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「麺とクッキーはまあまあだったけど、ピザ生地とパンケーキは微妙だったわ」

 ソバの実を使った料理をさんざん食べ歩きしてホテルに戻る途中、リリアナは料理の感想を語った。

 ハリスが頷く。

「ピザ生地は表面をもう少しカリッと焼いてほしかったな。パンケーキは生地がボソボソしていてイマイチだった」

 ソバの実にかなり興味があるらしく、ハリスもリリアナに付き合ってあれこれ食べていた。

 感想はリリアナとほぼ一致している。


「ソバの実亭が一番だな」

「そう! ほんとそれ!」

 ハリスの意見にリリアナも同意する。昨日食事をしたヨアナの店のソバの実料理が、最もソバの風味や食感をうまく引き出していた。

 街を離れる前にもう一度ヨアナのソバ粉のガレットが食べたいと思うリリアナだ。


 ホテルに戻り、買ってきた生肉をコハクに食べさせたリリアナは、今朝のブルーノ商会でのやり取りをハリスに尋ねる。

「先生はブルーノ会長の態度をどう思う?」

「俺たちが訪ねる前から、明日の取引がバレても構わないと思っていた感じだな」

 その通りだとリリアナも頷く。

 ブルーノ会長に動揺した素振りはなく、余裕すら感じる笑顔だった。


 しかも昨晩同様、食事をしながらあちこち聞き込みをしたところ、出どころはわからなかったが明日の取引に関する噂がすでに広まっていたのだ。

「わたしたちにニセ情報を掴ませようとしたのかしら」


 ブルーノ会長が動揺していなかったのは、彼が噂を流した張本人で、リリアナたちが盗聴ではなく聞き込みで情報を得たのだと思ったからかもしれない。

 しかし録音石は確かに、取引は予定通りだと言う彼の声を録音している。

 盗聴が見透かされていたんだろうか。

 リリアナの思考はどんどん混乱してきた。

 

 ただ、ブルーノ会長がペット取引に関わっているのは間違いない。

「いざとなったらコハクに協力してもらって商会を捜索して、証拠探しすればいいわ!」

 徹底調査を目論んで鼻息を荒くするリリアナに向かって、ハリスが苦笑しながら首を横に振る。

「俺たちの請け負った依頼は、実際にペット取引が行われているか否かの調査だ。そこから先は、この国の警備隊とガーデン管理ギルドのお偉いさんたちの仕事だから、ペットの流通経路と仲介者がわかればそれでおしまいだ」


「えー」

 リリアナは不満げに頬を膨らませる。

 たしかに依頼には、黒幕をこらしめてくれとか捕まえてくれではなく『調査』としか書かれていなかった。

「じゃあ『あなたが黒幕ねっ!』って、ビシッ!と指さしできないってこと?」

「そんな探偵ごっこがしたかったのか?」

 ハリスが呆れられてしまったが、その通りだ。

 

「ただ、なにか裏がありそうだとは思っている」

「そうよね」

 なにか不自然なものを感じているのはリリアナも同じだ。踊らされているような気がする。

 明日になればそれが全て解明されるのだろうか。

 

 モヤモヤしたものを抱えたまま、取引当日を迎えた。

 リリアナとハリスは朝からラシンダ王国との国境線にある関所で、ここを通る全ての積み荷と手荷物のチェックに立ち会っている。

 現在は良好な関係を保っている両国は、荷物だけでなく人の往来も多い。

 普段では行わない手荷物や、釘打ちされている木箱の中身もふたを開けて確認するため時間がかかり、あちこちから文句が聞こえるが、それは仕方ない。

 

 検問で大騒ぎして注目を集めているこの状況で本当に取引を成立させる気なんだろうか。

「これ、やってる意味あるのかしら……ていうか、お腹空いたんだけど!」

 ついにリリアナまで文句を言い始めた時だった。


「すみませーん! 冒険者の方、ちょっと確認をお願いしまーす!」

 警備隊員が呼ぶ声が聞こえる。

「赤い飾りをつけた生き物が見つかりました!」


 ハリスとリリアナは顔を見合わせて声のする方へと駆け出した。

  そこには小さなカゴに入れられた黄色いインコと、オロオロしている旅装束の若い男性がいた。

 インコの首には、ひもを通した小さな赤い玉が括りつけられている。


 いつもコハクと過ごしているリリアナやハリスは、それが魔道具の首輪ではないことが一目でわかった。

 ただのガラス玉だ。

 これがガーデンのペット用の首輪を装ったものなのか、ただの装飾品なのかは定かではないが、魔道具の首輪ではない以上、このインコは魔物ではなくただのインコということになる。


「迷子のインコを、ラシンダの飼い主の元に届けるように頼まれただけです」

 若者は大陸のあちこちを巡っている途中の旅人で、宿からこの関所へ向かう途中に見知らぬ初老の男性から声をかけられたという。

 ラシンダから飛んできたインコを保護している。首輪のようなものをつけているから野生ではなく飼い主がいるはずだ。もしもラシンダに行くならこのインコを届けてくれないかと頼まれ、いくばくかの謝礼もすでに受け取ったらしい。

「関所の向こうにある愛玩動物を扱っている商会に持って行けばいいからって、カゴごと渡されただけです」

 若者が嘘を言っているようには見えない。


 仮にこのインコがガーデンの魔物を装ったものだとすれば、取引ルートがおぼおげに見えてきた。

 普段関所で確認されるのは大きな積み荷のみで、個人の手荷物は検査の対象ではない。

 同一人物が往来を繰り返すと怪しまれるため、こうやって旅人風の者を見つけては迷子あるいは贈り物を届けてほしいと言って謝礼を渡し、運び屋にさせていたのではないだろうか。

 頼まれた方は善意でやっているわけで、犯罪に加担している意識はまったくないはずだ。そもそも普通の動物を運ぶことは犯罪ではない。


 これが最後にふさわしい取引?

 もしかして、ただのインコを「実はフェニックスです!」とでも騙ってラシンダ王国の貴族たちに売りつけているとか!?


 インコはひとまず警備隊が保護することになった。若者もどんな人相の男から頼まれたのか詳しく聞くために警備隊員に連れられていく。

 これで解決になるんだろうか。それともインコはダミーで別のペットがどこかに紛れているのか……。


 リリアナはあれこれ思案している途中でブルーノ会長の姿が見当たらないことに気付いた。

 朝からリリアナたちと一緒に積み荷の確認作業に立ち会っていたはずだが、どこにもいない。

「会長はどこ?」

 キョロキョロしながらハリスに尋ねる。

「商談の約束があるとか言って、こっそり抜けてどこかへ行った」


「なるほど。じゃあその商談とやらに、そろそろわたしたちも行っちゃう?」

「そうだな、そろそろいい頃合いかもな」

 リリアナとハリスが揃ってニヤリと笑った。

 

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