水鏡
アサとの決着をつけて満足したアキと共に黄金の大樹の底へと向かっている。明かりの無い中、狭い階段を一歩ずつ確実に下りていく。幸いな事に指輪の光のお陰で私とアキの足元を照らすくらいの明るさがあり、いちいち下りる度に怯えずにすんだ。
「これ、どこまで続いてるの?」
「結構下りたよね? ほら、上。」
そう言われて上を見上げると、入り口から差し込んでいた明かりが豆粒程の小ささでポツンと暗闇の中に存在していた。
「確かにそうね・・・それにしてもおかしな樹よね。こんなに下りたのに、まだ樹の体が続いているなんて。」
「樹というより、まるで長芋だよね。」
「あー、確かに。見た目は全然違うけどね。」
「んぁ~あ! 早く終わらせてサヤカのご飯食べたいよ。私コロッケ食べたい!」
「え~・・・行きだけでもうクタクタなのに、戻りは上るんだからフラフラになっちゃうわよ。そんな状態の私に料理をしろって?」
「それじゃあさ、私が運んだげるよ。こうやって!」
「ふぇ!?」
アキは私を抱え、気でも狂ったのか階段から外れて下へと落ちていった。
「こんの馬鹿ぁ!!! また死ぬつもりなの!? 今度は私も巻き込んで!?」
「大丈夫大丈夫! 私の左腕の力で何とかなるから!」
「使い方分からない癖に自信持ち過ぎよ!!!」
落下する勢いはどんどん増していき、それと共に私の鼓動も速くなっていく。すると私達が落ちていく先に、海のような青い水の溜まりが出来ていた。
地面じゃなくて良かった・・・なんて思ったけど、この落下速度で落ちれば、水とはいえ地面に落下するのとそう変わらない。
つまり大怪我、もしくは死ぬ。
「し、死ぬぅぅぅ!!! 死んじゃうぅぅぅ!!!」
「よっしゃ! 今度こそ何か起これよ私の左腕!」
「ほんとに何か起きてちょうだいー!」
恐怖で落ち着きが無くなった所為で指輪の光は消え、唯一の頼みの綱であるアキの左腕の呪詛の力で何かが起こる事を願った。
しかし、あと数秒で水面に激突するにも関わらず、アキの左腕は何の力も発動しなかった。
「・・・やっぱ駄目みたい。」
「こんの馬鹿ぁぁぁぁ―――」
死ぬ前に思いっきり罵倒してやろうとアキに怒号を吐こうとしたが、最後まで吐き切れず、私達は水の中へと墜ちていった。
不思議と体に痛みは無い・・・ただただ暗いだけだ。温かくも、冷たくもない・・・ただ、暗い。
暗闇で体を動かせているのかすら分からなかったけど、アキの手を必死に握りしめていた。手を離せば、今度こそ離れ離れになる気がして。
それからしばらくすると、前方から徐々に眩い光が広がっていき、その光が私達の体を包み込んだ。
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「―――サヤカ!」
「・・・んぅ・・・うぅ・・・ん。」
目を覚ますと、心配そうな表情で私の体を揺らすアキが目に映った。
「起きた! あー良かった! てっきりもう二度と目を覚まさないと思ってたから。」
「アキ?・・・私達って確か、水の中に堕ちたよね? それでー・・・地上、に?」
「そうみたい。」
「そうみたいって・・・明らかにおかしいでしょ。」
水の中に堕ちたとはいえ、あれは樹の中だったはずだ。堕ちた水の中に外へと通じる穴でもあったんだろうか?・・・いや、あの黄金の大樹から放出されていた粒子が海を枯らしたから、浜に流れ着く訳が無い。じゃあ何故私達は地上に戻ってきているのだろう?
一つ思い浮かんだのは、あの黄金の大樹の底にあった水の溜まりは単なる水溜まりではなく、どこかへ通じる扉のような役割を持っていたという事。となれば、ここは私達が元居た世界ではなく、別の世界である可能性が高い。
「もしかしたら私達、別世界に来ちゃったのかも。見た感じ、同じように見えるけど・・・。」
「・・・どうやら、サヤカの言う通りかも・・・ほら、上。」
アキが見ている視線を追うように上を見上げると、そこには海があった。一瞬理解を拒んでしまったけど、空の代わりに海が存在していた。
困惑する私達の心とは裏腹に、青く澄んでいる海は元居た世界で地上を力強く照らしていた太陽とは違い、透き通るような優しさで地上を照らしている。




