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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
四章 再出発
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岸サヤカは特別を分かっている。

仮病を使って二日休んだ後、私とサヤカは学校に戻った。学校に入るや否や、先生や同級生達からどこへ消えていたのかと質問責めにあったが、本当の事を言っても信じてもらえないと分かっていた為、予め藍丹山に迎えの人を用意していて自分達は先に帰っていたと嘘をついた。先生からはこっぴどく叱られたが、同級生からは逆に嫉妬の眼差しを向けられていた。やっぱりみんな帰りたかったんだ。


それから退屈な時間が流れ、今は放課後。私はなんとなく屋上に足を運んでいた。落下防止のフェンスから下校中の生徒達が見える。仲良く喋りながら下校するグループや、腕を組んでいる二人組もいるな。彼女達はこれからそれぞれの日常があり、それぞれの楽しみがあるんだろう。


「・・・。」


「まるでストーカーみたいよ、アキ。」


「・・・サヤカ。」


いつの間にか隣にサヤカが立っていた。まるでホラー映画に出てくる殺人鬼みたいだな。


「いやさ、こっから眺めて改めて分かったんだ。」


「何を?」


「サヤカ、私達って恋人になったんだよね。」


「うぇ!?う、うん、まぁ、そうじゃないの!」


「でも、本当にそうなのかなーって。」


「・・・それって、私の事が嫌いになったって事?」


「違うよ・・・なんかさ、実感が湧かないんだ。もちろん、サヤカの事は好きだよ?でも、今までの関係と恋人になってからの関係っていうのが、どう違うのかが分からないんだ。」


仮病を使って休んでいた二日間や、下校する彼女達を見て私は疑問に思っていた。恋人関係っていうのは、一体どういうものなんだ、と。一般的には手を繋いだり、キスしたり、それ以上の事をするって言うんだけど、でもそれって何も恋人関係の相手じゃなくてもしている人もいる。

幼い頃、両親に一度だけ聞いていた事がある。『恋人って何?』と。そしたらお父さんが『他の人とは違う特別なもの。』と言っていた。

恋人関係とは特別なもの・・・でも、今の私には何が特別なものなのかが分からない。他の人とでも代用出来る関係なんて、特別だと思えないから。


「恋人って、他の人とはどう違うんだろうね・・・。」


「同じ想いを向け合っている、とか?」


「それじゃあ、部活に入っている連中は、部の仲間達と全員恋人関係なの?だって、試合に勝ちたいっていう同じ想いを持っているじゃん。」


「そんな訳ないでしょ?大体、恋人の好きは異性としての好きよ。友達としてじゃなくてね。」


「じゃあ同性の場合は?私達のように女の子を好きになってしまった人達はどうなるの?」


「どうしちゃったのよ急に・・・何か変なニュースでも見たの?」


「・・・別に。ただ、サヤカと付き合えたっていうのに、前の時とあまり変わらないのが納得いかなくって・・・恋人っていうのは、何か他とは違う特別なものじゃなきゃ駄目だって・・・はは、自分でも何言っているんだって馬鹿らしくなる。」


ほんと、なんでこんな事を考えてるんだろう。過去に行った時に両親の姿を見て、それで昔言われた事を思い出したから?だとしても今の私は変だ。意地になっている。

サヤカと特別な何かを持ちたいと思い始めているんだろうか・・・もしそうだとしたら、私はなんて贅沢な人間なんだ。だって、サヤカとこうして一緒にいられるだけで、それだけで幸せだというのに、私はそれに特別を欲している。


「・・・はぁ。帰ろうか、サヤカ。変な話に巻き込んで悪かったよ。今日の晩御飯は何にしようか。」


「それなんじゃない?」


「え?・・・ん、どういう事?」


「そういう当たり前と思える事を話せる相手との関係。それが特別なんじゃない?」


「でも、それって友達でも代用出来るだろ?」


「友達も特別よ。あんたと私は友達がいないから分からないかもしれないけど、友達っていうのは、自分の趣味や悩みなんかを気軽に話せる相手の事。」


「それじゃあ、私とサヤカは友達なの?恋人じゃなくて?」


「そうね、今までだったらね。でも、今は違うでしょ。」


そう言うと、サヤカは私に寄りかかるように近づき、胸元にしがみつきながら私の顔を見上げてきた。サヤカの目を見続けていると、サヤカ以外に見えていた他の景色がボヤけて消え、今はサヤカしか目に映らない。

ジッとサヤカの目を見続けていたら、サヤカは少し背伸びをして、私の唇に自分の唇を当ててきた。そこから静止したかのように私達の唇は触れ続け、次第に呼吸すら忘れて、目の前の相手の事だけを考えていた。


「「・・・。」」


長い時間、でも嫌な時間じゃない。体の奥底から熱が沸き上がって、その熱が私の唇からサヤカの唇に流れていくように、サヤカからも熱が私の中に流れ込んでくる。


「・・・どぉ?」


ゆっくりとサヤカは私から唇を離し、また私の目を見上げながら問いかけてきた。


「・・・ずっとこのままでいたいって思った。」


「私もよ。」


「・・・なんか、分かった気がする。恋人関係の特別が。」


他人とも、友達とも、ましてや親とも違う。自分と相手の想いが、眼差しや肌を通して自分の中に流れ込んでくる。こんな事、他の人に同じくやっても絶対に出来ない事だ。

恋人関係の特別って、自分は相手に・相手は自分に胸の奥底にある想いを流す事が出来る唯一の存在なんだ。

だから愛してるんだ、だから嬉しいんだ・・・自分の事を深く知ってくれるから。


「分かったなら帰りましょ。」


「・・・やだ。」


「は?」


「まだ離れたくない。」


「ちょ、ちょっと!強く抱きしめ過ぎよ!抱きしめるなら帰ってからでも―――」


「嫌だ!まだこうしてたいの!」


「駄々をこねるな!・・・はぁ、じゃあもうちょっとだけね。」


「うん・・・ありがとう、サヤカ・・・好き。」


「・・・私も。」





それから私達は抱きしめあっていた。しかし、お互い夢中になり過ぎた所為で、気付いた頃には夜になってしまい、私達は慌てて屋上から出て、夜中の学校から家へ走り去っていった。

岸サヤカ

・新品でも既に使っている消しゴムでも、縦に真っ直ぐ使っているタイプ。


黒澤アキ

・新品の消しゴムを角から使っていくタイプ。


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