藍丹山 九
今回で藍丹山回は終わりとなります。
次回からまたほのぼのとしたお話が始まりますよ。
私は暗闇の中を駆けた。暗闇で先は見えず、地面から出ている木の根っこで転んだり、暗闇から現れた木に激突したが、立ち止まりはしなかった。だって、サヤカが待っているのだから。
この暗闇の中でサヤカが一人怯えているのだと決め込み、冷静さを失っている。きっとこれは間違った行動だ、今からでもルーさんを待とう・・・と、頭では分かっているが、体が言う事を聞いてはくれない。
「サヤカー!!!」
大声でサヤカの名を叫ぶが、返事が返ってこない。その代わり、何かの気配が私の行く先から感じ取れた。サヤカでも、ましてや暗闇から声を掛けてきた彼らでもない。明らかに人の気配じゃない何かの気配だ。
冷たく、気持ちの悪い感覚に、私の足はようやく止まった。そしてそこでようやく、今自分が置かれている状況がどれだけやばいのかを理解した。
周囲は暗闇、いるのは自分だけ、前からは人では無い何かの気配・・・最悪な状況だ。金属バットを手にしているが、恐らく前にいる相手には通用しないだろう。
そう考えている間にも、前から感じる気配はゆっくりとこちらに近付いてきている。
「くそ、どうすれば―――うぉっ・・・!」
誰かに腕を引っ張られ、茂みの中に引きずり込まれた。抵抗しようとすると、その人物は私の口を手で塞ぎながら、やや充血した目で私に訴えかけてきた。
「静かに・・・!」
「・・・サヤカ?」
最後に目にした時よりもやつれているが、間違いなくサヤカだ。ハッキリと充血した目から、どれだけ泣いていたのかが分かる。
「あ・・・あれ・・・あれが・・・。」
「あれ?あれって―――」
サヤカが怯えた表情で見ている場所へ視線を移すと、暗闇の中でも見える程近くの場所に、説明し難い生き物がいた。殻の無いカタツムリが一番近い容姿だ。そして体には縦に大口を開けた口があり、頭部と思わしき場所には長く伸びた触覚の先に大きな目玉がある。
「あいつから隠れてるの・・・見つかったら駄目よ・・・。」
「でもここにいたらいつか見つかる・・・ねぇ、サヤカ。」
「なに?・・・いいわ、言わなくてもいい、言ったらあんたの事ほんとに嫌いになるから・・・!」
「ごめんね。」
私は茂みから勢いよく出て、化け物に持っていた金属バットを投げた。
ヒィィヤァァァァ!!!
バットは化け物の目玉にヒットし、化け物の掠れた甲高い声が暗闇で響き渡った。ブンブンと触覚を振り回し、泥のような涙を流しながら私の姿を視界に捉えた。
よし、これであいつは私を追って来る。あとは奴から逃げるだけだ。化け物とは反対方向に全速力で走り出すと、後ろから重い物を引きずるような音が聴こえてくる。あいつは確実に私を追ってきている。
「これでサヤカは逃げられる!あとは私が逃げるだけ!・・・逃げるってどこにだよ!」
不可思議な現象が多すぎてテンションがおかしくなってる。面白くないのに笑いが込み上げてくるし、全然息は荒れていないのに、少しでも気を抜けば足の力が無くなって倒れてしまいそうだ。
限界に近いこの体に鞭を打ち、自分が助かる方法を頑張って考えてみる。この暗闇から抜け出す事は不可能に近い、今から隠れようとしてもすぐ後ろに奴がいるからすぐにバレる、方向転換して奴に殴りかかる・・・のは無理だな。
「くそっ!どうすれば・・・ん?あれって!?」
走っている方向、その先に緑色の光が微かに光っていた。おそらくルーさんがあそこにいる。一か八か、ルーさんを頼るしかない!
「ルーさん!ルーさん!!」
大声を上げて呼ぶと、さっきまで微かだった緑色の光がほんの少しだけ強くなった気がした。よく分からないけど、ルーさんは待ち構えてる・・・多分。
「ええい!当たって砕けろ!恨まないでねルーさん!」
下手をしたらルーさんまで巻き込まれる。その事を謝罪しながら、私は残された力を振り絞ってルーさんの下へ駆け込んだ。
ルーさんの姿が完全に見える距離にまで近づくと、やはりルーさんは何かしらの準備を終えて待ち構えていた。
「アキちゃん!地面に伏せて!」
「どうとでもなって!!!」
私はルーさんを信じて地面に飛び込むように伏せた。
「滅式、乖離霊冥。」
ルーさんのその声のすぐ後に、後ろから何かが破裂した音が響いた。
「・・・ふぅ。久しぶりにやったけど、流石に腕が落ちたわね。あー、疲れたー!」
「ルーさん!?もう顔を上げてもいいですか!?」
「ちょっと待って・・・よし!もういいよ。」
顔を上げ、後ろを振り返ると、そこにはあの化け物の姿はもちろんの事、目の前さえ見えなかった暗闇が嘘かのように、太陽の明かりが辺りを照らし出していた。
「朝・・・?」
「あの化け物の所為で暗闇の世界に閉じ込められてたの。その元凶を消したから、本来の世界に戻れたって訳。」
「それじゃあ、私達は私達が思っているよりも長い間、ここにいたって事ですか?」
「少なくとも1週間は経ってるんじゃないかな?」
1週間・・・うわ、そう思ったら疲労がズッシリ来た。この疲労さえも忘れる程、私達はここに閉じ込められていたんだ・・・。
「アキー!」
「うぅ、サヤカ?おぼぇ!?」
体を起こして迎えようとする前にサヤカが飛び込んできた。飛び込んできた際、私の腹部にサヤカの頭部が激突して、呼吸困難になりそうになった。痛いし、苦しい・・・。
「大丈夫なの!?」
「ぁぁ・・・今ので、大丈夫じゃなくなったかも・・・。」
「そう、大丈夫なのね!?」
「いや、大丈夫じゃ―――」
「あんなやり方しないでよ!!!あんたを犠牲にしてまで生きたいなんて、こっちは思ってないのよ!!!」
「ぐほぉ!?」
勢いよく振り下ろされたサヤカの拳が腹部に直撃した。お願いします・・・もう勘弁してください・・・。
「あははは!いやー、二人共無事で何よりだよ!」
「ルーさん、来てたんですね?私達の為に色々やってくれて、ありがとうございます。」
「いやいや、二人は私の友達だからね。当然だよ。さ、そこで死にかけているアキちゃんを連れて、この山から下りましょうか。」
「はい。ほらあんた、行くわよ!」
いや、行くわよって言うけど、もう私は立ち上がる体力すら無いんだけど・・・あの、お願いだから誰か私に手を貸してくれる人はいないの?
「誰か、手を貸して・・・。」
「「ほら、行くよー。」」
行くよーじゃないんだよ・・・はぁ。まぁでも、ようやく帰ってこれたんだ。なら、最後の最後の力を振り絞って、この山を下りるだけでも頑張ってみますか。
岸サヤカ
・食パンにはバターかマーガリンをつける。
黒澤アキ
・塗るのが面倒なので、そのままノーマルで食パンを食べる。
ルー・ルシアン
・自分で焼いたパンしか食べない。もちろん味は本人以外には不評。




