みたいになった世界で俺は、日々をもがきながら暮らしていた。
自給自足、なんてできるわけもなく、取り敢えず保存食で食い繋ぐ日々。
昨日生きてた友人が、明日には死んでいるような世界で、寝て覚めたら神を名乗る奴が俺の前にいた。
まぁ、こんな世界だ。
最初はなんかヤバイもの食って幻覚でも見てんのかなぁ、と思っていたのだが、それがどうも現実らしい。
「俺は……どうなったんだ?」
「死んだね。寝ているところをサクッと殺されたみたいだ」
「ヤな死に方。それで……世界がどうのこうのって言ってたけど。アレはなんなんだ?」
「色々と説明しなきゃいけないね」
と、人物像が不明確な神を名乗る奴は、説明を始めた。
こいつ曰く、あの暗雲は魔力と呼ばれるものの塊なのだそう。
元々別の世界で出ていたものが、あまりにも広まりすぎて地球に漏れ出てしまったのだとか。
それでもあってか電子機器は不調を引き起こし、世界そのものに悪影響を及ぼしたらしい。
ちなみにこの後、地球は滅ぶのだとか。
「そこで、君には暗雲が出てくる五年前の異世界に行ってもらう」
「異世界!?」
「そう、暗雲が起きた世界。異世界だ。君の知ってるようなザ・ファンタジーな世界なんだけどね」
と、言うわけで。
この神は俺に異世界に行って、金を集めろ、と言ってきたわけだ。
一体、暗雲となんの関係があるというのか。
「それで、異世界に行って、金を集めろと」
「そう」
「いくら」
「十兆」
……今、なんと言った?
「……ん? 俺の聞き間違えかな。十……」
「兆」
「すまん、このまま死なせてくれ」
五年で十兆? 無理無理無理。
知識チートもできないような人間が、異世界に行って十兆集めろとか。
無理極まりすぎてるだろ。
それならこのまま死を選ぶぞ、俺は。
「まぁまぁ、話は最後まで聞いてくれよ」
「……と、言うと?」
「一応餞別というか、特別な力は渡そうと思う」
「ほう。力、ってのは?」
「他者の潜在能力を測る力、さ。君の成長次第で、強化される能力さ」
……それは役に立つ、のだろうか。
いや、役には立つんだろうが、金を集めるのに、他者の能力を測ってどうしろと。
せめて自分の力をどうにかしたいのだが。
「……なんで十兆集める必要があるんだ?」
「それは……時が来たらわかるさ。断言はするよ、十兆で世界は救える」
あまりにも真剣な目つきで言うものだから、信じざるを得ない。
とにかく俺が十兆集めなければ、異世界は滅ぶし、地球も滅ぶらしい。
……やれるのだろうか、本当に?
十兆だぞ。
そんなにあれば遊んで暮らせるどころの話ではない。
十兆なんて大金があれば、一国すら掌握できるだろう、多分。
「……まぁ、それでなんとかなるなら、やれるとこまでやってみるけどさ。このまま死にたくないし」
それを聞いた神は安心したようなため息を出す。
「よかったぁ。このまま受けてくれなかったら、どうしようかと思ったよ。さて……」
と、言うと。
不明瞭な人影は俺に近づいてきて、右手の親指を俺の右目に近づける。
その瞬間、右目に突き刺さるような激痛が走って、俺は痛みで悶え苦しむ。
「うぎゃあああああああああッッ!!!? みぎめっ、右目がぁああああああああああッッ!!!?」
「おおっと、ごめんごめん。説明もなしにやるもんじゃないね。取り敢えず、それで君の体に力がついたはずだ。他者の潜在能力を測る力が」
「い、いてぇ……マジで、死ぬっ……」
今まで生きてきた中で一番痛い。
右手の人差し指が腐り落ちた時よりも痛い。
「方法はなんでもいい。とにかく君にはお金を集めて欲しい。五年後までに、十兆という大金を」
「……あ、ああ」
「僕からは何の干渉もできないから……後は任せたよ」
神がそう言うと、俺の意識がだんだんと微睡んで行く。
必死に起きようとすればするほど、どんどん意識が深く落ちて行く。
そして俺は意識を失い、完全に眠りに落ちてしまったのだった。