藍丹山 二
今度から朝9時に投稿します。
サヤカを休ませながら登り続け、私達は他の班よりも遅れてテントを張る場所にまで登ってきた。既にみんなテントを張り終えており、それぞれの班が協力し合いながら薪の収集やご飯の準備をしていた。
「みんなもう忙しく動いてるな。サヤカ、私達はどこにテント張る?」
「はぁ、はぁ・・・!ど、どこでもいいわ・・・!」
「大丈夫?汗凄いけど。」
「荷物が重いのよ・・・!はぁ、早く汗を拭いて、休みたいわ・・・。」
「分かった。すぐ準備するね。」
さて、どこにテントを張ろう。みんな密集しているからスペースは余ってるけど、そこにテントを張ったら他人の目に入りやすい。私は別にいいけど、サヤカは他人の視線を嫌がる人だから、他人が気付きにくい場所じゃないと駄目だ。
そう考えながら辺りを見渡していると、私達が今いる場所から少しだけ離れた場所に、もう一か所開けた場所があるのを目にした。
「あっちいいかも。サヤカ、行くよ。」
サヤカの手を取り、私はその方向へ歩いていく。その場所に着くと、遠目から見ていたよりも開けており、私達だけなら十分な広さだった。
後ろを振り向くと、生え並ぶ木々が邪魔をしてみんなの姿が完全に見えなくなっていた。
「ここにしよう。ここなら人目を気にせずゆっくり出来るよ。」
「・・・ここ、なんだかさっきよりも居心地が良いわ。」
「え?・・・言われてみると、確かに。」
静かで、涼しくて、気楽になれる・・・なんか家の中にいる感じだ。
「よし、ここにテントを張ろう。すぐやるから、サヤカは荷物を置いて休んでて?」
「ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて。」
サヤカの為にも、私は素早くテントを張り、持ってきていた折り畳み式の小さな椅子を二つ置いた。
「サヤカ。ここに座って。」
私達は椅子に座り、水筒に入れてきていたコーヒーを紙コップに注ぎ、一つをサヤカに手渡した。山の中で飲むコーヒーは普段とはまた違う美味しさがあった。こんな風にゆっくりとコーヒーを飲めるのも、ここが他の班の目につかないからだろう。みんなが忙しく動いている中、私達だけがゆっくりしていたら、何か申し訳なくなりそうだし。
「サヤカ、これから何をすればいいの?」
「ん?えーと、まずは火を起こす為に薪が必要だね。でも今すぐじゃなくてもいいわ。暗くなる前に火を起こせればいいから。」
「それじゃあ、まだゆっくりしてよう。あ、そうだ。今日のご飯は何?」
「今日は私が朝作っておいたお弁当よ。でも明日からは、レトルト食品よ。」
「一応水は持ってきてるけど、水が取れる場所がないか探さないと。どっかに飲める水がある場所があるってのは聞いてるけど。」
「まだ水はあるし、探すのは明日からでもいいわ。今日は疲れたからずっと休んでましょ。」
すると、サヤカが私の肩に頭を置いてきた。さっきサヤカが使っていた汗拭きシートのシトラスの匂いが香ってくる。
なんか不思議だ。いつもなら理性を抑えるので必死なのに、今はとてもリラックス出来ている。この場所のお陰だろうか?
「・・・ん?」
ふと周りの木を見ていたら、木の皮に何かの文字が刻まれていた。立ち上がって近づいていくと、それは文字というより、紋章やマークと言えるものだった。
「なんだ、これ?」
「どうしたの?」
「これなんだけど・・・。」
「あら、なにかしら?・・・数字の4?。」
「4に足が生えた感じのマークだね。」
4の下に逆三角形みたいなのが付け足されているマーク。一体これはなんだろう?ルーさんに聞いてみるか。
携帯を取り出して写真を撮り、携帯を空に掲げながら電波が立つ場所を探し回る。すると、一本だけ電波が立ち、そこでルーさんに今撮った写真を送った。多分すぐには返信が来ないと思うし、夜にでもまたこの場所に立って確認しよう。
「・・・ねぇ、アキ。」
「ん?どうしたの?」
「気付いたんだけどさ・・・静かじゃない?」
「あー、そうだね。みんなも疲れて休んでるのかな?」
「いや、そうじゃなくて・・・静かすぎないかしら、あまりにも。」
「・・・ほんとだ。」
音を聞き取ろうと耳を澄ませてみたが、何の音も無かった。さっきまで聞こえていたはずの木の葉が揺れる音やセミの鳴き声、それに私達以外の人の声も。
気付かなかったのが不思議に思えるくらい静かだ。
「ちょっと様子を見に行ってくる。サヤカは―――」
「私も行くわ。」
「・・・そうだね、一緒に行こう。」
私達はこの場所まで歩いてきた道を引き返していった。歩いていき、しばらくすると、またこの場所に戻っていた。
「・・・ん?」
「私達、真っ直ぐ進んでたよね・・・?」
「そうだと思うけど・・・次は後ろを振り向きながら歩いていこう。」
どこかで迂回していたのかもしれない。そう思い、適度に後ろを振り向きながら真っ直ぐ進んでいる事を確認しながら進んでいく。
だが、結局辿り着いた場所は、私達がテントを張った場所であった。
「「・・・。」」
私もサヤカも声が出なかった。何が起きているのか、理解出来ていないからだ。一つ分かる事があるとすれば、私達の今の状況は【迷った】のではなく、【戻った】というのが合っている。
「戻ってる・・・またこの場所に。」
「でもおかしいわよ・・・だって、さっきまで真っ直ぐ進んでたじゃない!」
サヤカの声が震えている。この状況に怯えているんだ。私も今自分が置かれている状況に焦ってはいるが、不思議と恐怖心は無かった。
多分、少し慣れているからだろう。こういう不可思議な現象に遭うのは、二度目なんだから。
「とにかく今はこれ以上動かないようにしよう。私、ルーさんと連絡取ってみる。」
「・・・前に、あんたから聞いた話と同じ事が起きてるの?」
「分かんない。でも、似てる。やっと気付いてきたよ、この場所の異常さに。」
最初、ここに来た時は居心地の良い場所だと思っていた。静かで、涼しくて、気楽になれる・・・まるで自分の家の中にいるかのように。それはつまり、外と切り離された場所にいるという事。ルーさんと連絡が取れるまで、まだ断言は出来ないけど、多分そうだ。
ここは、狭間だ・・・私達がいる世界と、向こう側の世界の狭間。
また私は、ここに来てしまった。今度は、サヤカも一緒に・・・。
岸サヤカ
・好きな果物は桃。桃を細かく刻んだのをヨーグルトに混ぜて食べるのが好き。
黒澤アキ
・好きな果物はパイナップル。切り分けられていない丸形で出された時はテンションが上がる。




