(2)
ご心配をおかけしました。
どうにか更新できました!
かなり高さをかせげたと思う。
リリアナは魔物のいない位置を見定めて着地した。
見上げてもゴールらしきフロアは見えてこない。
その代わり塔の中を飛ぶ魔物が見える。大きな目玉に翼の生えたフライングアイだろうか。目から光線を出して攻撃してくる魔物だ。もしも気づかずに飛んでいたら光線で撃ち落とされてしまっただろう。
逆に言えば、フライングアイの攻撃が届かない所までは飛んでいけそうだ。
リリアナは再び魔法を発動して高く飛んだ。
着地すると、フライングアイ2体がリリアナに気付いて大きな目玉をギョロリと光らせる。
その目から光線が放たれる前に火球をぶつけた。威力は弱くて構わない。むき出しの目を乾燥させればいいだけだ。
フライングアイは目の表面がカラカラに乾燥すると光線を出せなくなり、潤いを取り戻すまでしばらくかかる。
フライングアイが瞬きを繰り返している隙にまた高く飛んだ。
これを繰り返して、塔の1階が見えなくなって来たところで、天井が見えはじめた。
あれが最上階フロアだろうか、それともまだまだ先があるんだろうか。
「お腹すいた……」
リリアナは周囲に魔物がいないことを確認して座ると、マジックポーチからチョコレートバーを取り出してかじる。
ハリス先生、頑張るからね!
どうせ途中でお腹がすくだろうからと、ハリスはチョコレートバーをたくさん持たせてくれた。今回はオレンジが使われていて、酸味とチョコレートの甘みが絶妙だ。
2本をペロリと平らげると、次にマンドラゴラサラダがぎっしり詰まったガラス容器を取り出す。
口直しにさっぱり味のサラダを、シャキシャキと小気味いい音を立てながらこれまたペロリと食べた。
リリアナの脳裏にふと、テオがキングマンドラゴラを倒した話を楽しそうに語っていた顔が浮かんだ。
「よし、行こう!」
小声で己を鼓舞しながら立ち上がる。
飛びながら上を目指し、時には魔法を駆使して魔物と戦いながら進む。
ラッキーなことに、ここまでは凶悪な魔物に遭遇していない。中央が吹き抜けで螺旋階段がずっと続いているため、大型の魔物が待機できない構造であることが幸いしているのかもしれない。
となると、もしや上にあるフロアにはすごい魔物が待ち構えているのかも……?
一抹の不安を抱えながらも、ついにそのフロアまで辿り着いた。
階段を上り切って一息つくと、リリアナはゆっくりとした足取りでフロアに入っていく。
「――――!?」
目を覆いたくなる光景に思わずフロアから逃げ出そうと後ろを振り返ったが、入り口が消えていた。
閉じ込められている。上へ向かう階段もない。
つまり、コイツらと戦って倒さなければ先に進めないということだろう。
「レオナルド・ジュリアーニめ。性格悪すぎでしょ~~っ!」
大声で叫ぶリリアナの目の前に、昆虫型の魔物たちがうごめていた。
ここまで気持ちよくスイスイ上らせて、あと少しと期待させたところで苦手な魔物を出してくるとは。
ハリスが以前挑戦した時に、1匹のオークがとんでもない大食いでいくら料理を作っても満腹にならなかったと言っていたのも同じだろう。
仕方ない。
ついに秘策を使う時がきた。
リリアナはポーチから瓶を取り出した。
フタを開けると瓶の口を傾け、コロコロ出てくる白い球体を手のひらにのせる。
今朝、ハリスたちと準備のために赴いた湿地帯エリアで獲得したミスティの霧玉だ。
本来ならば、自分に使おうと考えていた。
霧になってスイスイ塔の中を飛んでいこうかと。しかしそれには様々なリスクがある。
霧の状態で壁や扉をすり抜けられるのかわからないこと。
最上階までたどり着いたとして、レオナルドが咄嗟に魔物が侵入してきたと勘違いして強力な火魔法を放ったら死んでしまうこと。
霧から元に戻った時に丸裸であること。
ハリスには無理は禁物と言われているが、もしも時間切れ寸前になったら一か八か使ってやろうと思っていた秘策だった。
しかし性格の悪いレオナルドのことだ。
このフロアの魔物たちだけは全て倒さないと、たとえ霧になったとしても先に進めない仕様になっている可能性が高い。
「だったら、あなたたちが霧になりなさい!」
そうこうしている間に目前まで迫ってきた大きな虫たちに向かって、リリアナは霧玉を投げつけた。




