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(3)

「悪かった。まさかレオナルドに会えないと思っていなかったものだから、話が違うだろうと思わず癇癪を起して兜を投げてしまったんだ。当たったのがリリアナでなくてよかった」

 にっこり笑うネリスの隣で、リリアナはうんうんと適当な相槌を打ちながらテーブルに並んだ料理を食べ続けている。


「待て待て。当たったのが俺でよかったって意味か? まず俺に謝れ」

 ネリスの正面に座るテオは不服そうに唇を尖らせる。

 おまけにコハクがネリスの膝の上で甘えながら、ちゃっかりハムを食べさせてもらっているあざとさも気に入らないようで、コハクのことも睨みつけている。

 話題を逸らすのがうまいのは王族だからか、それともマイペースなだけなのか、ネリスはテオの怒りをするりとかわした。

「それはそうと、テオは見かけによらず小食なんだな。揚げイモをチビチビかじるだけとは、なかなか可愛いじゃないか。遠慮はいらないぞ」

 テオの顔が赤くなる。

「キノコ鍋を食いすぎて腹減ってないんだっつってんだろうが!」

「そうか、それは残念だったな」

 快活に笑うネリスとむくれているテオに苦笑しながら、ハリスはエールのグラスを傾けている。


 ネリスは、迷惑をかけたお詫びに街で一番の高級料理店でご馳走すると提案した。

 その高級店を断り、この大衆食堂に変更したのはリリアナだ。

「質より量よっ!」

 宣言通り、遠慮のなさすぎる食べっぷりだ。


「うずらのグリル、5人前おかわりっ!」

 威勢よく注文するリリアナに優雅な笑顔を向けるネリスは、財布を気にする素振りを全く見せない。

「どんだけ金持ちなんだよ」

 ボソっと独りごちるテオが、最悪の第一印象だったネリスの奢りにのこのこついてきたのには訳がある。

 試練の塔のことを聞きたかったのだ。


「ところで試練の塔はどこまで登れたんだ?」

「どこまでもなにも、入り口がイバラで塞がれていて、切ってもすぐに伸びてくるものだから中に入れなかった」

 ネリスは顔をしかめる。

「無限に伸びるイバラだとしても、トゲが痛いのは覚悟の上で武器を振り回しまくれば強引に入れるだろ」

 いかにもテオらしい言い分に苦笑して、ネリスはスパークリングワインを口に含む。

「きみならその方法で行けるかもしれないな」


 試練の塔は滅多に挑戦する冒険者がいない上に皆から敬遠されて友人の少ないテオは、試練の塔に関する詳細情報をネリスから聞き出したいのだろう。それはリリアナも同様だ。

「いつかテオが試練の塔に挑む時は、お題が違うだろうな」

 ハリスが口を挟む。

 この発言に、ほかの三人は驚いた。試練が共通していると思い込んでいたからだ。


 試練は、冒険者ごとに違うらしい。

 かつてハリスが挑戦した時は、オークたちをガーデン料理で満腹にして全員を眠らせろという内容だったようだ。

 しかし1体だけ、信じられないほど大食いのオークがいて、いくら作っても満腹にさせられないまま時間切れとなったらしい。


 ハリスのその話を聞いて、うずらのグリルを豪快に食べていたリリアナは思わず手を止めた。

 先生ったらもしかして、わたしとそのオークを重ね合わせて見ていたりするのかしら!?

 茶化されるかと思ったが、そんなことよりも試練の塔の情報が欲しいらしく、テオは尚も質問を続ける。

「それで挑戦に失敗するとさ、再チャレンジはできるのか?」

 ネリスは小さくため息をついた。

「できない。招待状1枚で挑戦できるのは1回限りだ」

「うわ、ぼったくりだろ、それ」


 リリアナが笑う。

「ていうかテオの場合はマナー違反で減点ばっかりだから、1億ポイントなんて一生かかっても無理よ」

「うるせー、見てろよ。俺はいつかレオナルドに会って最強ウォーリアの称号を手に入れてやるからな!」

 ここでリリアナは初めてテオの目標を知った。

 

「ところでネリスは、どうしてレオナルドに会いたかったの?」

 リリアナの関心がネリスに移る。

 この人も、名声を求めていたのだろうかと。


「いや……」

 言い淀んだネリスがワインを再びワインで喉を潤し、意を決したように口を開いた。

「婚約者に『あなたと一緒にいてもつまらない。将来が不安だ』と言われたんだ。だから伝説のレオナルド・ジュリアーニに会ってサインでももらえば、彼女が私の土産話を楽しんでくれるんじゃないかと思ったんだが……」


 予想もしていなかったネリスの目的を聞いた3人は、目を点にした。



 

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