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(4)

「なんだよ、おまえ人間だったのかよ。てっきりヒト型の魔物だと思ってた」

 リリアナが自己紹介のために自分の冒険者カードを見せると、テオは驚きと安堵を隠さなかった。

 

「失礼ね! 魔物ってなによ」

「失礼とかじゃなくて大食いのレベルがおかしいだろ。俺、おまえに食べられる覚悟までしたんだからな」

「嫌よ、不味(まず)そうだもの。食べてくださいって懇願されたって御免だわ」

「懇願なんかするか!」

 ふたりの様子に苦笑しながらハリスが魔牛のステーキを頬張っている。


 ハリスがフライパンの前から離れると、今度はリリアナがそこに陣取った。

 魔法で水を出し肉を焼いたフライパンに注ぐとスプーンでかき混ぜる。

 フライパンに残っている肉とハーブのくずをこそげ取るようにしてよく混ぜ合わせ、さらに草原エリアで採取したハーブをナイフで手際よく刻んで入れる。

 爽やかな香りと甘みがあるだけでなく、消化促進・胸やけ改善・解毒効果の高いハーブだ。


 魔物の肉が体質に合わず、腹痛を起こしたり蕁麻疹が出ることも稀にある。

 先ほどテオが魔牛のステーキを食べるのが初めてだと言っていたため、リリアナは万が一のことも考えてこのハーブを使うことにした。

 最後に塩・こしょうで味を調えてカップに注ぎ、一口味見する。

 肉を焼いた時にハリスが使ったハーブが、スパイシーな味だったりほのかに酸味のある味だったりとバリエーションが豊富だったため十分深みのあるスープになっており、だしの追加は不要だ。

 熱いスープが喉を通って胃に染み渡る感覚が心地いい。

 リリアナは、納得のいく味に仕上がったスープに満足して大きく頷いた。

 テオとハリスにもスープを渡すとレオリージャの前には水を置き、火を消して代わりにランタンを灯した。

 

 テオは尚も、

「だいたい俺はこんなちっちぇえヤツに負けたわけじゃないからな!」

とぶつくさ言っていたが、差し出したカップを受け取ってスープを一口飲むと静かになった。

「湯気の立つスープ飲んだの、いつ以来だっけ」

 なにかを懐かしむように目を瞑っていたテオが、ゆっくり瞼を開く。

 その茶褐色の目に、ランタンのやわらかい灯りが映っている。

美味(うま)い」

 呟くようにそう言ったテオを見て、リリアナは嬉しそうにうふふっと笑い、ハリスも満足げに微笑んだのだった。


 ******


「じゃあね、たくましく生きるのよ」

 食事の後片付けを終えたリリアナは、名残惜しそうにレオリージャの柔らかい毛を撫でた。

 魔物を外に連れ出すことはできないため、ここでお別れだ。

 しかしレオリージャはそれが理解できていないらしい。

「にゃ?」

 リリアナとハリスの顔を交互に見上げて不思議そうにしている。

 ちなみにテオのことは完全に無視しているレオリージャだ。


「じゃ、俺もこれで!」

 ガーデンの外へ出るための拠点とは違う方向へ行こうとするテオの腕をリリアナが掴む。

「待って! どこに行くのよ。帰るわよ」

「なに言ってんだよ、夜行性の魔物と戦ってくる!」

 テオの言葉にリリアナは心底呆れた顔をした。

「はあ? 馬鹿なの? こんな赤ちゃんのレオリージャに負けたくせに」

「だから、ちげーし!」


 リリアナがハリスを振り返る。

「ハリス先生! テオにはちゃんとした教育が必要だわ。このまま野放しにしたら迷惑する冒険者が増えそうだもの」

「そうだなあ……」

 無精ひげを撫でながらしばし思案してからハリスが提案した。

「しばらく一緒に冒険しないか」


 テオは首を横に振る。

「俺はソロで狩りをするのが基本だから」

 テオによれば、腕っぷしの強さを買われて何度かパーティーを組んだ経験もあるが、上手くいかなかったらしい。

「自分勝手が過ぎる!」

「協調性がないとは聞いていたが想像以上に酷い!」

 と罵られたり報酬の分配で揉めたりして喧嘩になり、短気なテオがメンバーを殴ってパーティーを追放されるというパターンを繰り返した。

 この話がガーデンの冒険者たちの間で広まり、『トラブルメーカーのテオ』というレッテルを貼られたようだ。


「パーティーなんて面倒なだけだ」

 テオは拒否したが、ハリスはニヤリと笑った。

「美味いガーデン料理をいっぱい食わしてやるぞ」

「そんなもんに釣られるか!」

 言い返したものの腹の虫がまた目を覚ましそうな気配を感じたのか、テオが口を閉じてお腹を押さえた。

 その様子を見て、リリアナが笑顔で手をポンと叩く。

「じゃあ決まりね!」


「にゃっ!?」

 これに抗議したのは、テオではなくレオリージャの子供だった。

「にゃっ! にゃあっ!」

 後ろ足で立ち上がってハリスの右足にしがみつく姿は、こんなヤツを仲間にするなら自分も連れて行ってほしいと必死に訴えているようにも見える。

 困った顔でハリスが抱き上げると、レオリージャはもう離れないとばかりに爪を立てて彼の胸にしがみつく。

 こうも懐かれると、ハリスも情が湧いてしまったのだろう。

「困ったな。名前を付けてギルドでペット登録すれば外にも連れ出せるんだが……大きくなるまでだからな?」

「にゃあっ!」

 渋々ハリスが折れ、リリアナも「やった!」と喜んだ。


「じゃあ、モフ太郎っていう名前はどう?」

 リリアナの弾んだ声とは対照的にレオリージャの表情がすんっとなる。

 ちなみにレオリージャの性別はメスだ。

「ニクでいいだろ」

 テオは、ハリスの「大きくなるまで」を、大きく育てて食べると解釈したようだ。


 レオリージャが涙目でハリスを見上げる。

「そうだな、目の色にちなんでコハクなんてどうだ?」

「にゃあぁぁぁっ♡」

 コハクはハリスの胸に頬ずりしまくった。


 こうして3人プラス1匹の、波乱万丈でグルメな冒険が始まったのだった。

 


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