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(3)

「じゃあ、あそこに浮いてるコハクが折り返し地点で、先にここまで戻ってきたほうが勝ちだ。リリアナは魔法の使用は禁止。いいな?」

 審判を買って出たハリスがシンプルなルールを考えた。

 コハクはすでに沖でプカプカ浮いている。


「やってやろうじゃねーか」

「魔法を使わなくっても負けるわけないわ」

 ハリスの号令でリリアナとテオのふたりが海に向かって駆け出した。


 砂浜から海の深さが膝ぐらいまでの間はただ走るだけでいいため、テオが有利だ。そこはリリアナも織り込み済みでテオのリードを許しても余裕でテオの背中を追いかける。

 泳ぎ始めたらすぐに追い抜ける。

 そう思っていたリリアナは、少し泳いだところでおや?と思った。

 食事の前はちっとも前に進まず、コハクにまでおちょくられていたテオとの距離がなかなか縮まらない。


 なんで!?

 リリアナは焦りながら本気で泳ぎ始める。

 テオの泳ぎが急に上達した要因として考えられる可能性はふたつ。リリアナが調理をしている間にコツを掴んで覚醒したか、クラーケンのバフがリリアナよりもよく効いているかだ。もしかすると、その両方が当てはまっているのかもしれない。


 クラーケンのバフは、速く泳げるようになることだ。

 前に進まないんじゃ加速バフがついたところで無意味でしょ。だからバフがつくことでなおさら、わたしのほうが断然有利よっ!

 リリアナのその考えがどうやら誤算だったらしい。


 懸命に手足を動かし、コハクの待つ折り返し地点で一旦テオに追いついたものの、ここで運悪く高波に襲われた。

 テオよりも体重の軽いリリアナの方がその波の影響を大きく受けてしまい、また後れを取る。

 結局その差が縮まらないまま、先にゴールしたのはテオだった。

 

「どうだ!」

 テオが飛び上がってはしゃいでいる。

「どうなってんのよ。ついさっきまで泳げなかったくせに!」

 全力を出したリリアナは肩で大きく息をしているが、テオの体力はこれぐらいではまったく消耗しないらしい。

「さあな。コツを掴んだってことかな」

 ドヤ顔のテオを見て、今度はリリアナのほうがおもしろくない気持ちになった。


「さあ、お遊びはおしまいだ。俺が殻を開けるからふたりとも潜って貝を獲ってくればいいだろ」

 戻ってきたコハクを拭きながらハリスが提案した。

 テオが再び海に向かって駆けだしていく。

 リリアナもその後を追った。

 密かに、テオより宝石貝をたくさん獲ってやる!という闘志を燃やしながら。


 今度こそ負けてなるものかとカッとなっていたリリアナは、テオよりもさらに沖に進んだところに宝石貝がたくさんいるポイントを見つけた。

 息が続くかぎり潜り続けて、夢中で宝石貝を網に入れていく。

 網がいっぱいになったところで一旦戻った。


「大漁だな」

 網に40個近い貝がぎっしり詰まっている様子を見てハリスが目を丸くしている。

 それを木桶にあけると、また網を持ってリリアナが駆け出した。

 依頼の個数はすでにこれで満たしているけれど、もっと獲りたい。


 テオはまだ潜っているのか姿が見えない。しかしもう知ったこっちゃない。

 あれだけ泳げるようになったんだから、溺れたりしないでしょ。

 リリアナはそう思いながら、また先程のポイントへと泳ぎ始めた。


 ガーデンの海は透明度が高く、海中に潜っていてもかなり広範囲を見渡すことができる。

 宝石貝がたくさんいる場所へ向かっていたリリアナは、テオがその場所にいることに気付いた。

 そこは、わたしが見つけたポイントよっ!

 リリアナはイラっとする。

 そんなリリアナに気付いたテオが、大きく手を振った。

 テオの動作にさらに苛立ちを増したリリアナは、スピードを速めて勢いよく海底めがけて潜る。


 その時だった。

 海底がぐにゃりと歪んだように見えた。

 えっ!?

 驚いて動きを止めたリリアナの目の前に、突然海が裂けるように大きな黒い穴が出現する。

 そして海水とともに、リリアナはその穴に吸い込まれたのだった。



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