悪夢の終わり
「道具は・・・うん、大丈夫だろう。」
「あの~・・・。」
「あれ?電気使えないのか。まぁ、廃墟だし当然か。」
「あの、すいませーん・・・。」
「時刻18時25分。手術、始めます。」
「いい加減にしろぉ!!!この拘束を解けぇぇぇ!!!」
手術台に招かれ、素直にそこへ横になった瞬間、ルーさんは私の手足をベルトでキツく縛りつけ、なんだなんだと焦っている私を無視して、ルーさんは手袋を着けて一本のメスを持ち始めた。
この人、今から私に何をする気だ!?
「あの、ルーさん。説明してくれませんか?アキをこれからどうするつもりなんですか?」
私の代弁ありがとうサヤカ。という訳でさっさと答えやがれルーさん。
「これからアキちゃんの中にある根源を取り除く。アキちゃんは一度見ているけど、アキちゃんの中には小さなイカかタコみたいな黒い物体がいるの。そいつを取り除けば、もうアキちゃんは奴らから狙われる事も、死んだ生き物を見る事も聞く事も無くなる。」
「なるほど・・・それで、そのメスは何に使うんですか?」
「根源があるのは心臓部分。切り開いて位置を正確に見ていた方が失敗しないの。」
「あの、麻酔は・・・?」
「無い。頑張って!」
「頑張って!」じゃないよ!麻酔無しで体を切り開かれたら死ぬよ!?私の事を人形か何かだと思ってるの!?
「サヤカ!助け―――」
「多分叫んじゃうと思うから、口をテープで塞いでおくね。」
「んーーー!!!」
こ、殺される・・・!今から私はこの無免許医師に殺されるんだ!せっかくサヤカと両想いになれたのに!まだ何もしてないのに!ここで終わっちゃうんだ!
「はい、じゃあ始めるよー。」
「・・・ちょっと待ってください。」
メスが私の胸に刺さる間際、サヤカがルーの腕を掴んだ。どのくらいの力で握っているのかは正確には分からないが、指の食い込み具合やサヤカの表情で、かなり強くルーの腕を握っているのが分かる。
「他の方法は無いんですか?このままやったら、アキは死んじゃいます。」
そうだそうだ!サヤカの言う通りだ!
「そうだよ。アキちゃんには一旦死んでもらう。」
「は?」
は?・・・今この女、何って言った?一旦死んでもらう、だって?
「アキを・・・殺すって言うんですか・・・!」
「確かにアキちゃんは今から死ぬけど、それは根源を取り除く間だけ。取り除いた後は、向こう側に行きかけているアキちゃんの魂をこっちに戻す。その為には、サヤカちゃんの力が必要なの。」
「・・・つまり?」
「命ある者が死んだ時、魂はどうなると思う?器を失った魂は向こう側の世界に行く為に空に浮かんでいく。自分の意思とは裏腹にね・・・でも、魂をこの場所に留めておく方法が一つあるんだ。死んだ者にとって大切な人の想いが、魂を一時的にこの場所に留める事が出来る。時間にして大体5分程度。だからサヤカちゃんにはアキちゃんの事を強く想っていてほしい。少しでもアキちゃん以外の事を考えたら、アキちゃんの魂は簡単に向こう側に飛んで行っちゃうから。」
・・・説明が長かったけど、つまりこういう事か。死んだ私の魂が離れていくのをサヤカが繋ぎ止め、その5分間の間にルーさんが黒い物体を取り除く。取り除いた後は、私の魂は元の私の体に戻って、これ以上私が狙われる事が無くなり、サヤカと一緒に幸せな生活を過ごせる・・・よし、やろう。
確かに死ぬのは怖いし、多分メスで切り開かれれば今まで体験した事も無い程の痛みが襲って来る。
でもそれさえ耐えれば、私はサヤカと一緒に普通の生活を送りながら、色々な所へ行ったり、遊ぶ事が出来る。その為なら、どんな痛みでも受け入れてみよう。
「んぅ。」
「・・・アキちゃんは覚悟出来たみたいだけど、サヤカちゃんはどう?」
「・・・アキ、本当に大丈夫なの?」
「ん。」
「私の所為で本当に死んでしまうかもしれないのよ?」
「・・・ん!」
「・・・分かった・・・絶対アキ以外の事を考えない・・・だから、またね。」
私を見つめるサヤカの目から涙が溢れ出しそうになっている。私の手を握るサヤカの手は酷く震えている。死ぬだけの私と比べて、サヤカのプレッシャーは相当のものなんだ。
大丈夫、サヤカ。最悪死んでも、少しの間だけだったけど、サヤカの隣に立てたんだ。ずっと夢見てきた、対等な関係に。
だから、死んでも悔いは無い・・・かもしれない。
「それじゃあ、ルーさん・・・お願いします。」
「・・・分かった。それじゃあ、始めるよ。いいね?アキちゃん。」
「ん。」
「よし・・・タイムリミットは5分。初めてだけど、一度見た事があるから安心して。」
「ん・・・ん!?」
ちょっと待って!?聞き捨てならない言葉があったよ!?初めて!?話が違う話が違うよ!やっぱ止めよう!ていうかちゃんとした設備を整えてからやろうよ!そうしようよ!絶対そっちの方が―――
「いいよ!!!・・・あれ?」
一瞬、意識が途切れていた気がする。何か胸に違和感があるし、いつの間にか口に貼られていたテープが剥がされているし。
「・・・アキ?」
「サヤカ?え・・・どう、なったの?」
「アキ・・・アキー!!!」
「うわ―――痛っ!!!」
サヤカに抱き着かれた瞬間、右の胸から激痛が走った。え、何がどうなってるの?
「えーと・・・どうなったの?」
「成功したんだよ。アキちゃん。」
左隣を見ると、そこには壁に寄りかかりながらタバコを吸っているルーさんがいた。顔には汗が大量に流れており、目に見えて疲れている。
成功した・・・という事は、もう私はあの不可思議な現象に襲われなくなったって事か?何だか実感が湧かないな・・・。
「・・・ま、とにかく・・・ただいま、サヤカ。」
「うぅ・・・おかえり・・・!」
「・・・ふふ。さ、二人共。帰りましょ、私達が元居た時間軸に。」
岸サヤカ
・一時期、アキに対する自分の想いを綴ったノートを書いていた。高校に上がったと同時に、そのノート達は燃やし尽くされた。
黒澤アキ
・ずっと前・・・あるいは最近、猫を飼っていた。しかし、その猫の記憶が無い。
ルー・ルシアン
・一度見た技術は完璧に使える。しかし、コーヒーの淹れ方だけは真似出来ない。




