藍丹山 七
「な、なんでここにルーさんが・・・!」
「えへへ。来ちゃった。」
いや来ちゃった、じゃないのだが。え、この人ほんとに何しに来たの?
「さ、行きましょうか。アキちゃん。」
「行くって・・・ここから出れる方法があるんですか!?」
「さぁ?」
「さぁって・・・それじゃあ、どこに行くんですか?」
「千里の道も一歩から。何もせずにいるだけじゃ、何も変わらないよ?さ、行きましょ。」
そう言って、ルーさんは私を通り過ぎて行った。あの人がどうやってここに、そして何をしに来たのかは分からないけど、まだ私には希望があるらしい。力を失っていた体の奥底からまた力が沸き上がり、立ち上がってルーさんの後ろを追っていった。
しばらくルーさんと一緒にこの世界の街を歩いていたが、ここには私達以外誰も存在していないようだ。建造物や植物、空や夕陽が、かえってこの街の寂しさを浮き出している。
「ここ、私達以外誰もいないようですね?」
「そうみたいだね。指輪も反応しないし、異形共もいないみたい。」
「・・・ルーさんは、どうやってこの場所に来たんですか?」
「アキちゃんはどうなのさ。」
「私は・・・分かりません。サヤカの下に戻りたいって強く想いながら走ってたら、ここに・・・。」
「想いながら・・・あー、なるほど。だからか。」
「え?」
「アキちゃん、何か拾ったでしょ?」
私はポケットに入れていた宝玉をルーさんに見せた。ルーさんは私の手から宝玉を取り、ルーさんが中指に着けていた指輪の宝玉に当てた。
すると、二つの宝玉が緑色に発光したかと思うと、すぐに光は消え、私が拾った方の宝玉は砂となり、地面にこぼれ落ちていった。
「・・・なるほど。結構切羽詰まってるみたいだな。」
「今、何をしたんですか?」
「この宝玉はね。使用者とリンクしている、言わばもう一つの記憶だね。こうやって宝玉同士を当てると、当てた宝玉の使用者の記憶が流れ込んでくるんだ。」
「どんな記憶が?」
「それは言えないね。流石の君にでも、これを話せば巻き込んでしまうし。ま、もう結構知っちゃいけない部分まで知っちゃってるけどね。」
「それって、大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないね!あははは!」
ルーさん、あんたは笑えるかもだけど、私は全然笑えないよ。これじゃあ元の世界に戻っても、色々知り過ぎた人として祓い士に私が殺されるかもしれない。
実際、祓い士の人達は色々な力や世界を知っている。その中には、使う人によって悪い事に使える物もあるんだろう。だから私のような一般人には知られないようにしていた・・・はずなんだけど。
「・・・私、殺されるんですかね。」
「どうだろうね。祓い士には色々な派閥があるから・・・まぁ、まだ私以外にはアキちゃんが色々知っちゃってる事がバレてないから、しばらくは大丈夫だよ。」
しばらくって事は、いつかはしかるべき罰があるって事だよね?
「・・・それに祓い士達は今、それどころじゃなさそうだしね。」
「何か、あったんですか?」
「巻き込まれてもいいなら、話すよ?」
「じゃあいいです。」
「えー、本当にいいの~?本音を言うとさ、アキちゃん結構素質あるんだよ?」
「面倒事はもう御免ですよ。私はサヤカと楽しく生活したいんですから。」
「でも今のままじゃ、サヤカちゃんと一緒にいられる事は不可能に近いんだよ?」
何気なく口に出したルーさんの言葉に、私は思わず足を止めた。私とサヤカが一緒にいられない?
「サヤカと一緒にはいられないっていうのは、どういう事ですか・・・!?」
私は背を向けて私の前を歩いていくルーさんに問いかけた。すると、振り向きざまにルーさんは指輪を私に向け、宝玉から放出された一筋の光が私の体を貫いた。
痛・・・くない?でも、なんだか変な感じがする。それに、何だか目の前の景色が―――
【捧げよ捧げよ身を捧げよ邪の骸へと捧げよ光は閉じ闇が広がり黎明を起こせよ万物の者に狂気を神薙に死を捧げよ捧げよ身を捧げよ邪の骸へ捧げよ―――】
「―――・・・かはっ!?」
ほんの一瞬だけ、またあの暗闇の世界にいた。そこで四方八方からお坊さんのような低い声で念仏のような言葉を語りかけられていた。
身も心も、誰かに奪われそうになったところでそれは終わり、気付くと私は地面に這いつくばっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ!・・・うっ。」
喉の奥から吐き気が襲い、私は我慢しきれず吐き出してしまった。全て吐き切ったところで、私は自分が吐いた物をハッキリと見てしまった。
「・・・な、なに、これ・・・!?」
私が吐き出した物。
それはゲロでも、血でも無い。
それはウネウネと体を動かす、手の平くらいの大きさの真っ黒いタコみたいな物体だった。
黒澤アキ
・他の人が見えない者が見えるようになったキッカケは、夕陽を背にして立っていた女の子と出会ってから。
ルー・ルシアン
・祓い士のどの派閥にも属していなかったルーは、一人を除いて誰からも信用されていなかった。




