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岸サヤカはツンデレのつもりでいる  作者: 夢乃間
二章 暗闇からの招き手
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迷い猫 四

迷い猫の最後です。

私は今、店の裏の個室で黒猫と共にルーさんの準備を待っている。なんでも、これからやる事に必要な物を取ってくるだそうだ。体温計とかかな?・・・まさか、コーヒーじゃ、ないよね?


「マズい・・・また怖くなってきた・・・。」


あの不可思議な現象以上の恐怖は無いと思ってたけど、よくよく考えたら身近にあったな。ルーさんのコーヒーという代物が・・・。


ニャー。


「・・・お前だけは、お前だけは飲ませないようにしてやるからな。」


太ももの上で座っている黒猫を撫でながら、この子だけは守ろうと私は誓った。


「お待たせ。いやー、まさか通帳入れてる所の金庫にあるなんて!・・・どうしたの?そんなに警戒して?」


「いや、これから飲まされる物に対して怯えているだけです。」


「飲む?・・・あ、いや違うよ。コーヒーじゃないから。っていうか、私のコーヒーはそんな怯える程不味くはないからね?」


「口で言うならどうとでもなりますよ。」


「流石に悲しくなってくるからそこら辺でやめてくれる?・・・そうじゃなくて、私が探していたのはこれよ。」


すると、ルーさんは右手の中指に着けている指輪を見せてきた。その指輪は緑色の宝玉が嵌められた変わった指輪だった。


「これは昔使っていた物でね。詳しくは言えないけど、こっちにはいてはいけない存在を祓う為に使う指輪なの。」


「つまり・・・この子を?」


「そう。まず、あなたの状況を説明するわ。あなたは本来見る事が出来ない存在を見てしまった。その黒猫、もう死んでいるのよ。」


「・・・は?」


ニャー。


この子が、死んでる・・・でも、現に私の目には見えるし、触れる事も出来る。それなのに、もう既に死んでいるなんておかしいだろ・・・。


「信じられない?じゃあ、どうして私には見えないのかしらね?」


「それは・・・それは・・・。」


反論しようにも言葉が出ない。どう言えばこの黒猫が死んではおらず、まだ生きている事を証明出来るのか。何故ルーさんには見えないのか。その答えは、私自身も知らないままだ。


「本来、死んだ者は肉体から魂が離れて、こっちの世界から向こう側の世界に移る。けど、稀に強い怨念や悲しみで、こっちに残ってしまう事があるの。その黒猫は何かの理由で向こう側の世界に行けずにいるの。」


「・・・でも、だとしたら私が見えているのって―――」


「見える事自体は珍しくないわ。視界の端に見えたとか、写真やビデオに映ったとかね。けどね、あなたの場合はハッキリと姿が見えて、その体に触れられる。そんな事、普通はあり得ない事なのよ。」


「そう、なんですね・・・それじゃあ、私があの不可思議な現象に遭ったのって、この子の仕業なんですか?」


「半分はそうね。というのも、さっき言った通りその黒猫は死んでいるの。本来いなければいけない場所にいないから、向こう側の世界の方がこっちの世界に侵食し始めていたの。あの時、あなたが外の世界に完全に出ていれば、もう戻ってこれなかったわ。」


分からない・・・ルーさんが言っている事はどこか宗教ぽかったり、偽の霊媒師の言葉みたいで、どうにも理解出来ない。この子が死んでいて、この子の巻き添えで私まで死んでしまう所だった・・・そんな事、信じられるはずがない。

きっと、ルーさんは嘘を言ってるんだ。それっぽい事を言って、私を怖がらせようとしている。あの不可思議な現象だって、私の夢だったに違いない。

そうだ・・・きっと、そうなんだ。


「・・・まだ信じられない?」


「・・・はい。」


「それじゃあ、確かめてみる?」


「え?」


そう言って、ルーさんは窓のシャッターを上げた。窓の外は真っ暗だった。今は何時なんだろう・・・いや、違う・・・。


「何も・・・無い・・・?」


窓に近付いて、外をよく見てみるが、明かり一つどころか、物がある気さえしない。


「なんで・・・だって私はあの家から・・・!」


「あくまで君をこっちに引き寄せただけだよ。まだ君は、こっちと向こう側の世界の狭間にいる。でも安心して。ここに置いてある置物達が侵食から私達を守ってくれている。」


「それじゃあ、あれは・・・あれは夢じゃないの・・・?」


「紛れもなく現実だよ。これで信じた?」


怖い。まだあの不可思議な現象が起きる世界にいるのも怖いけど、それよりも、この状況で笑っていられるルーさんが怖い。まるで何度もこういった場面を乗り切ってきたかのような余裕がある。


「君は体も魂も生きてるんだし、元の場所にいないと。その為にも、君が今抱きしめているはずの黒猫を祓わないと。」


「・・・この子は、どうなるんですか?」


「さぁね。私は狭間に何度も訪れた事はあるけど、向こう側に渡った事は一度も無い。どういう世界で、何があるのかすら、一つも分からないの。」


「この子を・・・この子も一緒に私達の世界に戻せないんですか!?ほら、映画とかで幽霊と一緒に住むみたいな話が―――」


「アキちゃん。それは映画や本だけの話なの。ああいうのは都合のいいように変えられるけど、現実には一本のレールしか敷かれていない。そのレールというルールに従って、私達は生きて、死ぬ。救いなんて、そんな優しいものは無いのよ。」


そう言ってルーさんは私の頭を撫でた後、部屋の中心に立って右手を前に突き出した。すると、右手の中指に着けていた指輪の宝玉が浮かび上がり、緑色の光が発光して部屋中を照らし出す。


ニャー・・・。


「っ!?」


鳴き声だけで、この子が弱っている事が分かった。あの指輪の宝玉の光が、この子を弱らせている。


「ま、待ってぇ!!!!!」


「浄化術・水面の花。」


突然、発光していた宝玉が更に眩い光を発した。途端に視界は真っ白に染まり、何も見えず、何も聞こえなくなった。


ニャー。


そんな中、あの黒猫の鳴き声がどこからか聞こえてきた。私は黒猫の姿を見ようとグッと体に力を入れ、後ろを振り向いた。


「・・・。」


そこには、窓から見える夕陽に照らされた街の様子があった。もうそこにはさっきまでの暗闇に染まった外の世界は無く、家や人が当たり前のように存在している。


「戻って・・・きたんだ・・・。」


あの狂った世界から抜け出せたはずなのに、全然嬉しく思えない。ただジッと、沈む夕陽を見る事しか出来ずにいた。


「あの子は・・・行っちゃったんだ。」


自分でも分かるくらいに、涙が流れているのが分かる。それを拭う事も、泣き叫ぶ事も出来ない。まるで絵に描かれえた人物のように、今の私は何も出来ずにいた。


「アキちゃん。」


ルーさんの声で、動けずにいた私の体が動き始めた。後ろを振り向き、ルーさんの方を見ると、ルーさんは白く透明な花びらをした花を持っていた。


「その花は・・・?」


「浄化術・水面の花。それは対象の魂を花に変える術。別のレールが無くても、立ち止まる事は出来る。この花は君が持つべきだ。」


差し出してきた花を受け取ると、この花からさっきまで腕の中で感じていた黒猫の温もりを確かに感じた。


「この花は君があの子の事を忘れるまで咲き続ける。だから、大切に憶えてあげてて?」


「・・・はい!」


花をおでこに当て、あの黒猫の事を想う。出会い、最悪な体験、温かな存在、短いけど共に過ごした時間・・・私は忘れない。


きっと、この先も。

黒澤アキ

・花の中でも、白く透明な不思議な花が一番好き。


黒猫

・生前、勤め先で亡くなった飼い主を探しに外へ出たが、結局飼い主とは会えず、道の途中で亡くなってしまう。首輪にあるネームプレートには飼い主の名前が書いてあったが、本来の飼い主とは違うクロサワアキと書かれていたのは、アキが亡くなった飼い主に似ていたから。


ルー・ルシアン

・カフェをやる前に、祓い屋の祓い士として活躍していた。しかし、彼女の死がキッカケで祓い屋を辞め、彼女がやりたかったカフェを営む事に。


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