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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
最終章 忘れられない夏休み
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来訪者

あと二話で一旦完結します。

人魚の存在を確認出来たので、もうこの聖恋島に用が無くなった私達は家に帰る為、帰りの身支度を済ませていた。


「よっと・・・これで全部だよね?」


「ええ、そうよ。それにしても、もっとゆっくりしてたかったわ。せっかくの夏休みなのに。」


「まあまあ、結局我が家で過ごすのが一番だって事が確認出来たから良しとしようよ。」


「・・・そうね。いつもの家で、いつもと変わらないように過ごして、いつまでもアキと話して・・・それが私の幸せ。」


「私も同じだよ。じゃなきゃ、二回も生き返ったりしないよ。」


サヤカが微笑んだ顔を見て、私も満面の笑みで返した。その時、島全体が激しく揺れ動き、島の中心に鎮座していた黄金の大樹が悲鳴に似た軋みを上げながら、その身を輝かせていた黄金が褪せていった。

やがて大樹にヒビが入ると、そこから泥が混じった海水が噴き出し、みるみる内にこちらへ流れ込んでくる。


「やっば!?」


急いで黒い靄を出現させ、地面に置いていた荷物を無視してサヤカの手を引いて靄の中へ飛び込んだ。

飛び込んだ先は私の部屋で、靄の奥から迫ってきている泥水の轟音が聴こえ、振り返りざまに左腕を靄に向ける。


「閉じろ!!!」


靄が閉じる瞬間、大樹から流れてきた泥水が迫ってきており、薄暗くてハッキリとは見えなかったが、泥水には沢山の目や口や腕があった。


「・・・はは。間一髪、だったね?」


「・・・もう変な噂がある場所はいかないわよ。」


ピンポーン・・・。


「・・・誰か来たな。」


「このタイミングで来る? なんか変な人とかじゃないでしょうね。」


「ははは、まさかー・・・サヤカはここで待ってて。」


万が一の場合を考え、サヤカを部屋に待たせて、私が来訪者の対応をする事にした。部屋を出る際に左腕の呪詛を隠す為に長袖を着て、一階に下りていく。


ピンポーン・・・。


「はいはい、今出ますよ・・・。」


ドアチェーンはロックしたまま、玄関の扉の鍵を開ける。勢いよく扉が開かれたが、ドアチェーンのお陰で扉は完全に開かず、半開きの状態になった。

すると、半開きになった隙間から、目の下のクマが濃い疲れた様子の女性が顔を覗かせた。女性の歳は20~30くらいだろうか? タバコの臭いも染みついている。


「・・・どちらさんで?」


「黒澤アキか?」


「・・・そうだ。」


「そうか。」


女性は納得したような返事をすると扉を閉めた。帰ったのか? と思ったが、左腕の呪詛が蠢き回るのを感じ、私は咄嗟に玄関から離れた。

次の瞬間、爆弾でも爆発したかのように扉は吹き飛び、吹き飛んできた扉を蹴りで跳ね返すと、先程の女性が懐に入り込んできており、握りしめていた小刀を突き上げてきた。

顔を逸らして掠める程度に抑え、女性の襟を握ってリビングへ投げ飛ばす。女性の体はリビングにあった棚に激突し、棚に入れていた本が次々と女性に降り注いでいく。


「危ねぇ・・・てめぇ、一体どういうつもり―――」


「・・・爆ぜろ。」


女性がそう呟くと、右手中指に着けていた指輪が緑色に光った。すると、いつの間にか私の脇腹に貼られていたお札の文字が光り、小さな爆発が起こって、私はキッチンの方へと吹き飛ばされた。


「ぐぅぅぁっ!!?」


脇腹から激痛が走り、爆発が起きた方の脇腹を見ると、肉が爆ぜて欠けた肋骨が見えた。


「くそっ! やってくれるじゃねぇか!」


呪いの力のお陰か、爆ぜた部分は瞬く間に回復し、すぐに動ける状態に戻った。立ち上がって女性に反撃しようとしたが、既に先手を打たれており、女性の指輪から伸びた光の縄で体を縛られ、身動きが取れなくなってしまった。


(動けない!? やっぱりあの女、祓い士だ!)


何故祓い士が私を襲うのかは分かっている。原因は私の左腕の呪詛だろう。いくら私が人間のままのつもりでも、祓い士にとっては異形の力を持つ祓う対象だ。


「くそっ! 千切れねぇ!」


どれだけ力を入れても光の縄はビクともせず、逆にどんどん締まっていく。そうしている内に、祓い士は私の下へ近付き、指輪を私へ向けてくる。


「待てよ! 私は別に人を襲うだなんて考えちゃいないんだよ!」


「今はそうかもね。でも、その左腕。」


脇腹で起きた爆発によって左腕の袖がボロボロになっており、隠していた呪詛が露わになっていた。


「その呪詛は生きている。今は自分を自分で制御出来ているが、その呪詛の力を使えば使う程、お前の体は呪詛の呪いに侵食され、やがて異形と化す。」


「・・・心当たりはあるね。」


実際、人魚と戦う前に見た予知夢で私はそうなっていた。確かに呪いの力を使い過ぎれば異形と化してしまうし、このまま左腕に宿したままでもどうなるかは分からない。


「あんた、祓い士だろ? 上手い事この左腕の呪詛だけを祓う事は出来ないのか?」


すると、祓い士の指輪が発光し、その光が私の全身を覆った。


「・・・無理だね。少ないけど、もう既に全身に呪いが侵食し始めている。手遅れだ。」


「でも私の知り合いの祓い士は上手くやってくれたよ。ルー・ルシアンって奴がね。」


「その人は祓い士の中でも指折りの実力者だったんだろう。普通呪いだけを祓う事は不可能に近いんだよ。」


「・・・それじゃあ、私は諦めるしかないって事?」


「悪いね。可能性があるのは潰しておきたいんだ。」


「そうかい・・・じゃあやれよ。」


「そうするよ。」


祓い士の指輪がさっきよりも眩く発光し始めた。その光を見るだけで、私の意識が薄まっていく。

このまま祓われるのか・・・いや、それが一番良いのかもしれない。もし呪いが私を乗っ取って、それでサヤカを襲うのが最悪だ。サヤカの為にも、ここで祓われる方がリスクが無くなる。

ははは・・・ルーさんの言った通りになったな。呪いが体内に残っていれば、サヤカとは一緒にいられなくなるって。せっかく一度は体から切り離したのに、残念だ。


「・・・さよなら、サヤカ。」




「アキ!!!」


「ッ!?」


「サヤカ!?」


騒ぎを聞きつけて部屋から飛び出してきたサヤカが、祓い士に光の縄を伸ばして縛ろうとした。しかし、死角から仕掛けたというのに祓い士は咄嗟に光の縄を掴んで打ち消した。


「消された!?」


「祓い士? お前、派閥は?」


「そんなの知らないわよ! アキを解放して! アキは人を襲う化け物じゃない! 私を何度も助けてくれたのよ!?」


「・・・その指輪の青い光。本来の所持者ではないな。所有者は?」


「ルーさんから受け取ったのよ。私とアキが人魚を祓う為にって!」


「人魚・・・聖恋島のか。なるほど君達がこの騒動を。」


「騒動? 一体何の事だ?」


祓い士に尋ねたが、祓い士は私の質問に返す前にサヤカを光の縄で縛り、私の傍にサヤカを運んだ。


「二人共、同行してもらうよ。」


すると、祓い士は取り出したお札を床に置き、私とサヤカの体に触れながら転移術を発動した。

転移した先はどこかの屋敷の中。広い和式の部屋で、壁にはこれでもかという程にお札が貼られていた。


「さて・・・自己紹介からしようか。私の名前は【風間 晶】。【桐山家】の祓い士だ。」

風間 晶

・他作品【瞳は閉じたまま】に出てきた主人公です。

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