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4皿目 スライムシャーベット(1)

 この日、リリアナたちはレオナルド魔道具商会を訪ねていた。

 セーフティカードの追加購入のためだ。セーフティカードは3回使い切りの魔道具で、使用回数を使い切ると消えてしまう。

 先日の初心者講習会で2枚使用した後に、1枚は消え、もう1枚は残り1回となってしまった。

 ガーデンで調理をして食事をするにはセーフティカードが不可欠であるため、使用回数に余裕をもって常備しておきたい魔道具だ。


 店内には所狭しと魔道具や魔導書が並んでいる。

 その中には『確実にクローバーが四葉になるプランター』や『誰でも吟遊詩人のような音色を奏でられるギター』など、これを魔物相手にどう使えというのかと首を傾げたくなるアイテムも多数存在する。

 レオナルド・ジュリアーニという大魔法使いは人間同士の(いさか)いを好まない平和主義者で、遊び心にあふれた人物らしい。

 大陸での大戦争が300年前の出来事であることを考えるとレオナルドの年齢は当然300歳を超えているはずだ。しかしガーデンで暮らしている彼の時間は止まっているのか、彼の見た目は20歳前後の若い男性であるという噂だ。


 これまでこの店で買い物をした経験がないというテオが店内を物珍しそうな顔で見て回り、魔導書の棚で足を止めた。

 魔導書は魔法文字で書かれており、魔力がない者には読めない仕組みになっている。

 魔力は、生まれつき有る者と無い者がいる。

 魔力があれば訓練でそれを伸ばしていくことも可能だが、無い場合は魔法は一生使えない。


 きっとテオにはなにが書かれているのかさっぱりわからないのだろうと思いながらリリアナもその棚へと近づき、テオが見上げている視線の先に目をやって驚嘆の声をあげた。

「うそっ!」

 なんという偶然だろうか。

 テオが見ていた棚には『スライムの味を変化させる魔法』という魔導書が並んでいたのだ。

 

 魔導書は初級・中級・上級に棚が分かれていて、この『スライムの味を変化させる魔法』は中級の棚に並んでいた。

 どうして今まで気づかなかったのだろうとリリアナは悔しがる。

「こんな魔法があるってもっと早く気づいていれば、なんの味もしないブルースライムを美味しく食べることができたのに!」

 その時ハリスの声が店内に響いた。

「買うのはこれだけか?」

「待って、これも!」

 リリアナは慌てて『スライムの味を変化させる魔法』の魔導書を掴むと、セーフティカードのお会計を済ませようとするハリスに手渡した。



 スライムの味変魔法を習得したリリアナは、これをいつ実践しようかとウズウズしていた。

 彼女のその執念が実ったのか、ギルドの依頼掲示板に【急募! スライムの皮 多数】という大量受注の依頼が貼りだされた。


 スライムの皮は水で戻すとプルプルのゼリー状のかたまりになる。

 保温機能もあり、温水で戻せばじんわりとした温かさを一定時間持続できるし、冷水を使えばひんやりとした保冷剤になる。

 普段は、あったら便利だけどなくても別に構わない程度の代物だが、年に2度ほど需要が高まる時期がある。

 高熱の出る伝染病が流行る季節だ。

 大人なら氷嚢を使えばいいけれど、子供の場合は熱にうなされて頭を動かすため額や首にほどよく張り付くスライムの皮が重宝されるというわけだ。


 しかしブルースライムは獲得できる功績ポイントが低く皮の買取単価も安いため、この手の依頼を請け負うのは初心者ばかりで効率よく目標数を集められないことが多い。

「世界の子供たちのために、この依頼を受けるわよ!」

 そんなもっともらしいことを言っていたリリアナだったが、ブルースライムの生息地に着いた途端、大きな鍋を取り出した。


「さあ、じゃんじゃん食べるからねー!」

「結局そっちかよ」

 張り切るリリアナを見てテオとハリスは苦笑した。

 

 

「だから! 斧でぶった切るなって言ってるでしょ!」

 素材の価値を高めるため、さらには食べる部分を地面にこぼさず採取するためには、ブルースライムを鋭利な刃物によるひと突きか弾丸1発で仕留めるのが正しい仕留め方だ。初心者講習会のときにそう説明したはずなのに、テオはお構いなしに斧を振り回している。


 どうしていつもこうなの……とため息をつくリリアナの後ろでは、ハリスが出刃包丁のひと刺しで確実にブルースライムを仕留めている。

 コハクがリリアナの元へブルースライムを咥えて戻ってきた。どうやらスライム狩りを手伝ってくれるらしい。

 スライムは牙の穴が4か所空いているだけで仕留められている。

「コハクすごいじゃない! なんて賢い子なのかしら!」

「ガウっ!」


 近頃のコハクの成長は目覚ましく、初心者講習会の時にはまだ「にゃあ」という猫のような鳴き声だったのに、それがどんどん低くなっていき、獣の鳴き声になってしまった。

 体も日に日に大きくなって、すっかりデカもふになった。

 ちなみに「あとどれぐらい大きくなったら食べるんだ」といまだにコハクを食べる気でいるテオとはもちろん仲が悪いままだ。


 コハクから受け取ったスライムを大鍋の上でぎゅーっと絞って中身を取り出し皮はマジックポーチへしまうと、リリアナは自分の武器である杖を握った。

 そして1体のブルースライムに駆け寄り、杖の先端をプスっと刺してその一撃で仕留めた。

「リリアナおまえ……杖をそんな使い方していいのか?」

 珍しく戸惑っているテオの言いたいことはわかる。

 リリアナの本職である魔法使いが使用する杖は魔法の威力を高めるための道具であり、魔物を突き刺すための武器ではない。

「わたしね、初心者の時にさんざんこのスライムを倒して悟ったのよ。こうやって急所を一刺しするのが一番効率よく倒せるってね! ねえ、聞きたい? わたしの武勇伝」

 ドヤ顔をするリリアナに、テオはめんどくさそうに告げる。

「いや、断る」

 そしてクルっと背を向けるとブルースライムを追いかけて行ってしまった。

「なによう! 聞くも涙語るも涙のわたしの武勇伝なのに!」

 むすっとするリリアナだったが、その間も手はせっせと動かし、杖を突き刺してはブルースライムを確実に仕留めていく。

 こうやって急所を見極めて一刺しで倒せるようになるまでに、大げさではなく何百匹ものブルースライムと戦ったのだ。


 わたしほどこのブルースライムのことを知り尽くしていて、しかも食べ尽くした冒険者はガーデンの長い歴史の中でもいないはずよっ!

 そう自負しているリリアナだった。

 

 

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