ZIPANDA - シンデレラヒーロー
「何かを得たいなら覚悟を決めなきゃイケナイ。でもだからこそ、アタクシ達の覚悟を奪うようなマネは止めてちょうだイ」
「あんたらの、覚悟……?」
私を見上げてつぶやくK汰ちゃんに、精一杯の不敵な笑みを返す。
「そうヨ。キミのその自己犠牲は、本来なら周りのコが受け持つべき責任も後悔も覚悟も、全部奪ってるってコトなの。何の為にアタクシ達がココにいると思ってるのカシラ?」
その時、タイミング良くスマホがピコン、と鳴った。音数は3つ。私以外の、K汰ちゃんとノアちゃんの分も。
振り返ると、ノアちゃんが自分のスマホを振りながら微笑んでいた。
「ふふ。ごめんねぇ、途中で遮っちゃうのは良くないかなって思って」
「アラヤダ」私の方も慌てて謝る。「ゴメンナサイ、話し込んじゃって……。今の通知はノアちゃんが?」
「うん。"グループ"を作っておこうと思って」
「グループ? 何の?」
ノアちゃんは不思議そうに小首を傾げる。「K汰君の作戦を共有するための、だよ。みんなでシェアしておいた方が話が早いでしょ?」
ノアちゃんの言葉で、すぐに自分のスマホを確認した。画面には通知が1件。
〈「Novody@楽園P」さんがグループ「K汰君の作戦を共有するグループ」を作成しました〉
「……そのまんまじゃねえか」
「……そのまんまねェ」
「あれ。わたし名前の付け方変だったかな?」
あどけない顔でキョトン、としているノアちゃんに、K汰ちゃんが苦い顔をする。
「変っつーか。捻りが無さすぎて拍子抜け、つーか……」
「まぁグループ名を捻らなきゃイケナイ、ってワケでも無いのダケド……。意外な愛着点ってところカシラ……」
それより、と改めてメンバーを確認する。ここにいる私達3人の他に『ヒロアキ』、『にくたまうどん』、『HighCheese!!』の『ぷらす』と『獅子宮』。更には『マキシマム遥』の名前まである。
錚々たるメンバーに、心強さもひとしおだ。
「……グループ作成、ありがと。助かるワ」
「ううん」私の言葉に笑顔で首を振るノアちゃん。「わたしももう1回、あの五重奏の人たちとお話ししたいから。メグちゃんのこと、ちゃんと分かって欲しいもん」
決まりネ、と今度はK汰ちゃんの顔を見下ろす。
「ソレで? 我らがリーダーのご意見はいかがかしらァ?」
「…………誰がリーダーだ。勝手に人の名前使いやがって」
ぼそっと悪態をつくK汰ちゃん。けれどその目からは、もう冷たい光は消えていた。短くなった前髪をかき上げて、K汰ちゃんが溜め息を吐く。
「もしかしねえでも、こっから先はタダじゃ済まねえぞ。五重奏が本気で来る以上、もうこれはただの喧嘩じゃねえ。れっきとした戦争だ。……それでも、あんたらは」
重い口調のK汰ちゃんに、両手を挙げて「やれやれ」といった仕草で返す。
「ンもう、なんでアタクシ達のリーダーはそう深刻なコトバばっかり使うのかしらァ。ソンなんじゃフロアは湧かないわヨ?」
「そうだよK汰君。リーダーさんなんだから自信を持って。それにわたし達はもうお友達なんだから、わざわざ言わなくたって平気だよ」
「……ったく」呆れ気味に立ち上がるK汰ちゃん。「緊張感のねえ奴らだな」
「ンフフ。それぐらいでイイのよォ。何せコレからするのはイジワルな逆恨みじゃない──正統な反撃、デショ?」
私の言葉にK汰ちゃんは何も言わずに、少しばかり口角を上げた。
「それでK汰君、計画はどうするの?」
後ろ手を組みながらノアちゃんが尋ねる。「いくつか案は考えてくれてたけど。どれで行くのかな」
そうだな、と顎に手をやりながら考えるK汰ちゃん。
「相手は確実に俺らを仕留めるために、先々動いているはずだ。相手のペースに入られた時点で詰むだろうし、"誘い出し"や"真っ向勝負"もおそらく通用しねえ。ベストなのは、相手の居所を掴んでの奇襲だが、たまがいねえ以上その手も難しい。……ここまでは前に話したのと変わんねえ」
自分で考えを整理するようにぶつぶつと唱えるK汰ちゃん。やっぱり追い詰められた時の彼は頭の回転が早い。
「そうねェ。情報戦に長けてるのはアタクシ達の中じゃ、たまちゃんぐらいだもノ」
「それ、わたしも考えたんだけど」とノアちゃん。「P名は分かってるんだし、あの人たちの交友関係から聞くのはどうかな?」
ノアちゃんの提案をK汰ちゃんが引き取る。「それも無理だろうな。俺も考えなかったわけじゃねえが、その方法だと相手側に俺たちの行動が筒抜けだ。向こうもそれを見越して、知り合いに話を通してる可能性も十分にある。探りを入れるだけにしちゃあリスクがデカ過ぎんだよ」
「でも、それじゃあ」
ノアちゃんが尋ねたその時、K汰ちゃんがニヤリ、と笑った。余裕を含んだ、あの狂犬のような笑顔。
「────全部だ。全部仕掛けりゃいい」
「……"全部"? どういうこと?」
首を傾げるノアちゃんの横で思わずンフフ、と笑みが溢れる。「ワルい顔。何か思いついたみたいネ?」
「まあな。だが仕掛けるにしろ衝突するにしろ、どのみち『街ロマ』の協力が必須だ。あいつが居ると居ないとで、勝てる確率が桁違いに変わる。あいつには事前に話通しておかねえと」
「アラ、街ロマちゃん? 彼1人でそんなに変わるカシラ……?」
意外だった。街ロマちゃんと面と向かって出会ったのは、あの襲撃事件の時だけ。仮に彼も異能持ちだとすれば、あの時異様に舞っていた花弁の渦がそれに当たるのだろうけど。
正直、トリとカルの異能を目にした後で見劣りしてしまうのは否めない。(見た限りではあるけれど)片や「未来予知にも近い先読みの異能」、片や「変幻自在に身体を作り変える異能」。戦闘向きなのは、と聞かれればまず間違いなく五重奏の2人に軍配が上がる気がする。
けれどK汰ちゃんは、さして気にした素振りもなく頷いた。
「ああ。予想が正しけりゃ、街ロマ1人でトリの方は完封できる。問題はカルの方だが」
K汰ちゃんが投げた視線を、今度は私とノアちゃんがしっかり受け取る。
「任せてチョウダイ! アタクシのマーヴェラス・シャイニーな声で、あいつに天国を見せてあげるワァ!!」
「うーん、わたしは暴力とかはあんまり好きじゃないんだけど。出来ることをやってみるよ」
「それじゃあ早速みんなに伝えるね」とノアちゃんがスマホを起動させる。と、そのとき再び全員の通知が鳴った。しかも数回。3人分合わせるとちょっとした合奏みたいだ。
ちょうど画面を開いていたノアちゃんが反応する。
「あ、ミヤトくんだ。ふふ、いっぱいスタンプ送ってくれてる」
「あいつまたスタ爆してやがんのか……。慣れねえな……」
「気になるノだったら通知切ってもイイんじゃないカシラ?」
「俺の名前が入ったグループに俺が反応しねえのも、なんかモヤモヤすんだよ……」
「変なトコで律儀ねェ……」
するとノアちゃんがまた「あ!」と声を上げた。
「んだよ、今度はどうした。大量の絵文字でも送ってきてんのか、あいつ?」
「ううん、そうじゃなくて。でもすっごく楽しそう!!」
「イツキちゃんが作った新曲を、ミヤト君がメグちゃんと一緒に歌うことにしたんだって!」
「────────────は?」




