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(3)

 リリアナがロールカツをひと口大に切ると、立ち上る湯気とともに大地の恵みの象徴のようなタケノコとキノコの豊かな香りがふわりと広がった。

 それを取り皿に乗せてハリスに渡す。

 薄切り肉に巻かれたタケノコとキノコはふっくらツヤツヤに輝いていて、匂いだけでなくその見た目にも食欲をそそられる。

 テオは待ちきれない様子で大皿に盛ったロールカツの山に手を伸ばし、フォークを突き立てた。

「俺、このままでいいから」

 言うや否や、がぶりとかじりつく。


 口をはふはふ言わせながらあっという間に1本目を平らげたテオが、2本目に手を伸ばす。

 その様子に満足げに笑ったリリアナがハリスに評価を求めた。

「先生、ロールカツどうかしら?」

「味、食感、揚がり具合、全て上出来だ」

 一切れ食べ終えたハリスが口元をほころばせる。

「やった!」

 リリアナは小さくガッツポーズをした。

 カリュドールの肉をハリスが理想的な状態に捌いてくれたおかげであることは重々承知しているが、一流調理士であるハリスに料理の出来栄えを褒められるのは素直に嬉しい。


「さあ、わたしも食べるわよ~~っ!」

 もちろんリリアナも一口大に切ったりせず、そのままいく派だ。


 テオ同様、豪快にかぶりつくと表面のサクっとした歯触りの次にジューシーな肉の旨味が口の中にあふれる。

 ツルツルこりこりとしたキノコとホクホクのタケノコは食感が楽しめるだけでなく、肉にしっかり巻かれていることで濃厚な香りと味を逃がすことなくとどめていた。

 採れたてのタケノコにはえぐみがなく、カリュドールの脂の甘みとも相性バッチリだ。

 最後に鼻から抜けるハーブの香りとほんの少しの獣臭さが逆にクセになり、すぐにもう1本食べたくなる。


「てめえ、食いすぎだろ!」

「それはこっちのセリフよ!」

「にゃあ! にゃあ!」

 リリアナとテオの痴話喧嘩にコハクまで参戦し、にぎやかな食事となった。

 

 カリュドールの肉はどの部位も鉄分を多く含んでいる。

 ガーデンの外で市販薬の原料として使う場合は、貧血改善の薬効がある。また、良質の脂分が美肌効果をもたらすとされ、貴族の女性の間では人気のサプリメントとなっている。

 新鮮な肉をガーデン料理として食べる場合はその効果がさらに高まり、造血効果と血の巡りが良くなるため頭も体も活性化する。

 特に若いほど効果がてきめんで、コハクは毛がつやっつやになり、リリアナとテオの肌艶も良くなった。


 テオが草原エリアで大怪我を負ったのが2日前のこと。

 魔牛のステーキで怪我と体力は回復したものの、失った血はそう簡単には戻らないため顔色が少々悪かった。

 初心者講習会で使用する食材調達が大きな目的ではあったが、ハリスにはそれ以外にテオの貧血改善という目的もあってカリュドールに狙いを定めたのだろうと納得したリリアナだった。


 そんなことに気づいていないであろうテオは、みなぎるような活力を持て余している様子だ。

「俺、もっと狩りしてきてもいいか?」

 片付けを終えて帰ろうとなった時、上気した顔でまだ暴れたりないと言い出したのだ。


「待て、いまのテオにぴったりの場所がある」

 ハリスにそう言われて、どんな場所のどんな魔物だろうかとワクワクした顔で向かった先で、テオは(くわ)を渡されていた。


「なんだよ、これ」

 呆気に取られるテオに向かって、リリアナがにっこり笑う。

「鍬よ。知らないの?」

「知ってるわ! どういうことだって聞いてんだよ!」

 困惑しながら叫ぶテオの目の前には、畑が広がっている。


「畑耕すとか聞いてねえし!」

 不満げに叫ぶテオを無視してハリスは大きな革袋から中身を取り出して土に撒いていく。

 そこには細かく切り刻まれたカリュドールの廃棄物のほかに、料理に使ったタケノコの皮、キノコの石づき、ハーブの茎や根、そして腐葉土も含まれている。


「力があり余っているんだろ。土によく混ぜて畝を作ってくれ。また美味いもん食わしてやるから」

 2袋分を撒き終えるとハリスは腰をさすりながらニッと笑った。

 

「そうよ。どうせ食べるならうんと美味しいほうがいいでしょ? テオが頑張っていい土を作ってくれたら、すごく美味しい食材が育つと思うわよ」

 リリアナが小さな鍬を振るうが、農作業には不慣れなため土を浅く掘ることしかできない。

 そんなリリアナを見てテオはフンっと鼻を鳴らす。

「なんだよ、そのへっぴり腰は! 俺に任せろ!」

 リリアナが畑から離れると、テオが鍬を振り上げた。

「おりゃあぁぁぁっ!」

 半ばやけくそな雄たけびをあげながら、ものすごい勢いで土を耕し始める。

「さすが普段あの重たい斧を振り回してるだけはあるわね」

「にゃあ」

 畑の畝づくりはテオに任せることになった。


 目の前に広がる畑の奥には普通の野菜が植わっている。

 ここはガーデンの入り口にある安全地帯(セーフティゾーン)で、この畑を管理しているのは隣に建つギルド直営のガーデン料理レストラン「リストランテ・ガーデン エントランス店」の調理士たちだ。

 冒険者だけでなく娯楽目的でガーデンにやって来る貴族や一般市民にもガーデン料理を提供している飲食施設「リストランテ・ガーデン」はガーデン内に複数店舗ある。


「コハクはテオがサボらないか見張っててね」

「にゃ!」

 リリアナとハリスは、仕込みを終えたカリュドールのパンチェッタを手にエントランス店へと向かった。


 ガーデンの食材は外へ持ち出すと急激に劣化が進んでしまう。

 パンチェッタは時間をかけてゆっくり熟成させなければならないため、それでは困るのだ。そこで、ガーデンの中にあるこの店で熟成を手伝ってもらう手筈を調えていた。


 厨房はディナーの仕込み作業をしているところだった。

「ハリス先生! 最近仲間が増えてにぎやかっスね~!」

 背の高い調理士が笑顔で出迎えてくれる。店で働く調理士たちの中には、ハリスのかつての弟子も少なくない。

 

「若いふたりが元気すぎてこっちはヘトヘトだ」

 ハリスは苦笑しながらパンチェッタの塊を台の上に並べ、さらにカリュドールのヒレ肉、ランプ、テールをマジックポーチから取り出して並べた。

「これは熟成を手伝ってもらうお礼だ。料理としてお客さんに提供してくれても、まかないで食べてくれてもいい。好きなように使ってくれ」

 ディナーに向けて仕込みをしていた調理士たち全員の手が止まり、わあっという歓声があがる。

「やっべ、すげえ綺麗な肉」

「店長! 今日のまかない、ヒレカツにしましょうっ!」

 リリアナは活気づいた厨房を興味津々で眺めた。

 

 まかないでカリュドールの肉を食べたら、今夜の厨房の士気は爆上がりに違いない。

 リリアナはその様子を想像して口元をほころばせながら、じゃあよろしくと挨拶をしてハリスとともに店を出たのだった。


 

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