岸サヤカはツンデレのつもりでいる。
あの黒猫が白く透明な花に変わってから、私は学校の図書館で借りた【サルでも分かる!花の育て方!】という本を読みながら大切に育てていた。慣れない花のお世話で、水をあげ過ぎたり、土を地面にぶち撒けたりと色々失敗していたが、1週間もすれば失敗は無くなっていた。
そしていつものように水をあげながら、私が何となく花に話しかけると、花が風も無いのに揺れれたのだ。もう一度話しかけると、やはり花は揺れ、まるで私の言葉に反応しているように思える。
その事をルーさんに聞いてみたら、「その花には黒猫の魂を入れたんだ。花だけど、それも立派な魂の器だ。となれば、動くでしょ?」と、何故か当たり前かのように説明された。
それからというもの、私は家にいる間は花を自分の近くに置き、お風呂に入る時も一緒に浴室に連れて行ってる。小さい頃からずっと一人暮らしだった私にとって、自分の言葉にいつでも反応してくれる人が家に居る事が嬉しい。まるで妹が出来たみたいだ。
「これからもよろしくな。」
私がそう言うと、花はユラリユラリと揺れた。
とまぁ、こんな風に花に話しかける事が日常化になり始めた事で幸せに感じる自分がいるのとは裏腹に、花に話しかけるおかしな人だと感じる人も現れた。
「あんた・・・大丈夫?」
私がいつものように自室で花に話しかけていると、珍しく窓から部屋に入ってきたサヤカにその現場を見られた。その時のサヤカの表情は形容し難いものだった。困惑という文字を絵にしたら、きっとこの時のサヤカの顔になるだろう。
そして今、どういう状況かというと、花を真ん中に置いて私達がそれを挟む形で座っている。傍から見たら、花の美しさを無言で鑑賞しているおかしな二人に見えるが、おかしなのは私一人だけだ。
「それで・・・何で花に話しかけてたの?」
20分程の沈黙の時間が流れ、ようやくサヤカが口を開いた。何故花に話しかけた、か。本当の事を話してもいいけど、十中八九サヤカは信じないだろう。それだけでなく、ますます私の事をおかしな人だと認識されてしまう。
「えーと・・・サヤカは何で窓から来たの?」
とにかく話題を変えよう。それが私の答えだ。どうせ話しても信じられない話なら、違う話で興味を逸らし、【私が花に話しかけていた】という事を忘れさせる。これがこの状況で一番ベストな選択だと思う。
「何でって。たまには私から来てもいいでしょ?・・・最近、あんまり話せてなかったし・・・。」
え、やだ可愛いこの子!
「可愛い。」
「は、はぁ!?」
「あー、心の声が漏れちゃった。まぁでもそれくらい可愛い理由だね。」
「全然可愛くないわよ!?私は勝手に部屋に入ってくる鬱陶しさを味わって欲しかったのよ!」
「はいはい、誤魔化し方も可愛いね。」
「うるっさい!!!」
「あははは!お前もそう思うよな!・・・あ。」
久しぶりのツンデレ全開のサヤカの可愛さを共有したいが為に、思わず花に話しかけてしまった。視線をサヤカの方に移すと、サヤカの顔は青ざめていた。
「いや、思わず、思わずだから。」
「思わず花に話しかける?しかも結構慣れた感じだったわよ?」
「花に話しかけるのに慣れているなんて、そんなのあり得ないじゃーん!」
誤魔化す為に私は嘘を言うが、花は私が言った事を本音だと捉えたようで、下に俯いてしまった。そしてその様子をハッキリとサヤカは見てしまった。
「え・・・今、この花動かなかった・・・?」
「あ、えぁ・・・音で動く!音で動くオモチャだよ!」
「それにしてはリアル過ぎるわ・・・。」
私の言葉を全く信じないサヤカは、花に触ろうと手を伸ばしていく。すると、俯いていた花が私も見た事が無い速さで振り向き、伸ばしてきたサヤカの手を叩いた。
「きゃっ!?い、今!私の手を叩いた!」
「違うから!故障だから!」
このままでは不気味な花だと思われて壊されてしまうと思い、私は花を別の場所へ移そうと手を伸ばした。すると花はまた素早く振り向き、私の手を叩いた。
「あっ!?ご、ごめんって!さっきまで私が言ったのは全部嘘で!全然嫌ってないからさ!」
「全部嘘だったの!?じゃあ、やっぱり花に話しかけてたのね!」
「あー違う違う!サヤカに言ったのは本当で!この花にとっては嘘だから!」
「意味わかんないわよ!?」
やいのやいのと言い合い、お互い汗だくになるまで言葉のドッチボールを続けた結果、私は観念して本当の事を説明した。
きっと信じてくれない。きっとおかしな奴だと思われる。そんな事、分かっていた。分かっていたけど、やっぱりサヤカに隠し事をするのは、もっと嫌だ。
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「という訳で・・・その黒猫が、この花になったんだ。」
「・・・ふーん。」
思っていた反応と違って驚いた。てっきり、完全に否定するか、完全に信じてくれるかの二択だと思っていた。
だが実際のサヤカの反応は、その二択を合わせたかのような反応だ。信じていないが、嘘だとは思えないといった反応。
「・・・信じてくれる?」
「信じられないわ・・・と、言いたいけどね。あんたの顔を見ていたら、嘘とは思えないのよ。」
「顔?」
「話している時のあんた、ずっと怯えてたわよ。」
自分でも気付けなかったが、確かにあれは恐ろしい体験だった。今でも鮮明に憶えている、あれは私が死ぬまで忘れる事が出来ない。
「けど、やっぱり信じないわ。」
「え?」
「私がよく知っているアキっていう馬鹿は、どんな状況でも余裕を持っている。だから、あんたの話は、信じない。」
「・・・それは、サヤカの勘違いだよ・・・私、結構臆病だし、独りが怖くて―――」
「はいストップ。」
「うぷ・・・。」
弱音を吐く私の口をサヤカは指で抑えた。
「あんたが花に話しかけるおかしな趣味を持っていようが、ルーさんが不思議な力を持っているっていうファンタジーな妄想を抱くのはいいよ。けど、弱音を吐くあんただけは許せない。」
怒っている・・・いつもの罵倒しながら怒るのとは違う・・・本気の怒りだ。これまで、私が見た事が無い、サヤカの本気の表情だ。
「あんたは馬鹿で世間知らず。けど、底無しに明るくて、絶対に諦めなくて、私が・・・私が一番、好きな人なんだから。」
そう言って、サヤカは私のおでこに唇を当てると、窓から自分部屋に戻っていった。
「・・・はぁ。」
後ろに倒れ、大の字になりながらサヤカに言われた事を思い出す。あんなに私に対して想いをぶつけてくれるのが嬉しくて、どこか怖いようにも思えた。
「一番好きな人、か・・・一番好きな人だってよ、私。」
ニヤつきながら花に自慢すると、花は左右にユラリユラリと揺れた。
岸サヤカ
・両親を亡くしたアキを慰めようと会いに行ったが、何故か自分が悲しくなって泣いてしまい、逆に慰められてしまう。慰められたその時に見たアキの明るい顔に惹かれ、黒澤アキが自分にとっての一番になる。
黒澤アキ
・缶詰にハマって、色々な缶詰を楽しんでいる。
花(黒猫)
・左右に揺れると喜びの感情。勢いよく揺れると怒りの感情。俯くと悲しい感情。




