迷い猫 一
ホラー回です。また何話か続きます。
今日はあいにくの雨だ。それもかなり強い雨で、今朝からテレビでは外出を控えるようにと警告されていた。
せっかく休みだったのに、これじゃあサヤカとどこかに遊びに行くどころか、外へ出る事さえ出来ない。昨日まであんなに晴れていたのに、なんで今日いきなり荒れたんだ?
「・・・はぁ。昼ご飯でも食べるか。」
朝から特に何もしてはいなかったが、不思議と腹は空くものだ。自分の部屋からキッチンに行き、何を食べようか考えながら冷蔵庫を開けた。
「・・・ん?」
冷蔵庫の中は見事なまでに空っぽであった。小腹を満たすような物さえ無く、あるといえば新品のマーガリンだけだ。
しかし、マーガリンはあれど、肝心のパンが無い。パンが無ければ焼けばいい・・・と言いたい所だが、あいにく私はパンの作り方も材料も知らない。
「・・・買いに行くか。」
サヤカの家に行けば何かしらの料理を振舞ってくれるかもしれないけど、流石に突然お願いしたらサヤカが困ってしまう。それに冷蔵庫がここまで空っぽだと、冷蔵庫がただの場所を取るデカイ置物になってしまうし、やはり買いに行くしかないな。
カッパを着て、玄関先にしまっていた長靴を履き、準備は完了。いざ、買い物に出かけよう。
ザァァァァァ!!!
扉を開けた途端、さっきまで小さく聴こえていた雨の音が大きくなり、まるで昔テレビで見ていた砂嵐のような音が耳から頭の奥にまで響いてきた。
酷いとは聞いてはいたが、ここまでとは。これじゃあ、店がやっているのかどうかも怪しい。多分コンビニならやっているかもしれないが、スーパーで買うよりも高くついてしまう。
「・・・ま、今日はしたかないか。」
この雨、冷蔵庫の状況からあまり贅沢は言えない。カッパのフードを被り、私は走り出した。激しく降り注ぐ雨が私の全身を打ち、いつもは色々な音や声が聞こえていたのに、今は雨の音しか聞こえてこない。外を出歩く人はもちろん、道路を走る車さえ見当たらない。まるでこの世界に自分しかいないような錯覚に陥った。
しばらく走り続けていくと、目的地のコンビニの看板が目に入り、明るく光るコンビニの看板が嬉しく思ったのは初めてだ。店内に入る前に、少し屋根が飛び出て雨を凌げる場所でカッパを脱ぎ、カッパを勢いよく三度振り下ろした。
カッパについた雨を振るい落とし終え、ようやくコンビニに入ると、レジ前に立っていた店員が私の姿を見て目を丸くしていた。
「い・・・いらっしゃい・・・。」
「・・・こんばんわ。」
カゴを取り、冷凍食品やカップ麺を適当に突っ込み、今日みたいに冷蔵庫が空っぽになった時の為に缶詰も何個か買っておこう。
ある程度カゴに入れ終え、会計をしにレジに持っていくと、やはりというか当然というか合計金額が四桁を超えていた。支払いを終え、パンパンに入ったレジ袋を手に外へ出た。まだ雨は止むことはなく、勢いも弱まってはいない。
再びカッパを着て、レジ袋の持ち手を縛ってから私は走り出した。
(今後は冷蔵庫の中を度々見ておこう。)
そう思いながら帰り道を走っていく。その時。
ニャー。
猫の声がハッキリと聞こえた。雨の音以外が聞こえ、私は思わず足を止め、猫の声が聞こえた方へ視線を向ける。
電柱の傍、ずぶ濡れになっている段ボールの中に、黒い猫がちょこんと座っていた。
「猫?」
私は自分が言った事を不思議に思った。どこをどう見ても猫のはずなのに、この猫を目に捉えた瞬間、私は何故かこの猫が【猫のような何か】だと思ってしまった。
段ボールにはマジックで何か書かれていたようだが、雨で濡れて字はグチャグチャになって読めなくなっている。
まいったな、こんな雨の日に、こんな風に捨てられていたんじゃ見捨てられなくなってしまう。
「・・・よし。」
ここで私が見つけたのも何かの縁だと考えよう。それにどうせ、家には私以外誰もいないんだし。
「お前、私の家に来るか?」
ニャァー。
猫はまるで私の言葉が分かっているかのように鳴き声で返事を返し、段ボールから飛んで出てきた。
持っていたレジ袋の持ち手を腕に通し、猫を抱き上げて再び私は家に帰る道を歩き始めた。
「こんな日に捨てるなんて、酷い飼い主もいたもんだな。」
ニャー。
「お前もそう思うか?えーと、名前は・・・。」
猫の首には首輪が付けられたままであり、首輪には銀色の小さなプレートがくっついており、そこには名前が書かれていた。
「クロサワアキ・・・え?」
ニャー。
猫の名前は、私と全く一緒であった。
黒澤アキ
・一人では大きすぎる為、もっと小さい冷蔵庫に買い替えたいと思っている。
クロサワアキ
・緑色の眼をした黒い猫。なぜか黒澤アキと同じ名前である。




