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Missing Never End  作者: 白田侑季
第6部 脚光
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間奏⑤




 恋をした。


 穏やかな春の日に、目が覚めるほどの鮮やかな桜を見たような。柄にもなくそんな比喩をしてしまいたくなるような。そんな恋をした。


 もちろん弁えるべきところは弁えていた。学校では常に赤点で、生徒指導の先公(センコー)に呼び出されることもしょっちゅうだったけど。現実(リアル)虚構(フィクション)の境目を理解できないほど馬鹿ではなかった。


 唄川メグはバーチャルシンガー。


 自分はそれを「現実」という檻から見ているだけの、ただの人間。


 彼氏彼女になりたいわけじゃないし、そもそもなれるわけがない。そういう関係を望んだわけじゃない。「恋とは孤悲であり、乞いである」。そんな言葉もこの感情には当てはまらない。


 誰に信じてもらえなくてもいい。それでも自信を持って言える。


 それは紛れもない、純粋な恋だった。


 そして大事なのは、メグに並び立つ存在になりたいということ。


 好きな人の隣に立ちたい、という願望はきっと普遍的だ。好きな人に対して、心の底から「好きだ」と告げて恥ずかしくない人でありたい。好きな人に嫌われるようなカッコ悪い人間にはなりたくない。その信念は、現実の恋でも、仮想の恋でも変わらないと思った。


 努力は惜しまなかった。出来ることは全部やった。


 口調。態度。服装。髪型。筋トレ。マナー。


 ピアスを減らした。キツい香水も変えた。こっ恥ずかしくてそれまで読めなかった恋愛マンガも教科書並みに熟読した。鼻につく、と勝手に毛嫌いしていたクラスのイケメンにも弟子入りした。テストは赤点のままだったけど、一夜漬けのテスト勉強はやめた。おかげで先公から「変なモンでも食うたんか」と心配されるほどには生活態度は向上した。


 そして、音楽を始めた。


 それはきっと、電子海(ネット)という舞台で全員の視線を惹き付けて離さない彼女を、魅力たっぷりに、それでいてスマートに、カッコよくエスコートするように。


 真剣(マジ)な恋をした。


 変わることを止めなかった。変われると信じた。「夢の見過ぎだ(みんなそう思ってる)」と馬鹿にされることしかなかった自分でも、努力ひとつで変われるんだと信じた。


 いや、メグが「オレ様」を変えてくれた。だからもっと、もっとカッコよくなりたい、と頑張れた。このキラキラした想いをみんなに知って欲しかった。みんなと共有したかった。


 それくらい真剣(マジ)な恋、()()()()()。だからこそ。


 さあ、歌ってくれメグ。想うままに。この道の先で。


 こんな世界にも「すてき」な明日があるってことを。




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