瞬きの間に
黄金の大樹の底にある世界に辿り着いた私達。そんな私達を出迎えるように、どこからか歌声が聞こえてきた。美しく、温かで・・・狂気を孕んだ女性の歌声が。
視線を上に向けると、およそ10mはある私とよく似た容姿をした人魚が空を悠々と泳ぎ回っていた。人魚が地上で佇む私達の存在に気付くと、私達を中心にして上空を回り始めた。
あの行動がどういう意味なのか。その答えを導き出す前に、私は行動に移っていた。
「伏せてアキ!!!」
私が指輪の力でバリアを張ったのとほぼ同時に、黄金に輝くリングが上空に現れ、光弾の雨が降り注がれた。
降り注ぐ光弾をバリアが弾く度、地面に思いっきり叩きつけられたかのような痛みが胸から全身へと広がっていく。
「ぐぅぬぅ・・・!?」
「サヤカ!?」
(冗談じゃないわ! せっかくバリアを張れたってのに、このままじゃすぐに潰れちゃうわよ!)
激しく震える右手を左手で抑え、今にも消えそうなバリアを留めようと必死に堪える。私の役目はアキに繋げる、言わば前座だ。私が必死になって光弾の雨を凌げば、あとはアキがトドメを刺してくれるはずだ。
心配なのは、アキがまだ呪いの力をイマイチ使いこなせていない事。でも、もう戻れない。私がバリアを張った時点で、アキに託すしかない。
「ア、アキ・・・ぁぁ・・・!」
後ろにいるアキを見て、私は安堵した。アキは私を心配そうに見つめている訳でも、自分に何が出来るか迷っている訳でもなかった。
睨んでいた。歯が見える程強く噛み締め、殺気に満ち満ちて赤く充血した眼で、人魚を睨んでいたんだ。私が言うまでもなく、アキは自分が何をすべきか、もう分かっている。
「・・・ブッ飛ばして・・・アキ・・・!」
光弾の雨が止み、全身から力が抜けた私は地面に膝をついた。
「ウヴルラァァァァ!!!」
怒りと恨みが籠った雄たけびを上げながら左手を上に突き出し、呪詛が蠢くアキの左腕から、さっきまで降り注いでいた光弾とは比にならない程の大きく太いビームが放たれた。
思っていた以上の物凄い攻撃だけど、これだけの力なら、どんな化け物でも消し去る事が出来る。
そう・・・確信していたのに・・・。
「・・・嘘でしょ?」
アキのビームは一直線に人魚へと放たれ、直撃したかに見えた。しかし、私が光弾の雨をバリアで防いでいたように、人魚もまた同じようにバリアを張ってビームを防いでいた。
しかも信じられない事に、未だ勢い衰えぬアキのビームを押し返し始めている。
「こ、こんなの・・・こんなのに勝てっこない・・・! 逃げよアキ!・・・アキ?」
そこには、私が知っているアキの姿は無かった。音も無い絶叫を大きく裂けた口から出し、程よく日に焼けた綺麗な肌が、左腕から徐々に全身へ侵食していく呪詛で黒く塗り潰されていた。確実に人から化け物へと変わり始めている。
「アキ! もういいの! もう抑えて! このままじゃあなたも化け物に―――」
これ以上呪いの力を使えば、アキはアキに戻れなくなる。それは私が最も恐れている事。だから当然、力を止めるように手を伸ばした。
でも、もう遅かった。
グシャッ!
肉が破裂する音が鳴り、アキの左腕から黒く太い茨の棘が左腕を貫いて突き出た。それも一本や二本ではない。もう触れる場所すら見当たらない程、おびただしい数の棘だ。赤黒い血が地面に流れていき、瞬く間にアキの足元には血の池が出来ていた。
それでも尚、アキは呪いの力を止める素振りを見せず、力をより引き出す為に左手の指を反対方向に折り曲げた。ビームの威力はより強力になったけど、また棘がアキの体を貫き、左側のほとんどの体が棘で一杯になってしまった。
「アキ・・・アキ・・・アキ・・・。」
言葉を失い、辛うじて言葉に出来るのはアキの名前だけ。その声がアキに届いて、呪いの力を止めてくれる事を願いながら、何度も何度もアキの名前を呼んだ。
すると、アキが放っていたビームの威力が徐々に弱まっていき、完全に消滅した。ようやく私の声が届いてくれたのかと喜んだのも束の間、私は絶望した。
アキは私の声が聞こえて呪いの力を止めたのではない。単純に、もうアキが動かなくなってしまっただけ・・・つまり、アキは死んでいた。
アキが死んでしまったという事は、つまり私が生きる理由が無くなったのと同じ。もう全部がどうでもよくなった私は足元に広がっているアキの血の池に倒れ込み、口や鼻や目にアキの血を入れた。もう鉄臭さしかないけど、最期はアキで満たされて死にたかった。
視界は赤黒く染まり、口の中で充満するアキを感じながら、私達の下へ降り注いでくる光弾の雨をジッと待った。
あと2、3話で終わると思います。




