黒澤アキは約束した。
投稿遅れてしまってすみません。
黒澤アキの両親が亡くなってから、あいつは私の部屋の窓を叩いてくる事は無かった。別に寂しいとかじゃない・・・また静かになった私の日常に、少しの違和感があるだけだ。
『お父さんとお母さんが死んじゃう・・・!』
「あいつ・・・。」
あの日、あいつの両親が亡くなる1週間前に、両親の死を予兆していた。どうしてあいつは自分の両親が近い内に亡くなってしまう事を知っていたんだろう。
いや、そんな事はどうでもいい。今は勉強に集中しよう。確かに悲しい事だとは思うけれど、あくまで他人の事だ。他人の事を気にするより、まずは自分の身の為にするべき事しないと。
「・・・はぁ・・・あー!もう!」
駄目だ、やっぱり勉強に集中出来ない。それもこれも黒澤アキの所為だ!あいつさえいなければ、私は何も変わらず、こんなモヤモヤとした感情を抱く事は無かっただろうに。
「・・・あいつ、家にいるのよね?」
早く勉強を再開させる為にも、このモヤモヤとした気持ちを晴らす為に元凶に会いに行こう。多分あいつは家から一度も出てはいないから、今もいるでしょう。
黒澤家の扉の前に立ち、インターフォンを鳴らし、あいつが出てくるのをジッと待った。しかし、いつまで経ってもあいつは出てこない。寝ているのかな?まったく、こっちは早くこの気持ちを晴らしたいってのに。
「・・・あそこ、試してみようかしら。」
自分の部屋に戻り、窓を開けた。手を伸ばせばあいつの部屋の窓に触れる事は出来るが、怖くて私には出来そうにない。机から定規を手に取り、それを使ってあいつの部屋の窓をコンコンと二度叩いてみた。
・・・。
反応が無い。もっと強くやってみようかしら?
コンコン!
・・・。
今度も反応が無い。寝ているのか、それとも私の事を無視しているのか・・・よし、少し怖いけど、手を伸ばして窓を叩いてみよう。
「・・・え?」
手を伸ばして窓に触れると、鍵が開いているようで窓が少しだけ開いた。自分の声があいつの部屋に入るようにもう少しだけ窓を開け、大きくキツ過ぎない声であいつを呼んだ。
「ねぇ?」
・・・。
「ねぇったら!寝てるの?」
・・・グス。
ん?なんだ今の音。いや、音というより、声かしら?どっちにしても、あいつはあの部屋にいるし、起きてもいるって事ね。
「起きてるんでしょ?少し、顔見せなさいよ。」
・・・サヤカ?
やっと返事が返ってきた。まったく、起きてるならもっと早く・・・返しな、さい、よね・・・。
「サヤカ!おはよう!」
「・・・あんた、どうしちゃったの・・・。」
「え?」
久しぶりに見たあいつの顔は、見ていられない程酷いものだった。顔は青ざめ、目のくまや充血、頬を縦に裂くように残っている涙の痕・・・そして何より、今にも解けそうになっている偽の笑顔。
こんな風になっているのは初めて見た。私はてっきり、まだ少しは落ち込んではいるけど、もう既にいつもの調子を取り戻しつつあると思っていた。あそこまでうるさくて明るい奴の事だ、きっとそうに違いないと決めつけていた。
でもそんな事は無かった。こいつは・・・アキは、酷く脆い人なんだ。両親が亡くなった悲しみ。両親が亡くなってしまう事を知っていた自分の無力さ。自分の弱った姿を見せたくなくて、無理矢理笑顔を作る弱さ。
まだ出会って日は浅いけど、私には分かる。アキは独りが耐えられない寂しがり屋なんだ。
「サヤカ?どうしたの?」
「・・・こっちの台詞よ。」
「え?」
「なんでそんな無理をして笑顔を作るのよ!!!」
「・・・急に何を言うんだよ!」
「ほら、そうやって強がってる。私には分かるのよ。」
「・・・何が分かるって言うんだ。」
顔は笑ったままだけど、目からアキの怒りを感じる。そうよね、私だって今の私に心底ムカついてるわ。他人の誰かの心にズケズケと入るような真似。私が一番嫌いなタイプなのに、皮肉にも今の私がそうなってしまっている。
でもね?例えどれだけ自分の嫌いな自分になったとしても、今のアキを救う為なら大嫌いにでもなってやるのよ!
「・・・アキ。」
「っ!?」
「悲しいなら、悲しいって言いなさいよ。少なくとも、私だけにでも。一人で抱えてたら、その内あんたは死んじゃうわ。うるさいあんたがいなくなったら、私の日常がつまらなくなっちゃうんだから。」
「・・・ありがとう・・・それじゃ。」
「は?」
逃げた・・・あいつ、私に怒りをぶつける訳でも、泣きついてくる訳でも無く、逃げ出した。
「ふざけんな!!!」
私から離れていくあいつの姿に苛立った私は、アキの部屋へ窓から窓へと飛び移った。
「あ・・・。」
慣れない事をした為か、アキのように窓の上に立つ事は出来ず、私の足は空に触れていた。ゆっくりと、スローモーションで視界が下へと移っていく。
最悪だ・・・こんな事になるなら、アキの事をもっと嫌いになっていれば良かった・・・。
「サヤカ!」
何もかも諦めかけていた時、アキの声でふと我に返った。不思議な事に、私の体は空中で静止していた。上を見上げてみると、そこにはさっきまで偽物の表情ではなく、必死な表情で私の腕を掴むアキが窓から体を半分出していた。そのまま私はアキの部屋に引っ張られた。
「大丈夫!?どこも怪我とか―――」
「この馬鹿!!!」
「ぶべぇ!?」
「あ・・・。」
私は無意識にアキの顔面を殴っていた。どうして殴ったのかは分かっているが、手が出てしまうとは思ってもいなかった。
「痛たたた・・・え、なんで殴ったの?私一応、サヤカの事救ったんだけど?」
「え、えと・・・あーもう!あんたが私から逃げるような真似しなきゃ、最初からこんな馬鹿な真似しなかったのよ!だから殴ったの!」
「まるで意味が分からないよ!?」
「うるさいうるさい!全部あんたが悪い!私に嘘ついたり、逃げたり、助けたりするあんたが!」
「サヤカ・・・。」
「う、うっぐ・・・。」
気付くと、私は泣いていた。自分の感情と一緒に涙が出ちゃったんだろう。他人に涙を見せるなんて初めて。パパにも、ママにも見せた事ないのに。
「・・・ごめん、サヤカ。」
「謝んないでよ・・・!」
「えー・・・じゃあ、どうすれば許してくれる?」
「・・・いつものあんたに、戻ってよ。いつものうるさくて馬鹿で、私を振り回すあんたに・・・。」
「・・・分かった。そうだよね、いつまで悲しんでも、戻ってこないものは戻ってこないもんね。」
アキはそう言うと、私を抱きしめた。いつものような力の強いものじゃなく、私を優しく包み込むように。
こんな風に、優しく抱きしめられるんだ・・・アキ。
「・・・約束してよ、アキ。」
「ん~?」
「私の前で、もう二度とあんな悲しい顔をしないでって約束して・・・。」
「・・・分かった。約束するよ。」
「ん・・・じゃあ許す・・・。」
あの約束から7年。アキは変わらず私の前で明るくいてくれた。
でも、その約束は今日破られた。
あいつは私の前であの日のような絶望した表情を見せ、私から逃げ出した。
「私との約束、破ったわね・・・アキ。」
「サヤカ・・・。」
橋の下の暗がりで縮こまって泣いているこいつを殴る日が来た。
黒澤アキ
・誰を相手にしても強気でいるが、サヤカに対しては弱い。
岸サヤカ
・アキに対しては自己中心的
次話からまたアキ視点に戻ります。




