熱い想いを君に
島の木々が枯れたお陰で、この島の異様な広さに気付く事が出来た。どれだけ前に進んでも、あの黄金の大樹に近付けた気がせず、でも後ろを振り向くと確かに私は進んでいた。どう考えても島全体の大きさとここの広さが矛盾している。
これもあの大樹の所為? それとも元々おかしかったの?・・・いや、今はそんな事を考えている暇は無い。早くあの大樹の下に辿り着かないと!
「・・・ぅぅ・・・ぅぁ・・・!」
「この声・・・アキ!?」
今にも途切れそうな程弱弱しいアキの声が聞こえた。しかし、指輪の光が差す方角は変わらず大樹の方へ指し示している。恐らくこの光の先にアキがいると思う・・・だとすれば、今聞こえた声の主は・・・。
「・・・アサ。」
「ぁ、ぅぅ・・・サ・・・ヤカ・・・?」
声の下へ近付いて見た物は、最早人の形を成していない変り果てた姿をしたアサだった。体や目は灰色に染まり、ゆっくりと崩れていってる。
「良かっ、た・・・無事、だったんだ・・・。」
「・・・よく言うわ。私とサヤカを殺そうとしたくせに・・・!」
「・・・ごめん、なさい・・・僕は、騙されていた、んだ・・・。」
「騙されていた?」
「黄金の果実に・・・閉じ込められていたのは・・・サヤカじゃ、なかった・・・サヤカは、人魚になってない・・・サヤカは、死んで・・・いた・・・!」
アサの目から溢れ出た涙が頬を流れ、涙が通った痕が黒く滲んだ。正直アサの事を許すつもりは無かったし、見つけたらアキの代わりに殺そうと考えていた。
でも、こうして変り果てた姿で涙を流すアサを見たら、彼女に向ける感情が殺意や怒りよりも憐れみの方が強くなっていた。
「僕が・・・やってきた、のは・・・全部、無駄・・・だった・・・! ごめん、なさい・・・!」
「・・・もう、いいよ。もう何も言わなくていい。謝っても許すつもりはないしね。」
「っ!? な、なにを・・・?」
私は右手をアサの胸に当てた。この指輪の力がどれ程のものかは知らない。でも、ルーさんが言っていた【想いを力に変える】というのであれば、指輪は私の想いに応えてくれるはず。
「でもね、アサ。あなたの気持ちはよく分かるの。もし、私がアキを失って、アキを取り戻す方法が誰かを傷付けるのが代償だとしても、私は何の躊躇も無く実行する。あなたはもしかしたらアキよりも、私の方が似てるのかも。」
すると、指輪の宝玉の青い光が強く輝くと、灰の塊だったアサの体が元の人間の体に戻り始めていった。
私が指輪に込めた想いは【許す】という罪への清算だ。この指輪の力を扱いきれていない私にはアサを完全に回復させる事は出来ないけど、最期だけでも人間の姿でいさせたかった。灰の姿のままあの世に行ったりしたら、アサにとってのサヤカが気付いてくれないかもしれないから。
「・・・ありがとう、サヤカ。僕も、君達のように、島の外で、生まれたかった、よ・・・」
そう言って、アサは静かに目を閉じて眠りについた・・・もう、目覚めない深い眠りに。
「さようなら・・・もう一人のアキ・・・。」
アサがアキとは別人だと分かっている。でもやっぱり同じ容姿をしているからか、心に大きな穴が出来る程の喪失感に襲われてしまう。涙も出てしまった。
「・・・アキ・・・あなたは、無事でいて・・・!」
心に出来た穴を塞ぐように両手を胸に押し当てた。すると、指輪の光がまた輝き出し、私の足元に魔法陣が現れた。魔法陣の円が青く光ると体が浮き上がったように軽くなり、瞬きの間に私は別の場所へと転移していた。
転移された場所は暗闇に包まれた水の中だった。冷たい・・・幸いな事に、水の中でも呼吸が出来て息苦しさは無い。指輪のお陰かしら?
「っ!? アキ!?」
私がいる更に下の奥深くにアキがいた。アキの下へ向かおうと下へ泳いでみたけど、私が下へ潜ろうとすればする程、アキはもっと深くまで沈んでいく。
「アキ! 目を覚まして!!!」
手を伸ばして叫んでも、アキは目覚めない。
「起きなさい!!! また闇の中に消えるつもりなの!?!」
更に強く訴えかけた・・・でも、アキは目覚めない。
「起きて!!! アキ!!!」
指輪をアキの方へ向け、私の想いをアキに届けようとしたけど、指輪から出た光の線はか細く、アキの下に辿り着く前に、闇に掻き消されてしまった。
「アキ・・・お願い・・・私を一人にしないでよ!!!」
光が届かなかった私は、アキに対しての想いではなく、私自身の想いを叫んだ。
「一人は嫌!!! 人形のように無機質な私には戻りたくない!!! だから、アキ!!! 私を助けてよ!!!」
「・・・サヤカ。」
「っ!? アキ!?」
幻聴じゃない・・・今のは、アキの声だ。涙を拭ってアキの方をもう一度見ると、アキの胸から緑色の光の線が伸びてきているのが見えた。
私はその光の線を掴む為にもう一度指輪から青い光の線を伸ばした。私の青い線と、アキの緑の線が繋がった。
その瞬間、激痛を伴った熱さが体中に走った。気を失いそうになりかけたけど、ここで気を失えばアキを助ける事が出来ないと思い、私は歯を食いしばってこの熱さを耐えた。
すると、また体が浮き上がったような感覚になり、瞬きの間に聖恋島へと私は戻っていた。
「痛っ・・・なんなのよ、もう・・・!」
「・・・サヤカ。」
「え?」
とても落ち着く、聞き慣れた声が私のすぐ隣から聞こえてきた。隣に向くと、そこには私と同じように横になっていたサヤカがいた。
「アキ・・・。」
「・・・サヤカの想い、とっても感じた。痛い程にね。」
「っ!?・・・もう、馬鹿!!!」
「あべぇ!? な、なんで殴るのさ!? こういうのは優しく抱きしめてくれるのが定番でしょ!?」
「うるさいうるさい!!! 私をここまで心配にさせて!!!・・・ほんと、馬鹿・・・。」
「・・・ごめん。ねぇ、サヤカ。」
「・・・なによ。」
「・・・ただいま。」
「・・・うん。おかえり、アキ!」




