岸サヤカは誘っているつもりでいる。
ルーさんを店に置いてきてから家に帰ってきた私は軽くシャワーを浴びた後、眠る事にした。自分の家に帰って安心したからか、今まで感じていなかった疲れがどっと来て、抑えつけられない程の睡魔に襲われていた。
「ふぁ~・・・寝よ・・・。」
ほんとは今すぐ床に寝っ転がって眠りたいが、万が一そんな姿をサヤカに見られてしまえば、こっぴどく怒られてしまう・・・起きてすぐにお説教は勘弁だ。
睡魔に負けず、階段を上って二階に上がり、自分の部屋の扉を開ける。
「・・・ん?」
なんだろう、やけに良い匂いがする。甘くて、安心出来る匂いだ。私が香水やアロマなんて部屋に置いているはずないし、ましてやアイスを部屋に置きっぱなしにしているはずがない。
じゃあ、この匂いはなんなんだ?
「・・・まぁ、いいや。はぁ~あ、早く寝よ~。」
匂いの原因が何かは分からないが、この匂いのお陰ですぐに眠りにつけそうだ。そう思いながら、自分のベッドの前に立った時、もう一つの違和感に気が付いた。
「・・・なんか膨らんでる。」
私のベッドが不自然に膨らんでいる。丁度人間一人分の大きさだ。しかも部屋の中を充満している甘い匂いは、どうやらここから発しているようだ。
「まさか・・・まさかね・・・。」
私がもう死んだ者が見える事も触れる事も出来なくなったとルーさんが言っていたんだ。でもそうだとしたら、この膨らみの正体は一体何なのだろう。
だんだんと睡魔よりも恐怖心の方が大きくなっていき、私の目はバッチリと冴えてしまっていた。
だがこのままベッドと睨めっこしたまま朝を迎えるというのは馬鹿らしいし、また一階に下りてソファで眠るのも気に入らない。やはりここは意を決して布団をめくって確かめるしかない。最悪、この中に何かしらのヤバい奴がいたら容赦なくボコボコにして明日の朝食にしてしまおう。
「よし・・・。」
頼む、せめて人間であってくれ・・・!
「ぶっ殺してや・・・る・・・。」
「・・・お邪魔してます。」
布団の中にいたのは幽霊でも変質者でもなかった。そこには、サヤカがいた。何故ここにサヤカが?と思いながらも、とりあえず私は振り上げていた拳を下ろし、ベッドに腰を下ろした。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・え?なんで私のベッドにいるの?」
「・・・寝るって言ったじゃん。」
「いや、言ったけど。でも寝るなら自分のベッドで―――」
「私のベッドの方がよかったの?」
「ん?あー、うん・・・うん?」
「そっか・・・それじゃあ、行きましょ。」
そう言って、サヤカは私の手を握ってきた。いまいち理解出来ない。なんで私までサヤカのベッドに行かなきゃ駄目なんだ?・・・あーそうか、一緒に寝たいのか。なんだ、だったら最初から一緒に寝たいって分かり易く言ってくれれば良いじゃん。
「サヤカ、やっぱ私のベッドでもいいよ。」
「そう?」
「うん。それじゃあ、ちょっと失礼して・・・。」
ベッドに横になってみたが、やっぱり私のベッドじゃ二人は狭いな。サヤカと一緒に寝れると分かっていれば、もっと大きいの用意したのに。
「それじゃあ・・・アキ。」
「うん、おやすみサヤカ。」
「・・・は?」
いやーそれにしても疲れた疲れた。こんなに眠たい日は久しぶりだな。それに隣にはサヤカも一緒にいるし、今日は良い夢が見れそうだ―――痛っ!?
「痛っ!?」
「・・・。」
「な、なにサヤカ!?って、何でそんなに睨んでるの?」
「・・・鈍感。」
「鈍感?」
「もういい!寝る!・・・せっかく勇気出したのに・・・。」
「え・・・あー、うん。おやすみ・・・。」
何をそんなに怒っているんだ?何かサヤカに対して私が怒るような事したっけ?う~ん・・・部屋の中は甘い匂いに包まれてて、サヤカが私のベッドに入っていた・・・さっきの私との会話もどこかすれ違っていて、私がいつまで経ってもサヤカの考えている事が分からなくて怒ってしまった・・・せっかく勇気出したのにって言って・・・寝る・・・寝る・・・寝る?寝る!?
「そういう事か!!!」
寝るってつまり、アレの意味でって事か!?そんなの分かるか!あ、いやでも、確かに前に見た雑誌に恋人と良い雰囲気になりたい時は甘い匂いで誘惑するとか書いてあったし、それに・・・サヤカの寝間着、今まで見た事の無い程の、なんというか・・・良い。
いやちょっと待てよ・・・つまり、サヤカは勇気を出して私を誘ってくれたのに、私はそんなサヤカの気持ちを察する事なく、さっさと寝ようとしたって事か・・・ちっっっくしょぉぉぉ!クズじゃないか!!!
「サ、サヤカ!ごめん気付けなくて!それでさ、もう気付いたからさ、早速―――サヤカ?」
「・・・。」
「え?もしかして・・・寝てるの?」
「・・・。」
「・・・ははは・・・。」
生殺しだ・・・寝ているサヤカを無理矢理起こす訳にもいかないし、無理矢理襲うのはもっと駄目だ・・・あー・・・なんで私は気付けなかったんだ・・・。
「うわぁぁぁ・・・眠気も覚めちゃったよぉぉぉ・・・!」
「・・・ふふ。」
岸サヤカ
・スイカよりメロン派。
黒澤アキ
・唯一の苦手な食べ物がスイカ。理由は、スイカの種を飲み込むと体内で育つという話を未だに信じているから。




