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青年の背中が遠ざかっていく。
その背中を見ている。
「うまくいかなかったなぁ」。
そう思う。
突然、ポケットの中のスマホが震える。画面には送信者の名前、『御母さん』の文字が踊る。
「思わず笑みを浮かべる」。そうして歩き出す。御母さんの元へ向かおうと歩みを進める。
彼女は今日もあの家にいるだろう。わたしを待っているだろう。「だから行こう」。わたしに出来ることをしよう。
変わらない空の下。変わらない景色の中。変わらない蝉時雨を横目に、変わらないアスファルトを踏みしめて、変わらない彼女の元へ。
そのとき、ポケットの中のスマホがもう一度震える。画面には送信者の名前、『トウマ君』の文字。
「思わず笑みを浮かべる」。そうして踵を返す。彼の元へ向かおうと歩みを進める。
彼は今日もあの部屋にいるだろう。わたしを待っているだろう。だから、行こう。わたしに出来ることをしよう。そしてそれは、きっと『唄川メグ』の為になるだろう。
バーチャルシンガーとは違う、「わたし」とも違う、思いがけない選択をする、あの子の為に。
思わず笑みがこぼれる。




