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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
最終章 忘れられない夏休み
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二人の先に道は続く

これで最後です。今までありがとうございました。

サヤカが落ちていった・・・最期まで、私の方を振り返らず。私の所為で・・・私が呪いの力を制御出来なかった所為で、サヤカは私を見限ったんだ。


「サヤカ・・・。」


檻が消失すると、呪いの力の暴走は収まっていた。今更収まった所で、何の意味も無いというのに。自分の無力さに打ちひしがれていると、上から見下ろしていた風間が私がいる足場にまで下りてきていた。


「本当に落ちるなんてな。彼女は失格だな。」


「・・・どういう、事だ?」


「簡単な試練を出したはずだったんだ。お前を捕らえていた檻はお前の呪いの力を引き出す。だから術を掛ける相手はお前にではなく、檻を消失させれば良いだけだったんだ。なのに、あの子は視野を広げずにただ焦り、術を掛けた私に助けを求めた。」


「つまり、嘘をついたのか?」


「当たり前だ。一応敵として私は演じていたんだ。正直に対処法を教える訳がないだろう。」


「なんで・・・なんて事を!!!」


風間に殴りかかろうとしたが、床から飛び出てきた鎖に手足を縛られてしまった。鎖を引きちぎろうとするが、抵抗する度に鎖は私の手足を強く締め上げ、骨にヒビが入っていく音が脳に響く。


「元々、上からお前らの始末を依頼されていた。使えれば見逃そうと思っていたが、結局こうなるのか。」


「一体どういう理由で私らが・・・!」


「祓い士や異形の存在を知り過ぎた事。それに加えてお前は異形の力を宿した呪いを持っている。岸サヤカに関してはそれらの記憶を消して一般人に戻ってもらうだけだったが、彼女が指輪を持っているというアクシデントがあった。」


「アクシデント?」


「祓い士の指輪は本人にしか使えない。だというのに、あの子は初歩的な術しか使えず、想力が何なのかすら分かっていない様子だった。おまけに、指輪は青く光っていた。あんな指輪は初めて見たよ。」


風間は右手を前に伸ばすと、中指に着けていた指輪が緑色に光り、刀を出現させた。


「想力は言ってしまえば想像力だ。術者の想像力で物を作り出す事が出来る。形・重さ・性質なんかを細かく想像出来れば、作り出した物は本物以上の性能を発揮する。だから祓い士にとって必要な才能は、力や優しさなんかじゃない。柔軟な発想と頑強な精神だ。」


「だから私達は不合格だと・・・?」


「お前は良い才能の持ち主だ。戦闘センス・身体能力・判断能力、どれも素晴らしい。欠点としては、呪いの所為で指輪を使う事が出来ない。というより、使えなくされているのか? まぁ何にせよ、お前達はここで始末する。惜しいな、黒澤アキ。」


「・・・最後に、一つだけ教えてくれ。今から下に飛び込めば、まだサヤカは救えるのか?」


「お前次第だ・・・これは本当だぞ?」


「そうか・・・ありがとよ!」


このままでは殺されるのは目に見えていた。だから私は一か八か、黒い靄を出した。黒い靄を出すと、聖恋島から追ってきていた泥水が勢いよく流れ、風間を飲み込んだ。

すると、私を縛っていた鎖が消え、自由になった。体の自由を取り戻した私はサヤカが落ちた場所から下に落ちていった。

音も光も無い暗闇の中を落ち続けていると、後ろから殺気が近付いてきているのを感じ取り、体の向きを反転して確認すると、そこには指輪の光に照らされた風間 薫があった。


「あいつしぶとい!」


「面倒事を増やしやがって・・・来る!」


泥水が一つの大きな雫となって風間に襲い掛かった。風間は指輪の力を使って対処していくと、飛び散った雫の一部が私の方へ飛んできて、私を捕まえようと腕を伸ばしてくる。


「私を巻き込むなよ!」


掴みかかってきた泥水を払い飛ばしていくが、上空で戦う風間が飛ばしてきた雫の一部が大量に私に降り注ぎ、キリがない。

このままでは私も雫の一部に取り込まれると思った私は風間のように武器を出現させようと想像する。

すると、左腕に激痛が走り、私の左腕から巨大な刃が飛び出した。


「なんだこりゃ!? まぁいい! 使えるんだろうなぁ!!!」


刃と一体化している左腕を振ると、刃は鞭のように長く伸び、振り落ちてくる雫を一挙に切り裂いた。


「いいねぇ! こいつは使える!」


「キリがない! 浄化術!」


呪いの力の便利さに喜んだのも束の間、風間は術を発動し、風間を守るバリアのように光の球体が発生した。その球体は徐々に大きくなっていき、球体に触れた雫はたちまち消滅していた。

あの光の球体がどこまで大きくなるかは分からないが、一応私もあの泥水の雫のように異形の存在の端くれな訳で、あの球体に触れる訳にはいかない。

体の向きを再び下に向け、この先のどこかにいるサヤカの姿を探しながら、後方から迫ってくる光の球体から逃げていく。

すると、小さく青い光が発光しているのを目にし、私はその光に向けて左手を伸ばした。


「サヤカ!!!」


私の左手は私の想いに応えるように青い光に伸びていき、伸びた先で何かを掴んだ。私はそれがサヤカだと信じて引き上げた。

引き上げたのはやはりサヤカであり、こちらに上がってきたサヤカを両手を広げて受け止めた。


「サヤカ・・・よかった・・・!」


気を失っているようで、サヤカの体は脱力して、目を閉じていた。私はサヤカを強く抱きしめながら、サヤカを取り戻せた事に安堵した。


「お前にとってその子が原動力となるか、黒澤アキ。」


「くっ!?」


背後、光の球体の中から風間の声が聞こえた。


「そうだ! 私はサヤカの為に生きる! 孤独だった私を受け入れてくれたのがサヤカなんだ!」 


「だがお前は既に異形の者。異形の者は生者とは生きてはいけない。いずれお前が原因で彼女の身に危険が降りかかるぞ?」


「その時は私が守る! 今度こそ!」


「無理だ。異形の者が誰かを守る事なんて出来ない。異形は災いを起こし、人を襲う。いくらお前に理性があっても、それは時間の問題だ。」


「うるせぇ!!!」


「話にならんな。」


刻一刻と光の球体は私達に迫ってくる。光の球体の余波を浴びているだけでも、背中が焼けるように熱い。本格的に球体に触れてしまえば、私の体は消滅してしまうだろう。


(どうする!? 反撃しようにも呪いの力はあの球体を相手には意味が無い! 別の場所に転移しようにも、黒い靄の中には泥水の化け物が満ちている! 考えろ! 考えろ!)


いくら考えてもこの状況を打破する考えが浮かばない。このまま消されてしまうのか? いや、消されるのは私だけのはず。サヤカは人間のままだから、あの球体に触れても何の影響も無いはずだ。

でも結局、サヤカだけ助かっても風間に何をされるか分かったもんじゃない。最悪の場合、殺されるかもしれない。


「何か・・・何か考えないと・・・!」


「詰みだ。黒澤アキ。」


「それはどうかな?」


「「っ!?」」


いつの間にか目を覚ましていたサヤカは、私の体を強く抱きしめ返し、青く光る指輪の光を更に眩く輝かせた。


「空間術 神薙。」


すると、目に見えていた景色が瞬く間に変わり、広い地に無数の鳥居が突き刺さっている異質な場所に変貌した。サヤカは私を抱えながらその地に着地し、上空で浮かんでいる風間を睨んだ。


「お前も祓い士なら、この空間に持ち込まれた際に取るべき行動がなんなのか、分かるよな?」


「・・・ふん。」


風間は光の球体を消し、その姿を現した。


「岸サヤカ・・・ではないな。」


「当ったり~。ちょっとだけこの子の体を借りているんだよ。」


「・・・なるほど、ルー・ルシアンか。噂程度にしか聞いていなかったから忘れていたよ。」


「え? ルーさんなの?」


「そそ。久しぶりだねアキちゃん!」


ルーさんが中に入っているとはいえ、サヤカが私の事をちゃん付けで呼ぶのは違和感が凄いな。


「それでどうする? 私とやるか? 若い体に入っていると言っても、私はブランクがあるから、君にも勝ち目はあるかもよ?」


すると、風間は刀と指輪を構えて戦う意思を見せたが、すぐに構えを解き、地面に下りてきた。


「私の依頼は岸サヤカ・黒澤アキの始末。あんたと戦う事は依頼に入っていない。それに、あんたに術を使えば、盗まれてしまうからね。」


「あら残念。桐山家の術はあまり見た事が無かったから、いい機会だと思ってたんだけどな~。」


「ここは引き揚げる。二人、それからあんたの事は、上に報告させてもらいますよ?」


「元気にしてるって言っといて。」


風間は転移術を使って、あっさりと引き揚げていった。あれだけしつこく私の事を追いかけてきたのに・・・もしかして、ルーさんって本当に凄い人だったりするんだろうか? もちろん悪い意味で。


「・・・あの、降ろしてもらっていいですか?」


「あ、ごめんごめん。」


「っと。それで・・・えーっと、何から言えばいいか・・・。」


「心配しなくても大丈夫だよ。」


そう言うと、ルーさんは目を閉じた。すると、まるで背中を押されたかのようにサヤカの体が私の方に倒れ込み、受け止めてサヤカの様子を見守っていると、サヤカはゆっくりと目を開けた。


「・・・アキ?」


「サヤカ・・・なんだよね?」


「あれ・・・なんで、私・・・確か―――」


私はサヤカを抱きしめた。私の体の中に押し込む程に強く。


「サヤカ・・・!」


「・・・痛い。」


「ちょっとは我慢してよ・・・勝手にいなくなろうとした罰だよ・・・!」


「・・・私、アキにしがみついてばかりだから・・・だから一回くらい・・・最期くらいは、アキの為に何かしようとして。」


「いなくなるのが私の為だなんて、馬鹿だよ・・・サヤカは私の傍にいればいいんだよ・・・。」


「・・・いても良いの? 私、アキの邪魔にならない?」


「なる訳ないだろ! いつも言ってるじゃないか! 私には、サヤカがいないと駄目だって!」


「・・・そっか・・・私、アキの傍にいてもいいんだ。」


『うんうん。アキちゃんの言う通りだよ!』


「「へ?」」


横を向くと、そこには薄っすらと浮かぶルーさんの姿があった。どう見ても幽霊だが、満面の笑みを浮かべる本人を見ると、生きているんじゃないかと錯覚してしまう。


「ルーさん、あんたどうなってるんです?」


『簡単な事。サヤカちゃんに渡した指輪の中に魂を移したんだよ。あの体はもう限界だったし、二人がピンチだったからね。まぁでも、サヤカちゃんに乗り移るのも、こうやって姿を現すのも初めてだったから、時間が掛かっちゃったんだよね。』


「・・・もう何でもありですね、祓い士って。」


『それよりも二人共! あまりにも力の使い方がなってなかったよ! アキちゃんはすぐ呪いに飲み込まれそうになるし、サヤカちゃんは頭が固すぎる!』


「そんな事言われても、私達は力の使い方を教えてもらってないし。ね、サヤカ?」


「それはそう。指輪を渡す時に教えて欲しかったものね。」


『あの時は時間が無かったんだよ。アキちゃんに至っては、また再発しているしさ。という事で、二人にはこれから訓練をしてもらいます。』


「「訓練?」」


ルーさんの言葉に嫌な予感を覚えていると、無数にある鳥居から殺気を感じ取った。見ると、鳥居から不気味な見た目をした巫女が次々と来ていた。目や口や耳は手で塞がれ、服の袖からは三つの手が出ており、右手の中指には三本とも祓い士の指輪が着けられていた。


『次に襲われた際に対処出来るように、私が鍛えてあげる。まだ夏休みは序盤だし、時間はたっぷりあるよね? そうだ、危なくなったら止めるから安心して。それじゃあ、始め!』


「「だから力の使い方分からないんだって!!!」」


私達の必死な訴えも虚しく、鳥居から現れた巫女達は戸惑う私達に構わず、術を発動して私達に襲い掛かってきた。





あれから三週間後、私達は無事に五体満足で生き延び、ルーさんの訓練を終えた。体の疲れが取れぬまま、私達は学校へと向かっている。


「痛っ・・・まだ全身のあちこちが痛いよ。特に左腕・・・。」


「あんたが調子に乗って色々変化させて暴れるからよ。お陰で何度ルーさんに体を乗っ取られた事か・・・。」


「・・・なんか、こんなに色んな事があったのに、また普通に学校に通うなんておかしいよね。」


「・・・そうね。ほんと、色々あったわ・・・また、あんな目に遭うのかしら。」


「分かんない・・・でも今度は大丈夫だよ! 私がサヤカの事、何がなんでも助けるから!」


「アキ・・・ふふ、それはこっちの台詞! 今度は私がアキを助ける番なんだから!」


この半年間で、色々と変わった。サヤカとの関係・ルーさんとの出会い・異形の化け物との遭遇・二度の死・聖恋島での出来事・呪いが身に宿った事。それらがこれからの私達の人生にどんな災いを起こすのかは、今はまだ分からない。

でも、今は一時の平穏に幸せを感じていよう。手を繋いで隣を歩くサヤカを見て、私はそう思った。

今回の話で【岸サヤカはツンデレのつもりでいる。】は終わります。ここまでお付き合いしてくださって、ありがとうございました。


最初の頃は真っ当な百合作品でしたが、徐々にホラー要素やファンタジーが入って困惑した方もいるかもしれないんですが、これは初めから決まっていました。


普通の二人の女の子が徐々に怪奇的な現象に巻き込まれ、様々な危険に見舞われながら関係が徐々に深まっていく―――というのがこの作品です。


ちなみに、最後辺りで過去の作品の人物が出てきたのですが、僕の作品はほとんど繋がっています。なので、今回の作品も次回に書く長編に繋がっているので、もしかしたらサヤカとアキが出て来るかも? まぁ、まだ決めてませんけど。


とりあえず、細かいところは不明なまま終わってしまいましたが、無事完結しました! ここまで読んでくださった方には感謝しかありません!


夢乃間の次回作にも期待してくだされば幸いです。

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