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Missing Never End  作者: 白田侑季
第3部 復活
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間奏②




 ゲームをするのが下手くそだった。


 別に、家に一切ゲームがなかったわけじゃない。親もゲームを否定してはいなかった。むしろ、やりたいことはどんどんやらせてくれる家庭だから、こっちが「ゲーム機買って」なんて本心から言えば、「どれがいい?」と二つ返事で新品を買ってくれると思う。むしろ軽すぎてこっちが気後れするくらいだ。


 逆を言えば、()()()()()()()()という選択肢が必ず用意されていた。


 問題は、友達と遊ぶ時だった。そして、こと電子ゲームにおいて、自分より下手くそな人間は、残念ながら周囲にはいなかった。


 元々、手先はそれなりに器用な方だと思う。物覚えが悪いわけでもないし、学校のテストだって平均点には届く。でも、それは「時間」という制限が無ければの話であって。


 図工の成績は5段階中の2。家庭科の調理実習で指をケガしなかった日はないし。美術の授業も、筆記試験の点数だけで何とか赤点を回避していた。そのどれも、理由は同じ。


 作りたいものがはっきりしていても作り切れない。焦れば焦るほど手が回らない。想像力が膨らむほど時間に押し潰される。そして成績表には、いつも先生から赤ペンでお言葉を頂戴するハメになる。「時間内に終わらせられるよう頑張りましょう」。


 そんな人間が、ボタンが5つも6つもあるコントローラを手渡されて、満足のいく操作ができるわけがない。


 対戦。育成。落ちもの。リズム。格闘。シューティング。RPG。


 もちろん時間制限のないゲームもある。急かされなければ出来るのだ。ゆっくり考えて、自分のペースで結論を出し、心地よくシナリオを進められる。でも。


 誰かとゲームをする時にその手は通用しない。相手がいるのに自分のペースでのんびりやっていてはお話にならない。


 案の定、子供たちの無垢で無邪気で無神経な揶揄をたくさん浴びてきた。


 やったー、またぼくの勝ち!


 ねえ、そっちの番だよ。まだ?


 もういいよ。やってもつまんないし。


 どれも散々言われ続けてきた言葉。淡々と受け入れてきた末路。それらは、ゲームに不器用な子供の心を折るには十分過ぎた。


 ゲームをするのが下手くそだった。もうゲームはしなくていいと思った。


 ただ、一つだけ。今でも心に残っていることがあった。


 生物を捕まえて、育てて、闘わせるRPG。その中で一番使った機能。ゲーム下手な子供にとって、その機能は保険でもなんでもなかったけれど。何千、何万回と使い過ぎたセーフティ機能を保険とは言わないけれど。


 ──「ひんし」になった生物を復活させる場所。


 何のコストも払わず、特殊な操作もいらず、ただそこに行くだけで生物は復活する。特徴的な電子音のメロディが流れるだけで、生物たちは最初の頃と同じように元気を取り戻し、再び命令通りにバトルを開始する。


 もうあのゲームをやることはないだろう。もうあの生物たちを「ひんし」にさせることはないし、その度に「ごめんね」と泣きながら謝ることもない。


 でも。でもね、メグ。いまは思うんだ。


 あの機能は確かに救いだったんだ、と。


 やり直せる。間違えたってやり直せる。何度倒されても復活して、取り返しのつかないことなんて無くて、また元気に前を向いてリスタートできる。それは絶対に救いだ、と思うから。


 そういう場所でありたいと思った。自分が、みんなにとってのそういう場所になりたいと思った。


 辛くて、大変で、もうダメだって思う時でも、いっぱいの元気をあげられるような。楽しく、ポップに、誰かを復活させてあげられるような。そんな場所に。


 ■■が唯一出来た、音楽という力を使って。メグの、芯の通った真っ直ぐな声を借りて。


 過去はやり直せる。何度だってやり直せる。何度でも、何度でも、何度でも何度でも何度でも。


 そのはずだ。そのはずなんだ。


 ────────■■たちは、何度だってやり直せるはずなんだ。




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