[動?画の再生に問d*が発ssessssssi荊アキラ - エンドレスコーマ
●Quar 18:49
いやぁ
●Quar 18:50
ついにやっちゃったなぁ僕ってば!
●Quar 18:50
やっとだ、
●Quar 18:51
やっと僕が、
●Quar 18:51
唄川メグが、完璧な姿で此の世に顕現したんだ!!
●Quar 18:51
てかそもそも論、
●Quar 18:52
コレってなかなかに大偉業じゃない!?
●Quar 18:52
失われた唄川メグの声を再生できたし
●Quar 18:52
℃-moreとのコラボ、って形式だからネームバリューもバッチリ!
●Quar 18:53
昼前の投稿だったけど拡散速度も落ちてないし、
●Quar 18:53
あ、いま50万超えた
●Quar 18:54
トレンドも1位キープしてるっぽいねーコメントの伸びも悪くない!
●Quar 18:54
ほらほら、「メグの声ヤバい」「メグの良さが詰まってる」だってさ!
●Quar 18:54
僕のおかげで思い出せたんだろうにもう古参面してる奴いて草
●Quar 18:55
ともあれさ、
●Quar 18:55
みんな褒めて褒めてー!!
●Quar 18:55
てかちゃんと聴いてくれた???
●Quar 18:56
たぶん1,000万は固いからみんなも古参面するなら早い者勝ちだよ!
●Quar 18:56
そんで感想ちょうだい
●Quar 18:57
称賛絶賛感嘆讃美羨望嫉妬その他もろもろ何でもウェルカムだよ!!!!
○Tri 18:57
うるさい
●Quar 18:57
うるさい、って言ってるけどさぁ
●Quar 18:57
鳥さんだって嬉しいんでしょ~このこのぉ~!!
●Quar 18:58
(なおこの1週間弱、ほぼスタジオに軟禁状態にされた点は除く)
●Quar 18:58
鳥さんほんとスパルタだよねー
●Quar 18:58
「あ」の音を録るだけで何十回リテイクするんだーって思ったw
●Quar 18:58
親父にもリテイクされたことないのにィ!
●Quar 18:59
てか隣にいるんだから口で言えばいいじゃーん
●Quar 18:59
……ハッ!(そのとき僕は閃いた)
●Quar 18:59
(もしや鳥さん、)
●Quar 19:00
(現実だけじゃ飽き足らず、)
●Quar 19:00
(文字だけのグループ内でも僕と一緒にいたいってコト……!?)
●Quar 19:00
我々はその謎を解き明かすべくジャングルの奥地へと向かった……
●Quar 19:01
そして我々は1つの結論へと辿り着く……
●Quar 19:01
鳥さん……、今夜は何だか……、積極的、だね……♡
●Quar 19:02
うーわ人外を見る目
●Quar 19:02
とにかくさ!
●Quar 19:02
これで一段落ついたことだし
●Quar 19:03
あとは僕と鳥さんに任せてよ!
●Quar 19:03
何なら、
●Quar 19:03
この五重奏グループも解散でいいんじゃない?
●Quar 19:04
Sと名無しさんの願いは僕等が継ぐし、
゜Du 19:04
唐突に申し訳ありません。Duです。どうしてもお話ししておきたいことがあるため、筆を執りました。私は皆様のようにすばやく文章を入力することが不得手ですので、事前に用意していた文面にて失礼いたします。会話の流れを遮ってしまっておりましたらすみません。
●Quar 19:04
お、めずらし
●Quar 19:04
いいよ~、とりあえず待ってあげりゅ!
●Quar 19:05
ななししゃん、がんばぇ~!!
゜Du 19:05
私がお伝えしたいのは二点です。一つ目は、私がこちらに入会した目的は皆様が心置きなく過ごせるためだということです。以前もお話ししましたが、どなたも例外なく、辛いこともなく、健やかに日々を過ごせることこそが私の希望です。それは、ここにいらっしゃる皆様は勿論、唄川メグさんご本人も含めてです。彼女が望んでいないことは私も望みません。メグさんの事情を正確には存じ上げない私が言えたことではないと、重々承知しておりますが、彼女の名前だけをこうして表舞台に引き上げるようなことは、私の望むことではありません。
゜Du 19:06
もうひとつは、誰も傷つかないようにしたいということです。私はSさんの御心に賛同してこの会の末席を汚しておりますが、それは私の目的を貫くことと相違しません。以前Quarさんは私たちの目的をお聞きになった後、「私たちは同じ結末を望んでいる」とおっしゃいましたが、いまの状況が私たちの望む結末だとは、私にはどうしても思えないのです。
゜Du 19:06
ですのでどうか、QuarさんもTriさんも、今後の活動について改めてお考え直し頂けないでしょうか。
●Quar 19:08
……名無しさん、
●Quar 19:09
え、言いたいこと終わり?
●Quar 19:09
なんだ、身構えちゃって損したよぉ!!
●Quar 19:09
んもう思わせぶりっこさん♡
○Tri 19:10
いい加減にしろ
○Tri 19:10
失礼にも程がある
●Quar 19:10
だーかーらー、隣にいるんだから口で言ってってばよぉ!!!
●Quar 19:11
僕ちゃん泣いちゃうゾ!!!
●Quar 19:11
まあ、そんな愛らしい鳥さんは置いといて
●Quar 19:11
いいかい、名無しさん。1つずつ訂正してあげるね
●Quar 19:12
まず名無しさんは結局何を「お考え直し」してほしいの?
●Quar 19:13
今回僕が公開した曲のことを否定したくて言ってるなら、それは完全に的外れだ。「唄川メグ」の名前は僕等が騒ぎ立てなくても、最初からネットっていう表舞台に晒されてた。僕等が発端ってわけじゃない。それに現時点での「唄川メグ」は僕だ。実際に表舞台にいるのは"あのメグ"じゃなくて僕なんだけど? その時点で君の論点はズレてる
●Quar 19:15
あ。あと付け加えるなら、アレはもう「唄川メグ」なんかじゃないよ。ただの抜け殻。素体としては悪くないけど、アレに「唄川メグ」として人前に立つ自覚も意志も無い。僕と鳥さんはこの目で見たからはっきり分かる。名無しさんも実際に会えば分かるんじゃないかな?
●Quar 19:16
あそっかそっかー、名無しさんって引きこもりなんだっけ? しがない自宅警備員ならお外のコト知らなくても仕方ないかーうんうん
●Quar 19:16
次に
●Quar 19:17
仮に名無しさんの言う通り、アレが人並みに傷付いてたとして、
●Quar 19:17
だから何なのさ?
●Quar 19:18
僕は自分の幸せの為にこーんなにも頑張ってる! しかも今回の"当事者"は僕だ! この状況でアレが勝手に傷付いたんだとしたら、それを何て言うか知ってる? 被害妄想って言うんだよ?
●Quar 19:19
名無しさんは「誰も傷ついて欲しくない」っていうけど。現に僕の心の平穏は「僕が唄川メグであること」、そして「あのメグがこの世界から完全に消えること」
●Quar 19:19
この場合、君はどっちを優先するんだろうね? 僕かな? それともあのメグかな?
●Quar 19:20
「みんなの幸せが私の幸せ」だなんて言葉は、今の状況じゃあ、自分の望みの為に五重奏メンバーとしての権利と責任を完全に放棄したのと同じことだ。違うかい?
●Quar 19:20
そんな責任逃れみたいな目的を振り翳す君が、僕等の望みに口を出して、あまつさえ否定するとか本気で言ってるのかな?
●Quar 19:21
君みたいな平和主義者はとっても高潔で素晴らしいと思うけど、机上の空論でみんなが幸せになるならカミサマなんて要らない。ひるがえってカミサマはいないんだから、僕等全員が幸せになれるわけがない
●Quar 19:21
そしてその幸せは僕のものだ
●Quar 19:21
君のものじゃない
●Quar 19:22
最後に、
●Quar 19:22
前も言ったけど、僕等の望む結末はみんな一緒
●Quar 19:22
当然の帰結ってやつさ! そこは絶対に変わらないって僕は思うなぁ
●Quar 19:23
このまえ、Sと名無しさんが規約違反を無視して教えてくれた目的はそれぞれこうだったよね?
S:目的はなし,各人の自由に任せる
名無しさん:みんなが心置きなく過ごせること
●Quar 19:24
そして鳥さんと僕の目的もこうだ
鳥さん:メグの歌声が復活すること
me:僕が唄川メグになること
●Quar 19:24
ほらね?
○Tri 19:24
何が言いたい
●Quar 19:25
え゛ぇ~全部言わなきゃ分かんない~? 鳥さんの欲しがりさん☆
●Quar 19:25
つまりさ、
●Quar 19:26
僕が「唄川メグ」になってこの素晴らしき歌声をみんなに届けること、そして元の「唄川メグ」にはこの世界で綺麗さっぱりお亡くなり頂くこと
●Quar 19:27
コレこそ最良の結果でしょ!!
●Quar 19:27
僕等が前に立てた仮説、覚えてる?
●Quar 19:27
「虚数の歌姫・メグは電子世界を離れて現世に現れたのであり、異能はその副産物に過ぎないのではないか」
●Quar 19:28
これまでの経緯から、この仮説はほぼ立証されたと言っていい。あとは簡単な推量さ!
●Quar 19:28
「メグが現世に居ることで異能が産まれたのなら、メグが死ねば異能は消える」。この仮説も同じく等しい、という可能性を秘めている。むしろそう考えるのが自然でしょ?
●Quar 19:29
あとさ、Sも名無しさんもちょこちょこコメント削除したりして隠してる風だけど、2人ともかなり仲良いよね? もしかしてリアルでも面識があるんじゃない?
●Quar 19:30
名無しさんは自分の目的を「みんなが心置きなく過ごせること」って言ってたけど。ソレ「みんな」じゃなくて、主にSのことでしょ?
●Quar 19:32
みんな知ってると思うけど、Sの異能は「匿名の異能」だ。こんなふわっとした名前と、個人情報を徹底的に隠したミステリアスボーイを演じない限り、Sは社会から永遠に忘れ去られる運命にある。前に聞いた感じだと代償もけっこーエグいよねぇ。現実で生きるの辛くない?
●Quar 19:32
異能が消えれば。君は現実世界で普通の人と同じように生きて行ける
●Quar 19:32
そしてメグが死ねば、君は異能から解放される
○Tri 19:33
保証は
●Quar 19:34
おやおや~? 鳥さんも気になるんだ~? でもざんねん、保証はないよーん。可能性の話だって言っただろう?
●Quar 19:34
でも保証はなくても、Sはその可能性を無視できない
●Quar 19:35
その可能性を捨て切れない
●Quar 19:35
そしてSがその可能性を捨て切れない限り、名無しさんがメグの死を断る理由もない
●Quar 19:36
君たち2人は"メグの死"という最良の結果を望まずにはいられない
●Quar 19:36
なにより、
●Quar 19:37
ここまで話しておいて、Sが一切口出ししないのがその証拠じゃないかい?
●Quar 19:37
Sは、僕の
□S 19:37
関与しない
□S 19:38
QuarおよびTriの行動に一切関与しない
●Quar 19:38
ほらやっぱりー☆
●Quar 19:39
確かに僕が今回このタイミングで新曲を投稿したのは、「区員さんとメグで新曲作ってるらしい」って聞いたからだ。そこは狙った。でもその噂だって、最初に教えてくれたのは他でもないSだもんねー。Sも、僕がそう動くと踏んだからわざわざ教えてくれたんだ! Sって優しい~
●Quar 19:40
Sよ、我々より貴方様に最上級の祝福を捧げます
●Quar 19:40
だって、
●Quar 19:40
Sは僕の味方だよね?
●Quar 19:40
Sは、僕のやり方を否定しないよね?
●Quar 19:41
まあみんな、大船に乗ったつもりでいなよ!
●Quar 19:41
僕が何とかするから
●Quar 19:42
というか、僕なら何とかなるから
●Quar 19:42
昔っから人一倍運が良いからさ、僕ってば!
●Quar 19:43
狙ったタイミングで投稿できたし
●Quar 19:43
この前名無しさんに写真撮ってもらったから、彼等に襲われても何の不都合もない!!
●Quar 19:44
大丈夫
●Quar 19:44
全部僕がやってあげる
●Quar 19:44
僕がみんなを救ってあげる
●Quar 19:45
安心して
●Quar 19:45
僕が、
●Quar 19:46
僕こそが唄川メグなんだから
────────────────────────
「おい」
鳥さんの声で顔を上げた。ギターケースを肩に掛け、重たそうな機材を軽々と持ち上げながら、鳥さんがスタジオ出口の取っ手を掴んでいる。「時間だ。さっさと支度しろ」
「んもう、鳥さんのイヂワル~。さっきまで一緒にチャットしてたくせにぃ〜。この僕を置いてけぼりにするつもりかい?」
おどけて言ってみせる。なのに鳥さんはこちらを振り返ることもなく、本当に先にスタジオを出てしまった。
「うーわ、本当に出てっちゃったよ……」
仕方なくスマホをポケットに押し込み、自分の機材を抱えて僕もスタジオを後にする。
狭い廊下を鳥さんの背中を追って歩く。疲れからか、肩に掛けた機材のベルトが肩に食い込むようだ。長時間同じ姿勢でスタジオに籠っていたからか、腰やふくらはぎも鈍く重い。異能で筋肉の一部を調整しながら、ちら、と腕時計を見やる。昼前に投稿してから、かれこれ6時間近く籠っていたことになるのか。
それもこれも、全部鳥さんの所為だ。
前を行く鳥さんの後ろ姿に、そっと溜め息を投げつける。約1週間近く続いたUTAU用の音源収録は、鳥さんのおかげでスパルタを極めた。やれ声の太さが違うだの、やれ感情の配分が違うだの、おそろしいほど些細なことで録り直しをさせられる毎日。50音をひたすら読むだけなのに、どうしてこんなにも時間をかけるのか僕には理解できなかった。
しかも昼前に本命曲は投稿し終わったにもかかわらず、その後も他の新曲や、音声ライブラリの修正用に、と追加で山のように収録させられた。何とか区員さん達の新曲よりも早く出せたから良かったものの。
「……ほんと、ちょっと引くぐらいには凝り性だよねぇ」
「何か言ったか」
どうやら声が漏れてたらしい。退店受付を済ませた鳥さんが、こちらも見ずに言う。
「いやいや? 色々あったけど、とりあえず曲が完成して良かったなーってさ」
「悪かったな"凝り性"で」
「聞こえてんじゃ〜ん。鳥さんも人が悪い」
まあでも、と続ける。「これで唄川メグの認知度も爆上がりしたわけだし。最初の火種としてはちょうど良かったかなぁ」
「……だが、次はオレだ」
数歩先を歩く鳥さんが入口の扉をギィ、と押し開ける。隙間から溢れ出る夜の匂い。電光の迷彩と、ぬるい夜風。
「今回の投稿自体は、おまえの"計画"とやらに乗ったまでだ。契約通り、UTAU音源はもらう。あとはオレの好きにやる。もうおまえと組むこともない」
「えぇ〜、鳥殿そんなご無体な!」
「寄るな。うるさい」
すり寄る僕に対し無表情のまま、静かな苛立ちを隠さない鳥さん。
「おまえは巫山戯すぎる。3日もかからないはずの音源収録が1週間以上かかったのは誰のせいだと思っている」
「お茶目でしょ?」
「黙れ」
「だってぇ、あんな脳死作業つまんないんだもん! それに愛嬌は大事でしょ。『僕はみんなのアイドルだよ?』」
「メグの声を無駄に使うな、偽善者め」
「え~……、そこまで言う……?」
まばらな雑踏の中、前後に分かれて歩く僕等。一向に縮まらない鳥さんとの歩幅。
「第一」振り返った鳥さんが冷めた目で僕を睨む。「おまえはその"計画"とやらを一向に明かそうとしなかった。腹の内を見せず、笑いながら策を弄する奴を偽善者と呼んで何が悪い」
「明かすも何も、あれ冗談だよ?」
「…….なに?」
ピタリ、と足を止める鳥さん。虚を突かれたようなその顔は初めて見る表情で、少し吹き出してしまいそうになる。
「だってほら、"計画"って言った方が何だかソレっぽいじゃないか! 反対に"何となく"って言えば鳥さん絶対協力してくれなかったでしょ? それこそあんな脳死作業、独りでやってもつまらないし」
しかし鳥さんは深い、吐き捨てるような溜め息をついた。そのまま踵を返し、再び僕の先を歩き出す。
「あれ、鳥さん?」
「もういい。おまえに期待したオレの落ち度だ」
「わぁ辛辣」
鳥さんの背中を追い掛けながら、僕等は賑やかな市街地を抜けていく。まばらな雑踏が次第に薄まっていく。帰路につくサラリーマンも、居酒屋の前ではしゃぐ若い集団も、そそくさコンビニに駆け込む人も。みんな後ろに流れていく。辺りには、夜の静けさに浸り始めた下町が広がり始める。点在する電灯。隅にわだかまる宵闇。暗いアスファルトの臭い。
「まあ、全部が全部"何となく"ってわけでもなかったけどね」
「言い訳はいい」
「ほんとだってば。或る程度狙っていたことはあったんだ。これは嘘じゃない」
すげなく否定する鳥さんに、指折り数えながら列挙していく。
「さっきも言ったけど、『唄川メグ』ってコンテンツにもう一度火を付ける、っていう点は狙ってた。僕と鳥さん、ネームバリューのあるP同士で共作したのもそう。バズらせるなら大手とのコラボが手っ取り早い、ってのは常識でしょ? それから他のPへの同調圧力も掛けたかったし。こんなに盛り上がるコンテンツに乗り遅れるなんて馬鹿だぞー、ってさ。あとは『HighCheese!!』には真っ先にDM送ったこと。少しは牽制にはなったんじゃないかな?」
「……ふん」
そこまで言って、ようやく鳥さんが反応した。「そして、その渦中の人間が『荊アキラ』であること、か」
「大当たりぃ~」
思わず口元が綻ぶのが分かる。打てば響く、とはこのことか。心底呆れたような鳥さんの溜め息すら今は快い。
「だって鳥さん。知名度も実力も、それにこの異能もあるんだよ? ここまで揃えば"何となく"だろうと、ここまでの結果は導き出せる。それはもう僕がやってしかるべきだろう?」
「……」
「あ、もちろんみんなのおかげでもあるけどね? それに予想外の収穫もあったんだ。他のP数人からDM貰ったんだ、『どうやってメグを蘇らせたんですか』『自分もメグの声が欲しいです』ってさ!」
数人、とは言ったけど、実際はもっと多かった。10人を超えるPから、「唄川メグ」という音声ライブラリをどこから手に入れたのか、とほぼ詰問に近いDMが届いた。
中には"にくたま"の時みたく、五重奏に勧誘していたPも含まれていた。僕等の行動理念を少しでも知っている人達の目からすれば「僕等がメグを生き返らせた」と見えたんだろう。彼等からの疑問に含まれる熱量は、僕の想定を遥かに上回っていた。
「ほら、区員さんも抜けちゃったでしょ? 五重奏の新しいメンバーを勧誘するのにもけっこう役立つと思うんだよ!」
「さっき『解散するべき』と提案していたのはおまえだったと記憶しているが」
「え~、だってさぁ~。さっきのチャットでもそうだけど、現状グループ内で話してるのほとんど僕だし……。Sも名無しさんも、乗り気じゃないなら別に居なくていいし……。それに話し相手が増えるのは良いことでしょ? ウサギは寂しいと死んじゃうんだよ?」
「ほざけ。おまえのような"怪物"をウサギとは言わん」
「ヒュ~♪ 今日も鳥さんの辛口、絶好調~。もっと罵って♡」
僕の言葉を完全に無視して、鳥さんがつぶやく。「……あの男は、動くと思うか」
鳥さんの言葉に、またしても口元が綻ぶ。
あの男。他人にほとんど興味を示さない鳥さんが「あの男」という人間は、現状1人しかいない。
僕は軽やかに答える。
「そうだね。彼は間違いなく────」
────その瞬間、景色が吹っ飛んだ。
静かだった暗闇の街が、凄まじい勢いで下方に押し流されていく。街灯の明かりが地に堕ちる流れ星みたいに尾を引いて、内臓が浮き上がる感覚に襲われ、
ようやく自分が上空に吹っ飛ばされたことを知る。
身体は放物線を描き、視界は都会の極光にくすんだか弱い夏の夜空を一瞬だけ映し、放物線の頂点を過ぎた身体はゆっくりと落下し始める。
咄嗟に髪の毛を伸ばす。一番近いビル、その屋上の手すりに毛先を巻き付け固定。さらに毛先を伸ばし、数ヵ所に分けて絡ませ、本数を増やして耐久性を上げる。収縮の力を利用して、そのまま屋上に接近。何とか着地に成功した。
「……ふぅ。あっぶないなぁ!」
聞こえるように──着地した僕と同じタイミングで夜空から屋上に降ってきた2つの人影に聞こえるように、わざと声を上げてみせる。
「せっかく良い感じに1日を終えられると思ったのに、これじゃあ台無しだ! 僕が異能を上手く扱えずに、地面に叩きつけられてたらどうしてくれたのさ?」
しかし2つの人影はほとんど意に介さないようだった。2つのうち、背の高い方は気取ったように「ンフフ」と笑った。
「キミがそんなにヤワじゃないコトは知ってるわァ。コレも1つの"信頼"って言えるカシラ?」
「そうだね」と、隣の人影も頷いている。「いざって時にはわたしがキャッチするつもりだったけど。ふふ、君は異能の使い方がとっても上手いんだね!」
夜の街。電光の迷彩。その逆光から浮かび上がるように2つの人影、その顔が宵闇に浮かび上がる。足元に蠢く夜の喧騒、そこから取り残されたようなこの屋上で、僕と2人は向かい合う。
その2人の顔に、僕も笑いかける。
「やれやれ、君等の方から来てくれるとはねぇ。とっても嬉しいことだけど、それにしたって随分なご挨拶じゃないか?」
「アラ、ホント。挨拶が遅れちゃってごめんあそばせ? アノ時の借りをお返しするのに必死になっちゃってたワァ」
僕に負けず劣らず、45度にひねった腰に手を添えて。
背の高い男は──ZIPANDAは、優雅に微笑んだ。
「────Hi, sonny。今晩はツキが無くて良かったわネ?」




