迷い猫 二
ここからホラー要素が入っていきます。
道で出会った黒猫を保護した私は、とりあえず猫の体を洗う事にした。シャンプーは人間用しかないので、ボウルに溜めたぬるま湯だけを使って洗っていく。
「熱くないか?」
ニャー。
「はは、そうかそうか。」
拾った時から気付いていたが、この黒猫は私の言葉に対して鳴き声で返してくる。賢い猫だ、人の言葉が分かるのだろう。それに家に着くまで抱っこしていたが、私の腕の中から一度も逃げようとする素振りを見せなかった。
賢くて懐っこい、こんなに良い子が捨てられるなんて信じられない。
「・・・よし!さぁ、次はタオルで拭いてやるからな。」
ニャー。
タオルで濡れている場所を拭いていくと、とても弱弱しい体である事が再確認出来た。体は痩せ細っており、お腹部分を触るとアバラ骨の感触がハッキリと分かる。
(飯を食えていなかったのか・・・可哀そうに、こんなに痩せちまって。)
タオルで包み込んだ黒猫を抱っこして、そのままリビングへ運んでいき、ソファの中央に下ろす。
「とりあえず飯にしよう。腹、減ってるか?」
ニャー。
「そうか!それじゃあ、待ってて。」
とは言ったものの、猫って何を食べさせればいいんだろう?コンビニから買ってきた物が入った袋の中身を漁り、ツナ缶と牛乳を取り出した。それ以外の物は猫が食べるには刺激が強すぎる為却下だ。
さて、どのくらいの量を出せばいいんだろう?腹は減ってると思うから沢山食べると思うけど、いきなり沢山食べさせるのも体に悪い可能性もある。
「サヤカに聞いてみるか。」
携帯を取り出し、サヤカに電話を掛けてみる。
プルルル・・・プルルル・・・プルルル・・・
電話に出ない。寝てるのかな?時間も3時で丁度眠くなる時間だし。それじゃあ、ルーさんに掛けてみよう。あの人、結構色々な知識があるから猫の育て方とかも知ってるかも。
プルルル・・・プルルル・・・プルルル・・・
ルーさんも出ない・・・今日は定休日じゃないし、やってると思うけど。ふと窓を見ると、外の状況はさっきまでよりも悪化しており、雨だけでなく風も猛威を振るっていた。今日は本当に酷い天気だ。こんな風に悪化する前に買い物も、あの黒猫も拾えたのは幸いだったな。
「っと。早く用意してやらないとな・・・このくらいか?」
とりあえず二つの小さな皿に適当な量でツナ缶と牛乳を入れる。皿に盛ったツナをスプーンで細かく潰してから黒猫の下へ持っていき、ソファの上に置いた。
「さぁ、食えよ。不味かったら残していいからな。」
ニャー。
黒猫はゆっくりと皿に顔を近付け、皿に盛られたツナの匂いを嗅いでから一口食べた。するとそこから勢いを急激に増し、顔が皿につくぐらいがっつき始めた。
「良い食いっぷりだな。」
猫が何かを食べている姿なんて初めてだったけど、結構可愛いものだな。よくデブ猫の写真をサヤカに見せてもらう事があるけど、私もこの子をデブ猫にしてしまうかも。
夢中になって見ていると、あっという間にツナが無くなり、黒猫は空になった皿を見た後に私の目を見つめてきた。あーはいはい、おかわりね。テーブルに置いていたツナ缶の残りを皿に移し、またそれを細かく潰して黒猫の前に出した。結局全部あげてしまったけど、大丈夫だよね?
おかわりのツナも食べ終え、牛乳も飲み干した黒猫は今、私の太ももの上で眠っている。そんなこの子の背中を優しく撫でながら、私はサヤカとルーさんに電話を掛け続けていた。
プルルル・・・プルルル・・・プルルル・・・
「・・・出ない。」
あれから何度も掛け続けていれば、どちらかが出てくれると思ってたけど、どちらも電話に出てくれなかった。メールも送ってみたが、返信は返ってこない。
「寝てる・・・とは、考えられないな。」
窓から外の状況を見る。外は更に悪天候になり、まだ午後4時だというのに真っ暗であった。そんな暗闇の中、激しく降り落ちる雨の音や、窓をガンガンと叩く風の音が鳴っている。
こんなうるさい中、寝られるなんて考えられない。
「どうしたんだろう、二人共・・・。」
それにしてもうるさい。この雨と風はいつまで続くんだ?そう思い、私は天気予報を観ようとテレビの電源を点けた。
ザァァァァァァァァ!!!!!
「うわぁ!?」
テレビの電源が点くや否や、画面一杯に砂嵐が移され、心臓が跳ね上がる程の爆音が鳴り響いた。反射的に電源を切り、太ももの上で眠っていた黒猫の様子を伺った。黒猫はぐっすりと眠っている。
「・・・なんか、おかしい。」
黒猫を優しく抱き上げ、ソファの上に移し、私は二階の自分の部屋に上がっていった。部屋の扉を開け、電気を点ける。そこには何の変哲もない、いつもと変わらない自分の部屋がある・・・いや、違う。
「窓・・・消えてる・・・。」
サヤカの部屋が見える窓が、消えていた。その窓があった場所に手を当ててみたが、ただの壁だった。
「ちょっと・・・ちょっと待ってよ!?」
嫌な予感を覚えた私は部屋を飛び出し、今度は玄関へと向かった。
「・・・ははは・・・なんなの、これ・・・。」
外に出る為のドアが、消えていた。正確に言えば、ドアがあった場所が壁になっていた。
ニャー。
「っ!?」
猫の鳴き声が聞こえ、バッと後ろに振り返ると、そこにはさっきまで眠っていたあの黒猫がちょこんと座っていた。
「どうしよう・・・ねぇ・・・どうしよう・・・!」
私は、体験した事も無い不可解な現象にすっかり怖気づいてしまい、自分よりも何倍も小さな体の黒猫に縋りつくように抱きかかえた。
岸サヤカ
・ホラー映画やお化け屋敷は得意だが、本当の怪奇現象が起きると弱弱しくなってしまう。
黒猫
・賢く、人懐っこい。人の言語を理解している。




