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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
四章 再出発
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岸サヤカは静かに温かく

時刻は22時を過ぎた頃。私はサヤカの家のお風呂で湯船に浸かっている。私の家の方のお風呂にお湯を張るのを忘れてて、今から沸かすよりもサヤカの家にお邪魔した方が面倒が掛からない。そう考え、事情をサヤカに話すと、意外にもサヤカは快く了承してくれた。


「何か企んでいるのか・・・?」


嫌味も呆れた言葉も出さなかったのが不思議でならない。単純な善意か、あるいは何かを企んでいるのか。まさか、突然一緒に入ってこようとしてくる、なんて事・・・いや、それは嬉しいサプライズだ。

僅かに期待を胸に秘めつつ、私は普段よりもゆっくりとサヤカの家のお風呂を堪能した。しかし、いくら待ってもサヤカは入ってくるどころか、様子を聞きに脱衣所に来る事もなかった。それにのぼせそうになってきた、これ以上湯船に浸かるのは危険だ。             若干ガッカリしながらも、私はお風呂から出て、家から持ってきていた着替えの服を身に着けた。                                         


リビングに向かうと、テレビの前のソファにサヤカは座っていた。ミルクが混ざったコーヒーを片手に、芸人達が体を張ったバラエティー番組を無表情で見ている。娯楽の楽しみ方は人それぞれだが、表情一つ動かさずにバラエティー番組を見続けている人なんて、サヤカくらいだろう。


「サヤカ、お風呂ありがとう。」


「ん。」


コーヒーを飲みながら、サヤカは自分の隣をポンポンと叩き、隣に座るよう私に促してきた。なにか話でもあるのだろうか、とりあえず私はサヤカの隣に座った。


「これ、面白い?」


「面白いと思う?」


「・・・どうだろ。」


まだ見始めたばかりだが、確かにこの番組はあまり面白くない。頑張って笑わせようとしているが、あまりにやり過ぎだ。これじゃあ笑うどころか、引いてしまうよ。

すると、サヤカはリモコンを操作して別の番組に切り替え、今度は普通のニュース番組がテレビ画面に映った。


「あんなのより、ニュース見てる方が楽しいわ。」


体を張って頑張っていた芸人達には悪いが、サヤカの言う通りだ。とは言っても、ニュース番組を見て話題が盛り上がる訳も無く、私達はただジッとニュース番組を見ていた。


「・・・んー。」


「・・・コーヒー飲む?」


「ありがとう。じゃあ、ブラックで。」


退屈そうにしている私を気遣ってか、サヤカは私の為にコーヒーを淹れる為にキッチンへ向かった。後ろから聴こえてくる棚からカップを取り出す音を耳にしながら、私はテーブルに置かれているサヤカの飲みかけのコーヒーに興味を惹かれていた。

卑しい気持ちは無い、多分。ミルクが入ったコーヒーというものを今まで飲んだ事が無かったから、単純に味に興味があるんだ。サヤカに一口頂戴と言っても、きっとくれないだろうから、飲むならサヤカのいない今の内だ。そう思いながら、たまたまサヤカが口をつけていた方から一口飲んでみた。


「・・・苦甘い?」


苦いし甘い・・・どっちつかずの味だ。これをコーヒーだと出されたら、多分私はガッカリするだろう。


「私の飲みかけは美味しかった?」


「いや、あんまり・・・あ。」


まるで錆びついた歯車のように、ぎこちない動きで後ろに振り返ると、眉を上げながら私を見下ろしたサヤカが立っていた。手には私の分のコーヒーがある。

勝手にサヤカの分を飲んだ事もそうだが、反射的に本心を言ってしまった事がマズい。2アウトって所か。


「ふ~ん。美味しくないんだー。」


「いや違くて・・・そう!ミルク入りのコーヒーってあんまり美味しくないなーって!」


「私が淹れたコーヒーが美味しいと思えないんじゃ、これもいらないよね?」


3アウト、ゲームセット。


「あーいや!・・・ごめん。」


「・・・ふふ。」


サヤカは不敵な笑みを浮かべると、私の為に淹れてくれたコーヒーを一口飲み、眉間にしわを寄せながら私に差し出してきた。


「はい、どうぞ。」


「あ、うん。ありがとう。」


「そっちじゃない。こっちから飲んで?」


サヤカが口をつけた方の逆から飲もうとしたら止められ、口をつけた方から飲めと言われてしまった。

本人を前にして口をつけるのは何だか恥ずかしい。でも、これを断ったら本当に機嫌を損ねてしまう。


「い、いただきます・・・美味しい・・・!」


さっき飲んだミルク入りのコーヒーとは違い、こちらは飲み慣れたブラックコーヒーの味がする。当然と言えば当然だが、なんだかいつもよりも美味しく感じた。どこかの猫耳女とは違い、サヤカはコーヒーを淹れるのが上手いな。


「これ、美味しいよ。」


「そう?良かったわ。」


サヤカは私の隣に座り、飲みかけていた自分のコーヒーを一口飲み込んだ。


「う~ん、確かにあんまり美味しくないかも。」


「え?じゃあ、なんでミルク入りで飲んでたの?」


「コーヒーが苦手だったからよ。でも、アキのお陰で好きになれるわ。」


「私?どうして?」


「だって、アキは私の飲みかけのコーヒーが好きなんでしょ?」


「ぶふぉ!?・・・まぁ、はい。」


「ふふ、私も同じよ。」


「あはは・・・似た物同士って訳か。」


「そうね。」


それから私達は眠くなるまで、サヤカが淹れたコーヒーを飲みながらテレビを見ていた。私達にしては珍しく会話も少なく静かな時間だったけど、いつもよりもお互いの存在を感じられて、心が温まった時間だった。

岸サヤカ

・砂糖二杯、ミルク少々のコーヒーを好む。


黒澤アキ

・香りが良いブラックコーヒーを好む。



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