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2皿目 カリュドールのロールカツとパンチェッタ(1)

「初心者講習会に参加のみなさーん! お集りくださーい」


 いつもは管理ギルドの受付をしているエミリーの明るい声が響き、ガーデンの入り口前に新米冒険者たちが集まって来た。

 エミリーは、ひとりひとりに赤い石があしらわれた銀色の指輪を渡していく。


「指輪は必ず指にはめてくださいね。その石に転送先の情報が入っています。ガーデンに滞在できるのは最長で3日間です。途中で帰りたいときは転送先の拠点に戻れば自動的に入り口へ戻されます。3日経ったら強制的に戻されるので、冒険は計画的に行ってくださいね」

 新米冒険者たちは不思議そうに指にはめた指輪を見ている。

 この指輪ももちろん魔道具のひとつだ。


 ギルドの依頼や冒険者の希望、経験に応じてガーデンのどのポイントに転送するのが妥当であるかを判断して指輪を渡す受付担当の仕事は責任が重い。

 ロングヘアの女性が多いこの大陸には珍しい肩の上でふんわり切り揃えたボブカットのせいか、それとものんびりした口調のせいか、エミリーの年齢はわかりにくいがそれなりのベテラン職員だ。

 

「屍になったとしても指輪をはめていれば3日後には必ず戻ります」

 エミリーはにこやかに説明を続ける。

「冒険者カードは首から下げていますか? たまに3日後に指輪だけ戻って来ることがあるんですが、その時はカードを頼りに捜索いたします。ドラゴンの灼熱の炎で焼かれて肉体が残らなかったり、食べられたりした場合でも冒険者カードだけは残る仕様になっていますので、必ず携帯してくださいねー」

 

「なあ、あのねーちゃん、笑いながらなにげに怖いこと言ってないか?」

 集団の後方で話を聞いていたテオが、横に立つリリアナを見る。

「ていうか、テオはこないだそうなりかけたでしょ。あのまま誰にも発見されなかったら指輪だけ戻ってくるところだったのよ?」


 草原エリアに生息する夜行性の魔物は、大きな牙を持つファングウルフや骨まで全て食い尽くすグリーンハイエナなど食欲旺盛で獰猛な肉食系が多い。

 偶然ハリスとリリアナがあの場所を通りかからなかったら、テオはいまごろ死んでいたはずだ。


 初めてガーデンの冒険者登録をする際には初心者講習会への参加をすすめられるのだが、参加は自由であるためまどろっこしい説明抜きですぐにでも冒険に出たいというせっかちな人はこの講習会をスキップしてしまう。

 テオがそのいい例で、いわゆる「説明書を読まないタイプ」というやつだ。


 リリアナは呆れたようにテオを一瞥すると、腕に抱えているコハクの白く柔らかい毛並みを撫でた。

 

  テオと出会ったあの日、ハリスはコハクを抱いたまま草原エリアの拠点からガーデンの出入り口まで一緒に戻り、そこでペット登録をした。

 

 管理ギルドの建物は、ガーデンの中と外の2か所に設置されている。

 中にある窓口では、ガーデンの外ではできない手続きや清算を行う。

 拠点から戻って来た冒険者たちがマジックポーチを差し出すと、私物をのぞきガーデン内で得た採集物や戦利品が回収されて自動精算されるシステムだ。ガーデンで獲得した食材も回収されるため、食べずに保管したままにしておくことができない。

 ちなみにポーチを精算所に通さないままガーデンを出ようとすると、ペナルティをくらう。


 魔物のペット登録手続きをする窓口では、所有者とペットの名前を登録し手数料を支払うと、登録番号入りの首輪を渡される。

 基本的にガーデンの魔物を外に連れ出すことはできないが、この首輪を着けている魔物に限っては所有者とともに外に出られる決まりだ。

 ただしガーデンの外では魔物は縮小化、弱体化して無害となる。


 コハクはガーデンの外ではただの可愛らしい白猫だ。

 名付け親であるハリスが所有者になっているものの、普段べったり一緒にいるのはリリアナで、テオには相変わらず近寄ろうともしない。


 今回の初心者講習会では、ガーデン料理の試食も予定されている。

 ぜひ調理士としての腕を振るってほしいと管理ギルドから直々に依頼されたハリスが了承したため、こうして参加者の集団から少し離れた位置で待機しているというわけだ。

 ついでにテオにガーデンの基本的なルールとマナーを学び直してほしいという思惑もある。


 テオと出会ったあの日、リリアナは彼があまりにもガーデンのルールを知らないことに驚いた。

「魔牛の肉をポーチから出して手で外に持って出れば、家でも食べられるんだろ?」

 真顔で言うテオに呆れながらリリアナは説明した。

「ガーデンの食材はポーチに入れておかないと劣化が激しいの。だから魔牛の肉は干し肉でしか売られていないのよ」

 ほかの食材も同様で、ガーデンの外で商品として流通させるには乾燥させて加工品にするしかない。

「だからガーデンの中で料理して食べるのか」

 テオの言葉に、その通りだとリリアナは頷いた。

 

 新鮮な食材を使ったガーデン料理を食べるためには、ガーデンで魔物を倒して捌き、それを美味しく調理できる調理士が不可欠であり、作った料理はガーデン内で食べなければならない。

 そのことを正しく理解したようだ。

 どうやらテオは、興味のないことに無関心なだけで、理解力がないわけではないらしい。

 だからこそリリアナとハリスは、テオにルールとマナーをきちんと身に着けて欲しいと思っているのだ。


「俺が派手に魔物を仕留めるところを、こいつらたちに見せつけてやるぜ」

「だから、そういうんじゃないから」


 講習会の参加者たちの大半は皮製の装備を身に着けたいかにも初心者という出で立ちだが、中には立派な武器を持っている者や傭兵経験があるのか手練れの雰囲気を醸し出している者もいる。

 見込みのありそうな新人はいないかとベテラン冒険者たちが遠巻きに彼らの様子を見に来ていた。

 初心者講習会は、スカウトの場でもある。


 3年前、リリアナは15歳でこの講習会に参加し、ガーデンから出たところで複数のパーティーから誘いを受けた。

 冒険者は男性の比率が高く、若い女性は珍しい。

 育ちの良さそうな立ち居振る舞いと、まだあどけなさの残る大きなエメラルドの目。

 リリアナの容姿はとても目立っており、戦力補強というよりは淡い下心を抱いての誘いが大半だった。

 しかし彼らはリリアナの人間離れした食欲を目の当たりにすると、恐れをなして逃げ出してしまった。

 

 ベテラン冒険者たちはその経緯を知っているため、ハリスとリリアナの関係について

「あのふたりはデキている」

とか、

「ハリス先生ってそういう趣味だったのか」

と、下世話なことを言う者はいない。

 しかもつい最近、あのトラブルメーカーで有名なテオの面倒まで見ることになったというではないか。

「あの人、苦労人だよなー」

 ハリスの後ろ姿を見ながら誰かがボソっと呟いた言葉に、その場にいた全員が頷いたのは余談だ。


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