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Missing Never End  作者: 白田侑季
第4部 再生
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K汰 - 贅沢な走馬灯




「────────私と一緒にやり直そう、メグちゃん」


 そう、イツキは言った。頬は涙で濡れていたけれど、浮かべた微笑みは本当に優しくて、あたたかかった。握ってくれた手のぬくもりが柔らかかった。圭と手を繋ぐのとはまた違う、アサヒやリズとハグをするのとも違う、ふっと心が軽くなるような、そんなぬくもりだった。


 そっと俯く。握ってくれたイツキの手を見下ろす。そして理解する。


 イツキは、本当にぼくに寄り添おうとしてくれている。


 ぼくの力になりたい。ぼくを助けたい。イツキはそう言った。その言葉に嘘偽りは無いと思った。不安げに揺れる、けれど真っ直ぐにぼくの眼を見て離さない、不思議な力の込もった瞳がその証拠であるように、ぼくには思えた。


 でも。


「────ごめんなさい、イツキ」


 でも、ぼくは謝った。()()から。


 イツキが悪いわけじゃない。イツキの所為じゃない。イツキを信じていないわけでもない。単に、イツキがぼく(メグ)現在(いま)を知らないだけ、ただそれだけ。


「ぼく、記憶が無いんだ」

「……どういうこと?」


 困惑するイツキに、ぼくは打ち明ける。いまのぼくについてを。


「何も憶えてないんだ、ぼく。ぼくが『唄川メグ』だったことも、つい最近思い出せたばっかりで。……でもそれ以外は、何も。どうしてここに居るのかも、どうしてこんなことになっているのかも、どうして記憶が無いのかも」


 みんながぼくを「唄川メグ」だと呼んでくれる。ぼく自身も、かつての自分の姿を思い出せた。それが間違っていないことも自覚できている。でも、それだけだ。ピントが合った写真があったって、その時の出来事を思い出せないのだから、実感なんてあるはずもない。


「イツキの言葉は、とっても嬉しい。本当にありがとう。でも、いまのぼくにはやり直すための過去が無い。だから、ぼくはみんなが呼んでくれる『唄川メグ』本人じゃない。みんなと音楽を作ったこと、憶えてなくて、……本当にごめんなさい」


 頭を下げる。でも、それは上部の感情じゃなかった。本心からイツキに頭を下げた。


 イツキの涙を見たから。イツキが本心からぼくのことを想ってくれている、そう思えたから。こんな状況だけど、イツキの本心にちゃんと応えないと、そう思った。


「でもイツキ。……ううん、だからこそ、ぼくにできることは何でもする。イツキにも協力する。ぼくも『唄川メグ(ぼく自身)』について、知りたいから。イツキが『唄川メグ(ぼく)』のことを想ってくれてること、伝わったから。でもお願い、圭は──『()()()()()()()。……ぼくのこと、たくさん助けてくれたけど、関係ない。傷付いて良いヒトじゃない。だから、」

「………………そう、」


 そのとき、イツキの口から言葉が漏れた。


「そう、ですか……」


 するり、とイツキの手が離れる。力が抜けたようにへたり込むイツキ。焦点の合わない眼。何かを堪えるみたいな、歪んだ笑み。


「私……、また、間違えちゃったんですね……」

「イツキ?」


 でも、ぼくの声は聞こえていないみたいだった。


「アハハ……、またやっちゃいました。馬鹿だなぁ、私……、あの頃からなんにも変わってない」


 囁くような独り言。震える指で、震える声で、笑う。呆れたようなその笑みは、どこかイツキ自身に向けられているように見えて。


「結局また突っ走って、また独り善がりで、空回りばっかりで、みんなを巻き込んで、そのくせ、みんなと同じことが出来てない、……結局、誰の力にもなれてない」

「イツキ、」


 俯くイツキに声を掛けようとした、そのとき。


「……おいおいおいおいちょっと待てって!!」


 ミヤトの声で引き戻された。パッと顔を上げると、ミヤトが焦った表情で叫んでいる。その視線の先を追って、ぼくもハッとした。


 真っ黒い壁のように圭を取り囲んでいた"羊"達。その"羊"達が()()()()()()()()()


「それ以上はマズいって! あんたの身体が持たねーよ、K汰さんッ!?」


 ────まさか。


 そう思った、次の瞬間。


 地響きのような破裂音が、駐車場中に響き渡った。






 轟音が、ゆっくり、収まっていく。


 薄目を開ける。アスファルトが砕け散った土煙が少しずつ薄らいでいく。


 すぐ目の前には"羊"が数人、ぼく達の視界を塞ぐように立っていた。どの"羊"もボロボロだ、たぶんさっきの爆発からぼくらを守るための壁として、ミヤトが生成したんだろう。もしこの"羊"達が居なかったら、きっとぼくもイツキもミヤトも全員傷だらけだった。


 そして、その爆発の元は。


「────────ゲホッ」


 土煙が収まった向こう、口元を押さえながら立つ圭の姿があった。




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