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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
一章 ほのぼのとした日常
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今はまだこのまま

靴を履き替え、さぁ帰ろうとした矢先、唐突に激しい雨が降り始めた。天気予報で夕方から雨が降ると聞いていたが、まさかこれほど酷いものだとは。


「なーに突っ立ってんのよ。」


振り続けている雨を眺めていると、隣にサヤカが現れた。


「サヤカ。いやなに、こんなに降るなんて思ってなかったからさ。」


「傘はちゃんと持ってきたわよね?」


「もちろん!起きた時からメールでサヤカに何度も言われたからね!」


「私が言わなきゃ絶対持ってこなかったでしょ・・・。」


「確かにね。それじゃあ早く帰ろう。もっと酷くなる前に―――」


予報ではこの後、もっと雨は酷くなると言われていた。だからもっと酷くなる前に早く帰ろうと、私は持ってきていた傘を開いた。

傘はバサッと勢いよく開くと、傘としての役目を果たす生地の部分だけが前へ飛び出し、突風に拾われて天高くまで舞い上がっていった。


「「飛んだぁぁぁぁ!?!」」


ほぼ同時に、私達は今起きた不幸に声を荒げた。確かに長いこと使ってきた傘ではあるが、まさかこんな時に限って壊れるとは。

空に消えていった生地を見失い、私は残った骨組みだけの傘を閉じて、サヤカの前に立ち塞がった。


「な、なによ?」


「サヤカ。」


「ま、まさか!無理よ!私のは折り畳みだから一人用なの!あんたが入る隙間なんてミリ単位もないわよ!」


「殺生な!この傘と交換してあげるから!」


「いらないわよそんな骨傘!」


「よーし分かった!じゃあ最終手段だ!」


正直、別に傘が無くても問題はない。服はびしょ濡れになるけど、それだけの事だし。それでも私が食い下がる理由は、単純にサヤカと相合傘をしたいから。昔はよくしていたが、ツンデレ?になった彼女とはする機会が中々なく、だからこの不幸を武器にして久しぶりに相合傘をしたい!

その為なら、私は恥を捨てよう。私は膝を床につけ、両手を床につけながらゆっくりと頭を下げていく。


「ちょ、待ってよ!そこまで!?そこまでするの!?」


「お願いじまずぅぅぅぅ!!!」


「声を荒げながらする行為じゃないわよ!この状況を見られたら困るのは私なのよ!?」


「なら傘に入れでぇぇぇぇ!!!」


「あーもう!分かった、分かったわよ!」


「ほんと?ラッキー!」


やった!これで相合傘が出来る!サヤカに軽蔑の眼差しを向けられている気がするが、気のせいにしておこう!

という訳で、私はサヤカの傘に入れてもらう事になった。サヤカの折り畳み傘は本当に小さかった。けど、そのお陰で密着しながら帰宅出来たし、密着している為か普段よりも会話が弾んだ。


「たまには雨もいいもんだね。」


「はぁ?この状況でよく言えるわね。」


「けど、雨のお陰で私はサヤカと久しぶりに相合傘出来たし。」


「あ、愛愛傘ってなによ!?それに昔したのも、元はと言えばあんたが傘忘れたからなんだから!それから私が何度傘忘れないでよねって言っても忘れてくるんだから!」


「だってサヤカ、なんだかんだ言っていつも傘に入れてくれるじゃん。」


「・・・もしかして、それが狙い?」


「そうそう。」


「はぁ・・・ほんっと、あんたって変わってるわね。昔から。」


変わってる、か。そうか、そう解釈しちゃうのか・・・好き、とはならないのか。いや、普通はそう感じるのだろう。異性相手にこういうワザとさを出すのは、分かり易い好きっていう合図に思える。

けど、私達は同性。同じ女性のサヤカには、私が出す合図を分かってくれない。


「ちょっとアキ、聞いてる?」


「・・・ん?ごめん、少しボーッとしてた!」


「もー、本当に大丈夫なの?あんたの将来が、たまに心配になるわ。」


「ははは・・・。」


今はまだこのままでもいい。友達のまま、何も変わらない日常を過ごそうと、ずっとそう思っていた。

じゃあ、いつ私達の関係は変われるのだろう?いつ、サヤカは私の好きを分かってくれるのだろう・・・。


「・・・ねぇ、サヤカ。」


「ん?なに?」


「・・・今度は、私が傘に入れてあげるね!」


「なによそれ?ま、考えてあげなくもないわ!」


私は臆病だ。彼女が私の気持ちに気付いてくれるまで、ずっと待っている。だから私は今回も自分に言い聞かせた。


今はまだ、このままでいい。

岸サヤカ

・ピンクの折り畳み傘を愛用している。


黒澤アキ

・傘にこだわりが無いが、強いて言えば黒色を多用している。

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