岸サヤカは怖くないつもりでいる
「サヤカー!ホラー映画観よー!」
「嫌よ!」
窓を開けてサヤカに映画を観ようと提案してみたが、素早く断られてしまった。
「え~、観ようよ~。」
「私の部屋にはテレビが無いの!あんたと違ってね!」
「じゃあ私の部屋で。」
「私はあんたみたいに窓を飛び越えてそっちに行く馬鹿な真似はしないのよ!」
「普通に玄関から来なよ・・・。」
「うっ・・・!」
サヤカは腕を組みながら回り始め、苦い表情を浮かべたと思うと、部屋から出て行ってしまう。どうやら私の部屋に来るみたいだ。
サヤカが来る前に映画を観る準備を進め、部屋にある小さな冷蔵庫から飲み物を出し、映画のディスクをDVDプレイヤーに入れる。これでいつサヤカが来ても大丈夫だ。
飲み物の封を開けていると、部屋の扉が開き、入ってきたのはサヤカであった。
「来た来た。準備は出来てるよ。」
「・・・こっちもよ。」
こっちもよとは?それに、なんだか落ち着きがないように見える。あれ、これもしかして怖がってるんじゃ?おいおいおい、今日の映画鑑賞は面白くなりそうだ!
「とりあえず隣に来な。」
「・・・うん。」
サヤカは私の隣に座ると、肩と肩がぶつかるほど密着してきた。
「怖かったらいつでも手を握っていいからね?」
「べ、別にー!?怖がってないんだけどー!?」
そう言いながらも私の手をガッチリ握ってきてるじゃん。別にホラー映画を怖がるのはなんら恥ずかしい事でもないのに。むしろ私みたいな全く怖がらない方がおかしい。
そう思うと、今のサヤカが少し羨ましく思えてきた。
「それじゃあ、再生するよ。」
「うん・・・いやぁ!」
「え?」
テレビを点けただけでビビった・・・この子は今までテレビを点けた事が無かったとでもいうの?
映画が始まる前の長い告知をしばらく見ていると、ようやくお待ちかねの本編が始まり、それと同時に私の手を握るサヤカの力がグッと増していった。
まだ最初だし、何も怖くないはずなのだが・・・そう思っていると、映画内で一人の男が明らかにヤバそうな一軒家に入っていった。
おそらく始めの恐怖ポイントでだろう。しかし、隣の子は始まる前から既に恐怖を覚えているようだ。
男が誰もいない不気味な一軒家を徘徊していき、その一軒家の持ち主であろう人物の写真を見つけると、二階から音が鳴り響いた。
「うぎゃ!?」
「うぇ!?」
サヤカの声に思わず驚いてしまった。なんか楽しいな、他人の反応でビックリするのも。
『二階から・・・行ってみよう。』
「行かなくていいわよ馬鹿!」
うん、それやっちゃったら映画が終わるね。心の中でツッコミを入れながら映画を観ていくと、男が二階に辿り着き、二階のとある部屋の壁に赤い染みを見つけた。
『・・・血?』
「はぁ~!?血はもっと黒いから!?それトマトジュースだから!?」
それはそれで怖くないかサヤカ? すると、壁の染みを見ていた男の背後に、明らかに今作のお化けであろう女性が現れ、私はここから怒涛の恐怖シーンが繰り広がるのだろうと直感した。
「後ろぉ!?後ろよ馬鹿!?血なんて見てないで早く窓から飛び降りて逃げなさいよ!?」
『は・・・。』
『ミーツーケーター。』
「見つかっちゃったーーー!」
『うわぁぁぁぁ!!!』
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
映画の中の登場人物よりも迫真の悲鳴を上げたサヤカ。その後、数々の恐怖シーンを前に登場人物達よりも怖がるサヤカの悲鳴を聞きながら映画を観終えた。
サヤカのツッコミや悲鳴で怖さは全く無かったが、思ったよりもストーリーが良く出来ていた。確か今度これの続きが公開されるんだっけか。
「結構面白かったねサヤカ。これの続きが今度公開されるからさ、サヤカも一緒に―――」
「全ッ然怖くなかったね!」
「え?あ、そう?それじゃあ次のやつも一緒に―――」
「大体?あんなの起こる訳ないし?リアリティが無さ過ぎて途中からギャグみたくなっちゃってるじゃん!」
「あー、確かにそうかも。じゃあ次も大丈夫だよね?それじゃあ今度観に行こう!」
「嫌よ!!!」
この反応から察するに相当怖かったんだね。よし!それじゃあ恋愛映画を観に行くフリをしてこの続きも観に行かせよう!
「ふふふ、今から楽しみ!」
「ぅぅー・・・今日一人で寝れるかしら・・・。」
岸サヤカ
・怖い系、ビックリ系が大の苦手。とにかく誤魔化そうとツッコミを入れるが、その頑張りはいつも無駄になる。
黒澤アキ
・怖い映画を観過ぎて怖がる事が出来なくなってしまい、そんな自分をまた怖がらせてくれるような作品を待ち望んでいる。