岸サヤカはバトミントンが得意なつもりでいる
今日の体育の内容はバトミントン。私としてはもっと体を動かせるバスケとかサッカーが良かったけど、バトミントンも嫌いじゃない。
「これでコートは出来た。さーて、サヤカはどこに・・・。」
「アキさん!私と組みませんか?」
「ずるいー!私と組もうよアキさん!」
「いやいや、みんなアキと対等に相手できないだろ・・・ここはやっぱりライバルの私がだな―――」
「みんなごめんね?もう相手は決まってるから。」
周囲に集まって来た女子達の間を通り、少し離れた場所で腕を組んでこちらを睨んでいるサヤカの前に行く。
「サヤカ、一緒にやろ。」
「ふっ、随分と上から目線ね。これから私に泣かされるというのに?」
上から目線なのは身長の関係上仕方ないでしょ。というか、どうして彼女はこんなにも自信満々なのだろう?
私の記憶が正しければ、サヤカはあまり運動は得意とは言えないはずなのに。バトミントンは特別得意なのかな?
そんな訳で、コートの上に立った私達は早速試合を始めた。といっても、最初なのでパス回し程度の軽い感じでいこう。
「それじゃあサヤカ!いくよー!」
「ええ、来なさい!」
凄い。サヤカの構え、サヤカから感じるオーラ。そのどれもが達人と言える程の気迫を醸し出している。これは本当にバトミントンが得意なのでは?だとするならば、こっちも最初から本気でいかせてもらおう!
「はぁ!」
「うわぶっ!?」
「・・・あれ?」
私が打ったサーブは真っ直ぐサヤカの方へと向かっていった。そのサーブに対し、サヤカは勢いよくラケットを振りぬいた・・・そう、振りぬいたのだ。
勢いよく振りぬいたラケットはシャトルに当たる事なく床に音を立てて激突し、依然として真っ直ぐ飛んでいたシャトルはサヤカの口元に直撃した。
「サ、サヤカ!?」
「・・・ふふふ、運が良かったわねアキ・・・少し張り切りすぎてしまったわ。」
そ、そうなのか?明らかにラケットを振るタイミングが早すぎたように見えたけど・・・いや、サヤカの言う通り本当に張り切りすぎただけで、次は上手く返してくるのかも。
「それじゃあ、もう一回いくよ!」
「来なさい!次こそ目にもの見せてやるわ!」
「はぁ!」
「どわ!?」
今度はラケットに当たった・・・当たったのだが、打ち返したシャトルは真っ直ぐ床に突っ込み、勢いよくラケットを振った所為でサヤカは転倒してしまう。
あれ?なんか、思ってたのと違う。
「サヤカ、もしかして打ち方知らないんじゃ―――」
「ぐっ!?うるさいうるさいうるさーい!調子に乗らないで!次よ!次こそ返してやるから!」
「あー、うん・・・それじゃあ、いくよ?」
「ここから私の逆転劇が始まるのよ!」
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サヤカの堂々とした逆転宣言も虚しく、試合は21-0という圧倒的な大差で私が勝った。
「あの~、サヤカ?」
「・・・。」
試合中、何度ミスをしても強気だったサヤカが、今は大の字で横になりながら天井を見上げている。全身全霊で戦ったような雰囲気を出しているが、試合中私の方にシャトルが返ってくる事はなかった。それは彼女がサーブをした時も同様・・・というかサーブすら打てていなかった。
「サヤカ、もしかしてさ・・・バトミントンやった事ない?」
「・・・うん。」
「じゃあ、なんであんな自信満々だったのさ。やった事がないんだったら、私が教えてあげたのに。」
「・・・テレビで見た時は、私でも出来るって思ったんだもん。」
「それは凄い才能だね。で、結果は?」
「はいそうです負けました!無理です私には!大体小さい石ころみたいな物が飛んでくるのに冷静に打ち返せる訳ないでしょ!?」
私の聞き方が悪かった所為で、サヤカは人目を気にせずに駄々をこね始めてしまった。そんな彼女を他の女子達も目にし、クスクスと笑い始めた。多分、幼い子供を見るような、そんな笑いだろう。
駄々をこねる姿も可愛いけど、高校生なんだから・・・それに、その姿を見れるのは私だけでいいんだよ?
「あー、分かった分かった!それじゃあサヤカ、一から私が教えてあげるから!そしたら私にも勝てるから!」
「・・・本当?」
「本当本当!」
「・・・分かった。」
サヤカを立ち上がらせ、私は一から彼女に教えてあげた。最初こそぎこちなかったが、続けていく内にシャトルを打てるようになり、かなり緩くだが、ラリーを続けられる程にまで上達した。
シャトルを打ち返せるようになると、あれだけ機嫌が悪かったサヤカも笑顔を取り戻し、スポーツの楽しさを知ってくれたようだ。
ふと時計を見ると、後5分程で授業が終わってしまう時間となり、私達は最後にもう一度試合をする事になった。
「最後よ、アキ。成長した私が今度こそ目にもの見せてあげるわ!」
「ふふ、いいねサヤカ!それじゃあ、いくよ!」
「来なさい!」
「はぁ!」
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「一から練習すれば勝てるって言ったじゃん!」
「ごめん!私にはワザと負けてあげるような大人の余裕は無かったみたい・・・!」
岸サヤカ
・スポーツは嫌いではないが、得意ではない。
黒澤アキ
・スポーツ万能で、彼女を自分達の部に入れようと様々な部活の部員が暗躍している。